ネコの目

 全国旅行。バイクでのツーリング。

 自由気ままな旅と考えれば、いいものであり。根無し草がふらふらしていると見れば、世間的にはマイナスイメージしかもたれない。

 特に、女の一人旅となれば、正直なところ風当たりは強かった。

「おぬし、女と呼べるほど成熟しとらんじゃろ? よく補導されなかったものよ」

「補導とか、ネコさん相変わらず詳しいね」

 少女。うん、成人もしていないのだから、まだそう名乗っても良いよね?

 20歳になる前に、全国を回って見たかった。日本という国は狭いからこそ、全ての土地を訪れて、そこにいる人たちと関わって見たかったの。

 まぁ、ひどい目にも会ったし、かなり疲れたから、もう1周しようとは思えないけれど、いいことだってあったよ?

「ワシはここから動いたことはない。ただ、人間社会の流れを無視していけるほどでもない。だから、多少のことであれば、知っておる」

 そんな旅の報告をしているのは、昔から知り合いのネコさん。街角の、お地蔵様の傍にいつもいる、どこかへ行っているのを見たことがない、不思議なネコさん。

 この歳になって考えてみれば、おかしいところがいっぱいあるのは分かっているけれど、仲良しさんだからそこらへんは気にしないようにしていたい。

 変な質問をしたせいで、お喋りしてくれなくなったりしたら、悲しいもん。

「しかし、本当に各地を回ってきたようじゃな」

「ネコさんには、そういうのも分かるの?」

「ワシみたいなのは、この国の各所におる。そいつらの傍を通れば、においみたいなのがつくからな」

 ネコさんみたいな存在。私自身、見覚えはないけれど、近くによるくらいはしたのかもしれないね。

 それにしてもにおいが付くとか、女の子に言っていいことじゃないよ? ネコさんだから、笑って流すけど、男の子に言われたら、絶対に怒ることなんだよ?

 そこらへんは、人間じゃないってことなのかな。

「それにしても、人間は不思議なことをするな。旅になぞ出なくとも、この街でも十分に広いだろうに」

「そりゃ、ここは東京だから、不便に思うことなんてほとんどないよ」

 東京に生まれて、東京で育って、地方の子からは羨ましがられて。そんな人生しか歩んでいなかった。

 だから、外へ飛び出してみたの。学校に休学届けを出し、1年間ふらふらするって両親にも告げて。

 まぁ、かなり怒られたけれど、問題はないよ。

 私にとって、この1年間の経験は、必ず活きてくるはずだから。今後の人生に、いいことをもたらしてくれるはずだから。

「不便ではないけれど、面白いと思えることは外にもいっぱいあるんだって、経験したかったんだ」

 日本は狭い。

 けれど、そこには沢山の人がいて、沢山の自然があって、沢山の物語があった。

 それにふれて、経験することで、私は大きく成長できた。

 だから、明日が始まっても、逃げ出さずに踏み出せる。朝日が昇るのを、嬉しいと感じられる。

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