出荷体制

 アイドルってどんな存在だと思う?

 キラキラと輝いている存在? それとも、努力の果てにスポットライトを浴びている、体育会系かしら?

 ふふ、みんな夢ばかり見ちゃって。そんなの、ただの作り話に決まっているでしょ?

 もちろん、そうやって輝いている子がいるのは否定しないし、イジメられたり、ドロ臭かったりしながらも、成功を掴んだ子がいるのも事実よ?

 けれど、忘れてはいけないわ。時々いるでしょ? 私みたいに、どこから出てきたかが分からないアイドルって。

 そう、別にこれも不思議な話ではないの。スカウトされている子はいるし、地下アイドルと呼ばれる、アングラなところから実力をつけている子もいるわ。正統に、オーディションを抜けてきた子もいる。

 けれど、私はそうじゃないの。私は彼女達と違って、そんな綺麗な存在じゃないわ。

「私は、アイドルになるしかなかったんです。その為だけに、生まれてきたのですから」

 私は、アイドルになりたかったわけではない。私はアイドル以外の選択肢を持っていなかった。

 幼い頃に孤児となり、施設に引き取られた私。そこでの生活は楽しくも、規律に厳しいところで、違和感を持つことなく、自分の人生にレールが引かれていることを、レールが存在していることを、受け入れてしまった。

 だから、毎日練習させられていたのも受け入れたし、芸能界という世界を選び取るように先導されていたのも、受け入れた。

 だって、おかしいのよ。普通、施設は経済的には厳しいのだから、嗜好品である雑誌なんて買えるはずないの。そんなものよりも、食料品や衣料品、常備薬など先に揃えておくべきものがある。それら全てを揃え、学費を抱え、そんな状態で雑誌を購入できるなんて、スポンサーでもついてなければ無理でしょ。

 だから、私はちょっと気になってしまったの。どうして、そんなにお金があるのか、ちょっとだけ調べてみたの。

 結果は簡単だった。不明瞭な資金の流入があるのではなく、物資として流れてきていた。企業が購入し、その納品先が孤児院に隣接している、倉庫だっただけ。

 別に、その企業が犯罪に関わっているわけではない。子供達を売り飛ばしているような、小説の中にしかない存在でもない。

 ただ、関わっている業界が芸能界であっただけ。恩返しをするには、その企業へ少しでも貢献するしかなかった。

「私は、アイドルになれました。これで良いんです」

 やれることなんて少なかった。選べる選択肢なんて、1つしかなかった。

 私にやれることで、みんなの為になること。孤児院にいる、妹と弟の為に、出来ること。

 それがアイドルだっただけ。他のものを全て捨ててでも、どうにかしなければいけなかっただけ。

 だから、私にはアイドルとしての選択肢しかなかった。

 友達なんて要らない。恋愛なんて、歌の中ですれば良い。勉強は最低限やっていれば、キャラ付けとしては十分。

 それよりも、ダンスの練習をしなければいけない、ボイスレッスンが必要になる。

 そこの為に、時間を消費し続けた。私を消費し続けた。 


 そうして、夢は現実になる。

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