第14話 魔族の女の子

 アンヨドに着いた。

 馬って結構速かったんだね。黒服達のせいで少し戻ったのに、次の日にはもう着いちゃったんだからね。それよりも速く走れる僕って実際かなりやばかったりするんだろうか。


「ありがとうございました、ガリスさん」


「いやいや、こっちこそレイ君のおかげで安全に着くことが出来た。ありがとう」


「ありがとうっお兄ちゃん!」


 うん、ユメちゃん可愛い。ロリコンじゃないからね。本当だよ。


「それでは、また会えたら」


「ああ!ありがとな!」


 ガリスさんとユメちゃんと別れる。あぁ、妹とかいたら良かったのになぁ。

 酒場の方も行かないといけないけど、とりあえずギルドの方に行こう。ここの依頼が王都とどう違うのか知りたいし。




 うーん……あんまり変わったような依頼はないなぁ。どこの街も討伐系あるけど、絶滅させちゃえばいいのに。素材が必要なのはわかるけど、被害出てるんだし生かしておくことないと思うんだけどなぁ。

 まあいいや。簡単な採取依頼をこなしてお金を稼いでおこう。ここには少し滞在するつもりだし。


 依頼内容は薬草、眠眠草、痺れ草を採ってくることだ。どれも荷馬車に乗ってる時に見つけていたので、すぐ採りに行けるのだ。


 依頼申請して、薬草採りに向かったんだが、先客がいた。真っ黒の帽子に真っ黒のローブを着た紫色の髪をした女の子だ。つい昨日黒服の奴らと関わったから一瞬奴らかと思ってしまった。向こうもこちらに気づいたようで、こちらに話しかけてきた。


「えっと、薬草採りですか?」


「あ、うん。そうだけど」


「なら、これ、あげます」


 女の子が持っていた半分ほどの薬草を渡してくる。


「え、や、いいよ。自分で採るからさ」


 さすがに貰うわけにはいかない。この子も薬草を採っているという事は必要なのだ。自分が楽をしてこの子が苦労をするのはいただけない。ってちょっと待って、泣きそうになってるんですけど!?


「ど、どうしたの!?急に!?」


「だ、だっで、貰っでぐれないって」


「ごご、ごごめんって。貰う!貰うから!泣き止んで!お願いだから!」


「は、はい。わがりまじた」


 ふ、ふぅ。まさか泣かれるなんて思ってなかった……。泣き止んでもらうために薬草貰っちゃったけど、どうしよう。貰った分とは他に集める事にするか……。

 少し離れて薬草を探す。が、ない。あっれー?荷馬車に乗ってる時あんまり長くは見てなかったけど結構あったはずなんだけどなぁ。


(あの子が採っちゃったんじゃねぇの?)


 ……一応聞いてみますか。


「ここって結構薬草あったはずだけど、もしかして全部きみが採ったの?」


「えっ、あっ、うぅ」


 女の子が俯く。あっ、これ採ったんだなぁ。というか凄いな。僕が見たときはあった薬草を全部採るって。かなり時間かかったと思うんだけど。


「あ、別に責めてるわけじゃないから安心して。えっと、これから僕は眠眠草と痺れ草を採りに行くんだけど、一緒に行かない?」


「はい!行きます!」


 パァっと顔を上げて笑顔をする女の子。泣き顔よりも笑顔の方がいいのはどの女の子もそうだと思うんだけど、草採りに誘って笑顔になるってちょっと変わった子だなぁ。変わった子だからこそ薬草全部採っちゃうんだろうけど……。


「ここの近くとかどこで採れるとかわからないから、僕が見つけたとこまで連れてくけどいい?」


「はい!はい!」


 よほど草採りに誘われて嬉しかったのか笑顔でうなづいてくる。よし、了承を得た事だし、ちょっと失礼しますね。お姫様抱っこだ。このお姫様抱っこって実際やるとかなりキツイ。僕の場合レベル上がってるのと『怪力』補正で難なく出来るけど。

 足にすこーしだけ電気を纏わせて、ダッシュ!からの到着!


「はい、ついたよ」


「あ、あ、ありがとうごしゃいまふ」


 あれ、顔が赤くなってる。お姫様抱っこのせいかな。まあいきなりすぎたししょうがないか。


「それじゃあ手分けして採ろうか」


「えっ………」


 ん?なんで、えっなんだ?手分けした方が量も採れるし、早いと思ったんだけど。


「あ、あの、一緒にお話しながらじゃ、ダメですか?」


 せっかく二人ならってことか。この子も一人で採ってたようだし話し相手になってあげるか。


「いいよ。それでやろう」


「はいっ!ありがとうございます!」


 その後は、自己紹介したり、なんで大量に薬草を採ってたのかとか色々話した。この子の名前はミア、16歳らしい。種族はなんと魔族だという。普通に女の子の見た目だから人族だと思ってた。

 ミア達の種族はみんな人間の姿で紫色の髪をしているらしい。人間の姿なら他の種族とも仲良くなれると思ってここまで来たらしいが、どうやらそうでもないらしい。世の中には魔族というだけで嫌ったり、魔族が人の姿をしてるんじゃねぇ!と言って石を投げてきたりした奴もいたそうだ。

 アンヨドではそのような事もなかったようだが、魔族のミアと積極的に関わろうとする者はあまりいなかったそうだ。


「あ、あの、テ、テツ君は嫌ったりしないんですか?」


「え?どうして?」


「だって、私、魔族だし……」


「別に魔族だからって理由だけで嫌ったりしないよ。危害を加えたりしたわけでもないんだしさ。それに話してると楽しいしね。本にも友好的な魔族がいるって書いてあったよ。ミアがそうでしょ」


「そ、そうですか。うぅ……」


 ?なんかさっきよりさらに顔が赤くなってる。今、照れさせるような事言ったっけ?そんなつもりはなかったんだけどなぁ。

 まあいいや。眠眠草もだいぶ採れたし、次は痺れ草を採ろう。


「ミア、痺れ草を採りに行こう」


「はいっ!」


 では、失礼して。お姫様抱っこだと照れさせちゃうので、おんぶで向かいます。あ、ちょっ、タイム。そんなしがみつかないで!当たってる!当たってるから!は、早く行って下ろさなきゃ!ダッシュ&下ろす!


 ふ、ふぅ。危なかった。黒のローブが大きくてあんまり考えてなかったけど、その、うん、結構あった。帰る時はお姫様抱っこにしよう••••••。


「さあ着いたよ!痺れ草採ろうか!」


「はい!そうですね!」


 この後も話をしながら採っていった。少し話に夢中になって手を動かすのを忘れてたりする事もあったくらいだ。すごく楽しかった。アンヨドの事を教えてもらったり、ミアのここまでの旅路を聞いたりした。なかなか大変な旅をしてきたようだ。


 だいぶ長話をしていたようでもう夕方になっている。痺れ草もかなり採れた。後は帰るだけか……。


「ミア、そろそろ帰ろうか」


「そう、ですね……」


 ミアが悲しそうに俯く。


「ねぇミア、明日もよかったら一緒に何かしない?」


 僕はあの黒服の件を片付けてもまだアンヨドにいるつもりだ。ならその間だけでも一緒に何かしてあげた方が良いだろう。


「ほ、ほんとうですか?」


「ああ、本当だよ。それで、どうかな?」


「します!」


「なら決まりだ。一旦帰ろうか」


「はいっ!」


 失礼します。お姫様抱っこだ。ミアにおんぶはしないよ。したら僕が保たない。あれは凶器だ。


 ダッシュで街まで帰ってきた僕達は一緒にギルドに入って依頼達成報告を済ませた。たくさん集めた事もあり、お金はたくさん手に入って、しかもランクが一つ上がった。これでより強い魔物の討伐依頼をする事が出来る!依頼に関係なく倒してもいいんだけど、依頼があった方がお金になるからね。


「あ、ミアってどこの宿に泊まってるの?僕アンヨド着いたの今日だから宿見つけなきゃいけないんだけど」


「こっちにある小さな宿です。大きな宿はお金足りないですし、私魔族ですから……」


「そっか。そこでいいよ。僕もお金そこまであるわけでもないしね」


「じゃ、じゃあこっちです」


 ミアに案内されて宿に到着する。周りにある建物より一際小さい建物だった。中に入ると綺麗で内装もかなり凝っている。小さいだけでかなりいい宿だと思う。


「この人が宿主のおばあさん。名前はなんでか教えてくれないんです」


 変わったおばあさんもいたものだ。


「おばあさん、部屋空いてます?泊まりたいんですが」


「空いとるよ。だけど別にミアちゃんと一緒の部屋でもええんだよ」


「え?」


 ポカンとする。このおばあさん今なんて言った?


「ふぇ、ふぇぇぇぇ!?おばあさん!?何言ってるの!?」


「あれ?ミアちゃんのこれじゃないのかい?」


 小指を立ててそう口にする。あれって確か恋人とかを意味するんじゃなかったかな。って待て待て。僕はミアの恋人とかじゃない。


「僕はミアの恋人じゃないですよ、おばあさん」


「あらそうかい。ミアちゃんが連れてきたからそうだと思っちまったよ。お似合いだと思ったんだけどねぇ。それじゃあ別の部屋にするのかい?ミアちゃんの部屋ならミアちゃんが許可さえすれば特別にタダで泊めてあげるし、防音性が高いから大きな音が出ても聞こえないんだけどねぇ」


 タダは魅力的だが、大きな音ってダメでしょ。それ完全に責任取らなきゃいけないパターンのやつでしょ。僕そんな事しないからね!?絶対とは言い切れないのがあれだけど••••••。


「あ、あの、そ、その、テツ君は、私と一緒の部屋って、その、嫌、ですか?」


「嫌じゃないけど、そのー、うん、ミアはいいの?」


「わ、私は、その……テ、テツ君がいいなら、一緒がいいです……」


 そんな無理しなくても……。


「タダは魅力的だけど、やっぱり別の部屋にしよう?さすがに一緒だとまずいと思う、色々と」


「わかりました……」


 そんながっかりしないでほしい。


「という事なので、違う部屋お願いします」


「はいよ。ミアちゃんの部屋に移りたくなったらいつでも言いなよ」


 このおばあさんはどうしても僕とミアを一緒の部屋にしたいのか……。


「はいはい、わかりましたよ」


 おばあさんから鍵を受け取り、部屋に向かう。ちょっと狭いくらいで、なかなか良い部屋だと思った。

 とりあえず今夜からでも黒服の事を片付け始めなきゃなぁ。ミアに迷惑かけるわけにもいかないし。

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