理由 side隼人1

 レイが王都を出て、数日が過ぎた頃、隼人達は森の中にいた。

 隼人達の目的はオークだ。レイが狩りを短期集中で行っていたが、オークの特徴はそのデカイ図体に見合った怪力と繁殖力だ。レイの狩りによって数は減ったが、それもある程度回復している。この繁殖力のおかげでオークの数は減るどころか増える一方であり、オークの生息地が近くにある街のギルドにはいつもオークの討伐依頼が貼り出されている。


 隼人達は現在4人パーティーを組んでいる。不知火 隼人、近藤 大吾、仲原 恵美、美智永 柚子の4人だ。同じパーティーだった神代 太一はレイと同じ様に1人で旅に出た。4人もちゃんと理由を聞いて納得しているので、死なないよう安全にとだけ言って送り出したのだ。


 隼人達は、レイと神代が1人で旅立つので、他の人をパーティーにと思ったのだが、他のみんなもゲイルと模擬戦した時のパーティーで組んでいた為、余りがいなく隼人達だけが4人パーティーになってしまったのだ。


 そんなこんなで、4人で依頼を受けてお金を稼ぎ、何とかやれてきているということだ。


「今はオークの姿見えないし、少し休もうぜ」


 最初に切り出したのはリーダーを務めている隼人だ。リーダーといっても公の場でだけだ。


「確かにそうね。休める時に休んでおきましょう」


 実質的にリーダーを務めているのは、美智永だ。レイの次に城の図書室の本を読んで知識を付けていた為、レイを除くクラスメイトの中で一番この世界に詳しい事になる。そのため、基本的には美智永の言う通りにしているのである。


「オークは楽だな。まだあの狼の方が面倒くさかったぜ」


「オークは1体1体が大きくて動くのも遅いから。ガルルみたいに電気を使ったり群れで来たりしない分、倒しやすいと思うの。近藤君みたいに大剣で大振りだと動きが遅いオークの方が攻撃が当てやすいしね」


「ああ、そっか。だからか」


「そうね。倒しやすいからこそ、私達は安全に狩りが出来てるって事だし」


「なるほどなぁ。魔物の特徴を把握すればどの魔物が如何に楽に倒せるかわかるってことか。さてと、休憩はここらで終了みたいだ」


 隼人の視線の先にオークの身体が見えた。


「いつも通り安全第一にな!」


「おう!」「ええ」「うん」


 前衛に隼人、中衛に近藤、後衛に仲原、美智永だ。仲原、美智永が魔法で支援し、近藤が後衛にまで攻撃をいかせないようにし、隼人が突っ込んで斬っていくというスタイルだ。


 オークは力が強いが動きが遅い分、当たらなければどうということはない。なので、苦戦するような事もなく、狩りを続けていられるのだ。これで数が減らないのだから良い経験値だ。


 見つけた最後のオークを倒し、倒したオークから牙を取って、死体を燃やす。これは本には書いてなかった事だが、オークは仲間の死体の匂いを嗅いで、そこまで来る性質がある。隼人達はその事を体験して、知っているため燃やしたのだ。


「4人でも結構疲れるってのに1人で行った神代と鉄条は大丈夫なのかね?」


「私も気になってたわ。隼人君と恵美さんは鉄条君と仲が良かったし、心配じゃないの?」


 2人の言葉に俺と仲原は苦笑いを浮かべる。


「それほど心配してないんだよな。神代の方が心配なくらいだ」


「私も」


「どうして?太一君と模擬戦で勝っていたけど、それでも魔物との戦いは模擬戦とは違うのよ?」


「あー、まあそうなんだがな。神代との模擬戦の時、鉄はかなり手加減してたし、冒険者になったその日にオーク狩りの依頼を受けて、結構な数の牙を取ってきたって聞いたしな」


「だね。鉄条君が本気出したら、ここら辺の魔物は殆ど敵なしなんじゃない?」


 初日にレイがした自重なしの記録は結構噂になっていたのである。


「そ、そんな強かったの?けど、鉄条君って初日から図書室に居たはずなんだけど……」


「あーそこら辺は秘密だ。許可なしで言うのはまずい」


「今の所知ってるのは私と不知火君の2人だけだしね」


 のちにレイに仲間が出来て秘密を明かすのだがそれを2人が知るのはまだまだ先のことだ。


「レベルは?レベルくらいなら聞いても大丈夫か?」


「まあ、多分大丈夫か?仲原、どう思う?」


「うーん、多分具体的な数字を出さなければ言ってもいいんじゃないかな」


「ん、そうか。んじゃ、近藤と美智永。今のレベル教えてくれ」


「俺は15だ」「私は17」


「模擬戦の時のレイのレベルは、今の2人のレベルより高かったぜ」


「「はあ!?」」


 この反応が普通だよなぁ。


「ちょっと待てよ。模擬戦ってやったの来てから2日目だぞ?それで17より高いのか?というか鉄条と一緒の洞窟に入ったから知ってるが、鉄条は昼の後は狩りに行かなかっただろ。何でそんなに?」


「私もあの時一番高いのは太一君だと思ってたんだけど……」


「何でかは秘密な。俺も神代が一番高いと思ってたけどな。ま、そんなわけで鉄の心配はあんましてないんだわ。レベル云々を抜いても1人の方が鉄は強いだろうし」


「今度鉄条に会ったら聞いてみるしかねぇか……。にしてもそんなにレベル上がるの早いならパパッと魔王くらい倒してくれて、帰れそうな気がするな」


「そうね。でも、私達も頑張らないとダメよ」


 そんな近藤と美智永の言葉に俺と仲原は再び苦笑いを浮かべる。


「ん?どうしたんだ?」


「いや、な。鉄に魔王倒してもらうって考えは諦めた方がいいと思ってな」


「そうだね。鉄条君はやりそうにないよね」


 俺と仲原の言葉に近藤と美智永は困惑する。無理もないか。みんな帰りたいと思って戦ってるしな。


「どういうことだ?」


「近藤と美智永はさ、何で元の世界へ帰りたいんだ?」


「そりゃあ家族、親が待ってるからな。帰りたいだろ」


「私も大吾君と同じよ。家族がいるもの」


「帰りたい理由は家族がいるから、ね。まあ俺もそれが理由なんだが……、鉄の両親はいないんだ。突然どっかに行って帰って来なかったらしくてな。だから鉄には帰るような理由が特にないんだ」


「……そうか」


「……そうだったのね」


「私達は昔から仲が良かったから、ある程度の事は鉄条君本人から聞いててね。鉄条君が魔王を倒さないとは限らないんだけど、多分倒さないだろうなって。他の方法とかは探してくれるとは思うんだけどね。なんだかんだで優しいから」


「だな。ま、そんなわけで魔王とやらは俺たちがやんなきゃいけないわけだ。頼めば力を貸してくれそうだけど、モチベーションを考えるとな」


「……なら、もっと頑張らなきゃな。休んでる暇なんてねえ!」


「そうね。頑張りましょう」

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