狐面の夕暮れ
鳴り響く音が止まない。僕の頭の中で鳴り響く、昨日聞いた音が消えない。
どうしてなのかは分からないし、今までにこんなことはなかたんだけど。これは、病気なのだろうか? それとも、みんなは普通にあることで、僕がやっと患った感じなのだろうか?
まぁ、良い。経緯なんて、正直なところどうでもいい。
今重要なのは、この音を止めることにあり、僕の脳内に静寂を取り戻すことにある。僕は、賑やか過ぎる場所は嫌いなんだ。それなのに、ずっと騒音に近い音を聞かされ続けて、うんざりだよ。
もっとも、音を止める手立てなど思いつくわけもなく、病院で相談するわけにも行かず、この音が聞こえた。僕の中に音を植えつけた場所へと、足を進めている。
その場所は、立ち入り禁止区域の中。ちょっと前にボヤ騒ぎがあり、今も黄色いテープが張り巡らされている、入ってはいけない場所。
けれど、僕にとって見れば立ち入り禁止なんて札が、これ見よがしにぶら下がっていれば、入って見たくなるものだろう。中に何があるのか? 中で何が行われていたのか?
僕達の好奇心を止められるものなど折らず、僕らは2人で乗り込んだ。
そう、思い出したぞ? 僕は友達とここへ来たんだ。1人では怖いからと、友人を誘っていたんだね。
「タケル君、どこにいるの?」
ほら、噂をすれば何とやらだ。相手のことを考えていたときに声が聞こえるだなんて、これはいいことがあるに違いない。
「ここにいるよー。早くおいで」
音しか聞こえない友人。音だけの世界で生きている友人。
その2人をめぐり合わせることこそが、僕の目的で。僕が望んだことだったはずなのに、どうしてこんな結果が訪れてしまっているのだろう?
そもそも、2人をめぐり合わせる打なんていっているけれど、今の僕にとって記憶にある少女は1人だけ。名前も思い出せないようなレベルでしかなく、その姿はかすんでしまっているけれど、それでも僕は諦めるわけには行かないんだ。
どうして? どうして、そんなに頑張るの?
心のどこかから響いてくる、今の私をとめようとする声。後悔をしないように、保守的になるように進めてくる。
けれど、僕の心は決まっているから。そんな声に巻き込まれて、だまされて、足を止めるようなことはしない。
幾重にも張り巡らされたテープを潜り抜け、目的の場所へとたどり着く。別に障害があったわけでもないけれど、ここにくるまでに随分と無駄な時間を過ごした気がする。
まったく、ここにくれば全てが分かるというのに、他の人間がいないんだな。誰も、事実を追いかけたりはしないのだろうか? 寂しい限りだよ。
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