講師はかく語る
君達にとっての国家というのは、どういうものだろうか?
いや、なに。国民あっての国家だという政治家もいるし、国家があるからこその国民だという政治家もいるだろう? 今僕がここで聞きたいのは、君達はそのどちらかの意見に属しているか、もしくはまったく別、第三者としての意見を持っているのか、それを聞きたいんだよ。
ん? そうだな、別にこの質問に対して、僕は教師としての回答は用意していない。自由に考えてくれて構わないさ。唯一、考えないということさえ除けば、どんな意見でも認めよう。
数を出してくれたまえ、これは実験なんだ。国家というものが、法律と呼ばれるものが、我々の生きている社会というものが、どれほどに強固なのかという、強度を測るための質問だよ。
数が多く出てくるものもいるだろう。それはすばらしい事だ、沢山のアイディアを持てるのであれば、それだけで人材としての価値が出てくる。
けれど、あまり数ばかりに目を奪われているようでは、オリジナリティからは遠ざかる傾向にある。そこをきちんと理解して、安売りをしない程度に自分を売り込んでくれたまえ。
ふむ、確かにそれもありだろう。1つの意見しか出てこなくても、具体的に、深い部分まで説明できるのであれば、それも有用だ。研究者として、探求者としての道が開けているのかもしれないね。
それはとても楽しい道かもしれない。自分の興味のあることに、自分が輝ける場所に、ただひたすら求め続けるのは、人間として正しい姿だ。しかし、視野が狭い。
これは、どうしようもないことだが、1つの出来事に固執してしまうと、視野が狭くなってしまう。そんなことはないと、声を大にして叫ぶ人もいるだろう。自分は広い視野を持っていると、反抗するかもしれない。
別にそれは構わないさ。その姿勢自体が凝り固まった思想によって生み出されていると、理解できていないだけさ。だからこそ、視野が狭いといわれているのに、研究者諸君は気付かないようにしているふしがある。
そしてだ、一番良い回答は何か? 僕の欲しい回答はなにか?
そんなものはない。僕はただ、君達に質問をしているんだよ。教師としての回答は持ち合わせていないと、準備していないと最初に説明しただろう?
僕は国家というものが、君達にとってどのような意味を成しているのか、それが知りたかっただけさ。だから、どの答えも正解で、正しくない。不正解だけど、間違っていないよ。意見さえ出してくれれば、この授業に関する単位はあげるさ。口頭でも、文書でも、メールでも、好きにしたまえ。
さぁ、好きに語りたまえ。さぁ、好きにつづりたまえ。さぁ、好きに描きたまえ。君達の常識内の意見、常識外の意見をどんどんと僕にくれたまえ。
その状況こそが、僕の求めている世界なんだ。僕が理想としている、社会なんだ。それを証明するために、君達の意見を僕に貸してくれ。
自由に意見を出せるこの空間こそ、この上なく硬さが無く、磐石でもなく、柔らかい。
何でも産み出すくせに、何も受け入れられない、今の社会の縮図なのだから。
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