少女が降り注ぐ世界

 どさりと音がして、目の前に何かが降ってきた。そう、認識の中に入ってくるまでは、それが何であろうとも、物でしかない。

 例えそれが、自分の大切なものであったとしても、大切な人だったとしても、同じようなことしか考えられないのだろう。いや、大切なものであればあるほど、認識が遅れるのかもしれない。

 そんな感じで、僕の目の前には者が降ってきた。僕にとって大切な、掛け替えのない存在であるはずの、生徒が降ってきた。

 冗談だと思うかもしれない。僕も、冗談であって欲しいと願っている。

 けれど、目の前にある現実は変わることなく、そこにただ存在している。

「せんせー、びっくりした?」

 唯一の救いがあるとすれば、彼女が恐ろしく丈夫なせいで、屋上から降ってきた程度では死なないこと。例え死んだとしても、10秒ほどで復活することだ。

 細かい家庭事情には踏み込んでいないから、詳しいことは僕自身も分かっていない。

 けれど、彼女が父子家庭であり、父親に結婚履歴がないことくらいは把握している。その上で、科学者であり、人類工学と生命神秘学とを掛け合わせたような学者である、彼女の父親によって人工的に作られた命であると、すごく大雑把な説明は受けた。

 普通、それで納得しろというのは不可能だと思うけど、学生時代からあいつに振り回されている身としては、この程度で驚いたりはしない。心臓に毛くらい生えてしまう。

「びっくりはしたが、止めなさいと言ってるだろ?」

 常識、良識。人に迷惑をかけないことと、友達を巻き込まないことは理解しているみたいだけれど、僕達教師は友達の沸くから外れるから、遠慮しない。

 空から落ちてきたり、地面から出てきて見たり、窓ガラスを突き破って見たりと。おおよそ、女の子の遊びとは呼べないものへ、全力で打ち込んでいる。

 まぁ、男の子でも無理だけどね。

「えへへ。今日もパパが遅いから、遊んでるんだよー」

 コレくらいの子供は、こちらの話を聞かない。そこに関しては、この子も変わらない。突拍子もなく、脈絡もなく、不思議なタイミングで言葉が飛んでくる。

 こちらが理解する前に、別のことに興味を移し、気付けば遠くのほうで遊んでいる。

 子供とはそういうものだと理解しようとはしているけれど、中々難しい。

「遅くならないうちに、ちゃんと帰るんだぞ?」

 いくら丈夫だといっても、子供であることには変わりはないのだから、ちゃんと面倒を見てあげなければいけない。

 それが僕達教師の役割を与えられた、職員の仕事なのだから。

 平穏から遠い存在である彼女を、日常へと帰してあげよう。


――まったく、騒がしい世界だね

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