僕の彼女は、帰国子女

 私はダレ、ここはドコ?

 そんな定番のセリフを、生きている間に聞くことになろうとは、正直なところ思っていなかった。それも、自分の部屋だぞ? 普通に考えれば、見ず知らずの人が突如として現れて、衝撃によって本棚がひっくり返り、部屋の中がおもちゃ箱状態へと変化する。

 誰が片付けるんだよなんて、180度ひっくり返った視界の中で考えながら、僕は目の前で起きている現象を観察する。冷めた人間だと、周りに友達にも評価されているし、こういう時こそ冷めた視線で、冷えた頭のままで、現実を受け止められるようにいたい。

「ほぇー。ここはどこですかー? そして、私はダレですかー?」

 そんな声が聞こえるのは、崩れてしまった本棚の下から聞こえる。中々に可愛い声だし、とりあえず助けてあげたいところだけど、このままだと悩むことなく僕がその上に落ちてしまう。どうにが抵抗したいところではあるけれど、宙を舞っているだけの人間に何を求めるのか。

 まぁ、本の下敷きになっているのが、超絶的な美少女で、ラッキースケべ的な展開が待っているのなら努力するけれど、無理だよなぁ。

 だから、そのままズドンと、遠慮なく落ちてしまう。間の悪いことに頭から、真っ逆さまに本の山に突き刺さる。かなりの衝撃と痛みが僕の顔面を襲う。

「痛い……」

 首への衝撃もかなりなもので、不恰好な状態で落ちてしまったというのに、簡単には起きられない。そもそも、結構なところまで埋まってしまっているので、腕を動かすのにすら苦労する。そんな状態で、目の前に顔があるのだから、すばらしくビックリできる。いや、声にならない程度に、まんがの表紙でもあるのかと、思わず疑ってしまった。

「あら、優くん?」

「はい?」

 ついでに、自分の名前まで呼ばれたとあっては、流石の僕も冷静ではいられない。差し込んでくる光だけで判断するなら、可愛い顔をした女の子。ちょっと肌の色が変わっている気がしないこともないけれど、目が丸っこいのは僕で気には得点が高い。ただ、その瞳は燃えるように真っ赤な色をしており、瞳孔も縦に割れている。よくみれば、額には小さな角が生えているような気もするし、ちょっと人間ではない感じがする。

「えーと、どこかでお会いしましたかね?」

 ここまで特徴的な相手であれば、一目見ただけでも忘れられないだろう。それなのに覚えていないとなると、会ったことがないと、そう考えるのが普通なんじゃないだろうか? そもそも、ごく普通の高校生でしかない僕に、こんな容姿の知り合いはいない。

「私のこと、忘れたの? もしかして、分からない系?」

「うん、知らない」

 泣かれるかもしれない。そのままを伝えるべきではないかもしれない。

 けれど、僕には彼女に見覚えがなかった。


 まぁ、この出会いが後のドタバタを引き寄せるんだけどね。

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