第15話 占い

 ミアに街を案内してもらって、ご飯も食べた。だいぶ夜も深まってきて、ミアも宿に戻ったので行動開始だ。今回は顔を隠している。装備もだ。こっちの情報を与えるとミアといる時に何かされるかもしれないからね。


 酒場はミアに案内してもらった時に見つけてある。なかなか大きいところだ。

 僕みたいな小さい奴が入ってくるとそれだけで睨まれる。僕だって好き好んでここに来たわけではないのだから勘弁してほしい。


 奥へと進んでいく。用があるのはここのマスターだけだからね。途中で、すっと横に避けると僕がいたとこのちょうど頭を狙って木剣が通過していった。『危険感知』のスキルが働いたのだ。この『危険感知』は血の針を弾いた黒服の血から手に入れた。優秀なスキルだ。

 木剣を投げた奴は無視して進むとまた木剣を投げてきた。二度目なので来た木剣を掴んで投げ返してやろうとしたら木剣を砕いてしまった。思った以上に力を込め過ぎて『怪力』を発動させてしまったみたいだ。投げてくるくらいだから壊しても大丈夫だろう。


 無事マスターのもとへ辿り着く。ガタイの良いスキンヘッドの男だ。ガタイの良い奴って大抵タフなんだよなぁ。


「マスターに聞きたいことがある」


「ここはお前のようなガキが来るとこじゃねぇよ」


 背が低いだけで僕は16だ。日本だとお酒は20からだが、この世界は16から大丈夫なようだ。結婚も16からでいいらしい。つまりこの世界なら僕は大人ってわけだ。


「ガキじゃないよ。黒服。知ってるだろ?」


 マスターの眉が一瞬だけ動いた。これは知ってるな。どうせしらばっくれるだろうけど。


「黒服?なんだそりゃ。見たことも聞いた事もねぇよ」


「本当か?黒服からあんたがリーダーだって聞いたんだけどなぁ?」


「んなの知るか。俺に変な濡れ衣着せようとしてんだろどうせよ。俺はここのマスター、ただそれだけだ。なんも飲まねぇならさっさと帰れガキ」


「はいはい。わかりましたよ。それじゃあこれ置き土産です」


 僕は黒服達から剥いだ服を置いて酒場を後にする。

 街の中にいてもある程度人が彷徨いているので、街の外に出る。すると『危険感知』が反応した。投げナイフ避ける。投げナイフが来た方向から察するに、どうやら森に隠れているようだ。そちらに向かおうとすると、別方向から『危険感知』が。そっちも避けるとまた『危険感知』が反応する。なにこれうざい。一つの投げナイフを土壁でガードしてみると貫通しなかったので、自分の周りを土壁で覆った。自分の足下に穴を開けて脱出。確実に仕留めようと出てきていた黒服に血を刺していく。黒服達が森に戻るよりも速く移動し、血を全員に刺し終えた。


 前回と今回倒した黒服を数えても結構な数がいるけどかなり大きな集団なのかな?王都では見かけなかったけど。王都は隊長さん達、騎士がいるからかな?だからアンヨド近くで活動してるのか?そうだとしても王都とアンヨドはそれほど離れてないし、騎士数名くらいなら派遣される可能性もあるだろう。ただの盗賊がこんな数いるのか?なんか厄介な事に首を突っ込んだ気がしてならない。


 その後暫く待ってみても襲われるような事はなかったので、今日のところは活動終了だ。宿にこっそり戻って、そのまま次の朝を迎える。




 目を開けるとミアがいた。小さく寝息を立てている。……なんでいるのさ?ってなんか記憶が……。吸血鬼の仕業か!何してんの!?馬鹿なの!?と、とにかくミアが目を覚ます前に抜け出そう。

 !?ッ鍵かかってるんだけど!?記憶を探っても吸血鬼が鍵かけた覚えないし、ミアか!

 というかここよく見たら僕の部屋じゃない!ミアの部屋じゃん!吸血鬼ほんとに何してんの!?な、何か脱出に使える物は……な、何もないだと!?何処か脱出出来そうな場所は……。窓だ!そうだ!窓から出ればいいんだ!


 窓を開けてミアの部屋から脱出し、宿の入り口から自分の部屋へ戻った。その際、おばあさんが小さく何か言ってた気がする。


 とりあえず今回なんで吸血鬼があんな事をしたのか思い出さなくては。




「黒服との戦闘もあっちがやっちまうし、移動中や就寝中も魔物が出てこないから退屈してたんだ。せっかく街にいるんだし、夜の街でも見てくるかな」


 街は夜の暗闇を照らす光が幾つもあった。自分の目には吸血鬼の特性上の理由で暗視能力が備わっているが、これはONOFFが自分で決められるので今はOFFにしてある。夜の街と光を楽しむためだ。


「道具屋に素材屋、魔法道具屋、肉屋、八百屋色々あるな。なんか面白そうな店はないかね。あっちが集めた金も俺が行動出来る時は俺のだし自由に使ってくか。草採りで結構金手に入れてた筈だし」


 面白そうな店を探して色々と探し回っていたら、街のはずれまで来てしまったようだ。ここら辺にはもう店もなさそうだ。


「そこのきみ。ちょっと寄ってかない?」


 先ほど見た時には誰もいなかった空間に、いきなり現れこちらに声をかけてきた水色の髪に白い肌をした女性。周りには俺以外に人もいない。


「俺のことか?」


「ええ。そうよ」


 面白そうだな。何をやるかはわからないが、この街にあるどの店よりも楽しむ事が出来そうな気がする。あっちの為に一応調べても『危険感知』に反応は無い。安全確認も取れたし、文句は言われないだろう。


「寄ってかない?と言われてもな。何をやってるのかわからないから判断しようがないんだが」


「ああ、ごめんなさいね。私がやってるのは占いよ」


 女性の前に机と水晶玉が出現する。元からあった様子はなかった。つまり今、この瞬間に、何もないこの空間に机と水晶玉を取り出したということだ。

『空間魔法』というスキルがある。本によれば、自分の好きな空間を作り出すことが出来、その空間から物を自由に出し入れする事が出来る。さらに、転移も出来るそうだ。他にも色々出来るそうだが、それはスキル使用者のイメージ次第らしい。

 今、机と水晶玉が出現したのはこの『空間魔法』のせいだろう。女性がいきなり現れたのも転移してきたからだろう。


「占い、ね。どんな事を占うんだ?」


「普通ならお客様の要望を聞くところなんだけど……そうね、あなたには未来を占ってあげるわ」


「未来、ね。ところで、その占いの成功率はどんなところだ?」


「私が言った事全てをその通りにやっていけば100%ね。行動を変える度に少しずつ変わっていくけれど」


 100%ね。ってちょっと待て。


「それは占いとは言わない。未来予知って言うんだ」


「あら、そう?私が言った通りにしなければ起こらないんだから予知ではないと思うのだけれど」


「確かにそうだが、少しずつ変わるってことは大まかな所は一緒なんだろ?」


「それも行動によりけりね。例えば、そうね、とある少女が魔物に襲われていてそれを助けるか助けないか。これでかなり変わるわ。少女を助ければ少女は生きるし、助けなければ死ぬ。1人の少女の命がその行動次第で変わってしまう。少女を助ければ、その少女が自分に何らかの恩恵を授けてくれるかもしれない。助けなければ少女を見殺しにして、恩恵も得られない。だいぶ違うでしょう?」


「確かにそうだな。だが、だとしたら100%じゃないんじゃないか?」


「だからそれは行動次第ってことなのよ。もし不吉な未来だったなら行動を変えてその未来を起きないようにすればいい。もし幸福な未来なら起こるように行動すればいい。そういうことよ」


「なるほどな。面白そうだ。いいぜ、占ってくれ。いくらだ?」


「お金は取らないわ。その代わりと言ってはなんだけど、ある事を頼まれてほしいのよ」


「内容による」


「この紋章が刻まれた魔法道具を回収してほしいの」


 差し出された紙には、『十字架に悪魔と鎌』が描かれている。これには見覚えがあった。見覚えがあるなんてものじゃない。これはあっちの俺と親父が子供の頃に作ったマークだ。


「なんで、これが……」


 なぜ、この世界にこれがあるのか。それを確かめなければならない。


「このマークがなんである?それにこれが刻まれた魔法道具ってのはなんだ?」


「なんであるかなんて知らないわよ。理由なんてないんじゃない?この紋章が入った魔法道具はね、魔王さんが作った物なのよ」


「魔王が?あの?」


「そ。だけど、先代のね。先代魔王さんは実力がかなりあるけど平和主義だったのよ。だから先代魔王さんが魔王として君臨していた時は争いはなくて、色んな魔法道具作ってたの。その魔法道具に刻まれてるのがこの紋章ってわけ」


「……なんでそんな事知ってる?しかもさっきから先代魔王に対してさんを付けてるし。お前、魔族か?」


「魔族じゃないわ。ちなみに人族でもないからね。ま、私が色々知ってるなんてそんな事はあなたに関係ないの。どう?頼まれてくれる?」


「一つだけ、教えてくれ。その先代魔王とやらは生きているのか?」


 先代魔王が何者か、なぜこのマークを知っているのか、聞き出したいところだ。


「一応、生きてはいるわ。けど、かなり危ない状態だし、力も半分以上奪われてる」


 生きてるのか。なら会える可能性もあるし、聞き出せるかもしれない。これはあっちの俺関係だが、俺にも少しだけ気になっている事がある。


「生きてるならいい。その頼み受ける事にする。その紙貰うぞ」


「ええ、どうぞ。それじゃあ早速、占いましょうか」


 そういえばこの頼みは占いの対価だったっけか。普通に忘れてた。


「あなたは魔族と戦う事になるわ。それもかなり強い。結果的に倒す事が出来るけど、その時に大切な人が死んでしまうようね。仲間を増やし、武器を作りなさい。強力な武器を。あなたの行動次第で仲間になる人数が変わっていく。人数が少ない場合、今の占い通りになってしまうわ」


「武器に仲間、ね。了解だ。ありがとよ」


「こっちこそ悪いわね。頼み事をしちゃって。それじゃあ期待してるからね。バイバイ」


 女性が机と水晶玉と一緒にいなくなってしまった。『空間魔法』ゲットしておきたいところだな。あったら便利そうだ。


「もう、帰るとするか。武器と仲間はあっちの俺が担当する事だろうし、魔法道具は俺担当だ。」


 そのまま来た道を戻り宿に向かう。出る時にはいなかったおばあさんがいた。まだ寝ないのか。いや、もしかしたら寝て起きたのかもしれない。まだ夜が明けていないが。


「なんじゃ、こんな時間まで外に出てたのかい。ミアちゃんを心配させるような行動はするんじゃないよ吸血鬼」


 なに?なんで吸血鬼だとバレている?カマをかけられているかもしれないからとぼけておくか。口調もあっちの真似で。


「おばあさん何言ってるんですか?吸血鬼って……僕は人族ですよ?カードを見せてもいいですし」


「誤魔化しても無駄だよ。あたしの眼は誤魔化せない」


 ちっ。カマかけじゃなく本当にわかってやがるな。目が一瞬光ったのが見えた。魔眼か。面倒だな。排除しておくか?


「止めといたほうがええよ。お前さんじゃあたしに敵わない。別に誰に言おうって訳でもないから安心しな」


「言葉だけで信用しろってのか?」


「吸血鬼の坊やはめんどくさいねぇ……。ならほれ、これをあげるよ」


 差し出されたのは小瓶だった。中には赤い血が入っている。


「誰のだ?」


「あたしのさ。あんたは飲むだけでも大丈夫だろう?だからこれをあげるよ。それと今からミアちゃんの部屋にでも行っておいで。言わないと信用して、ミアちゃんの部屋へ行くだけであたしの血が貰えるんだ。いい取引だろう?」


「わかった。だが、俺の方と僕の方とで記憶共有してるから、僕の方にこの会話バレるからな。僕の方が突っかかってきてもあんたの責任だからな」


「承知したよ。ほれさっさと血を持ってってミアちゃんの部屋へ行きな」


 ミアの部屋へ入ったら、ドアを閉められ鍵をかけられた。めんどくさいばあさんだ。鍵なんてかけても血で開けれるし。というか付いてきてたのに気配を感じなかったぞ。何者だよ……。


 さて、寝たいのだが、場所がない。ベットに寝ているミアを退けるわけにはいかないし、床で寝るなんて御免だ。どうしたもんか。


「んんぅ、誰ですかぁ〜?」


 おや、起きてしまった。ばあさんのせいにしておくか。それと口調を変えとかないとな。


「僕だよ、ミア」


「えっ、てっテツ君!?な、なんでここに!?ま、ま、まさか!?」


「あー、多分ミアが考えてるような事じゃないからね。おばあさんにこの部屋に閉じ込められたんだよ」


「な、なんだ……。そうだったんだ……」


 そういう事はあっちの俺相手にしておけよ。


「それで、寝る場所がないんだけど、どうしたらいいかな?」


「じゃ、じゃあこのベット使っていいよ!」


「そうしたらミアが寝る場所が無くなってしまうからダメだよ」


「大丈夫!私も一緒にベットで寝るから!詰めれば寝れるから!」


「そっか。じゃあありがたく」


 ミアのベットに入る。ミアのためにもなるべく場所を取らないように寝る。力も温存しておきたいからな。


「ね、ねぇテツ君もう寝ちゃった?」


 反応はしないでおく。


「寝ちゃったんだ……。何かしてきてもいいのに……」


 だってよ。




 これで全部か……。とりあえず吸血鬼、お前面倒事運んでくるなよ……。

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