2章 隣街アンヨドにて
第13話 黒服
王都を出て5日ほどした場所に、一番近い街があると宿屋のおばちゃんが言っていた。今は歩いて3日目だ。急ぐことも無いだろうと思って歩いている。僕の冒険は始まったばかりだからね。
歩いているこの道は整備されており、道中で魔物に出会うこともない。退屈だ。依頼の中には別の街まで荷馬車を警護するというものあるのだが、いかんせんランクが足りない。旅に出る前にずっと依頼をこなしていたといってもたったの数日だ。そんなこともあり、暇をもて余しながら歩いているのである。
何かやることないかな?と頭のなかで呟く。
(血晶でも作ったらどうだ?自分の装備品に付けておけば咄嗟の時でも使えるだろうし)
吸血鬼が呟きに返事を返す。血晶とは、血の塊のことだ。
なるほど。確かにそうだ。そういえばこの血って今まで液体、固体って1つの形状にしてたけど同時に2つの形状にする事って出来るの?、と聞いてみた。
(あー、出来るんじゃないか?俺もやったことないからわからん。挑戦するなら血晶作りながらやったらどうだ?)
元からそのつもりだ。今回作るものは外側を固体、内側を液体に出来るだけしてみようと思う。
……。結果は惨敗である。この『血液操作』のスキル、なかなか調整が難しい。固まらせようとすれば全て固まってしまい、液体に戻そうとすれば全て戻ってしまう。もっと長いこと練習して操作に慣れなければ到底出来ないだろう。
「はぁ……」
ため息をつく。出来なかったものはしょうがないと諦め、普通の血晶を作り、短剣や鞄など自分の身に着けているものに取り付けていく。全てに取り付け終え、またしてもやる事が無くなり次に何をしようかと悩んでいると。
ゴトッゴトッ
っと音を鳴らしてすごい勢いでこちらに駆けてくる荷馬車が横を通り過ぎて行った。その後ろからは黒服を着た集団が荷馬車追っていた。特に自分に関わりがないのでスルーしていると、黒服の少しが前に立ち止まった。
「何か用ですかね?」
「荷物を全て置いていけ。命だけは助けてやる」
黒服の一人が応答する。盗賊かぁ。めんどくさいな、これ。
「もし、嫌だと言ったら?」
「殺す」
はぁ。さっきの荷馬車は逃げてたのか。黒服が追っていったし、関わっちゃったからには助けないとなぁ。とりあえずここをなんとかしないと。相手に遠距離武器は無いようだし、もしあるとしても魔法だろう。それなら始末は簡単だ。
「わかりました。置いていきますよっと!」
置いていくふりをして、極細の血の針を黒服全員に向けて放つ。対話していた黒服以外は全員針が当たり、そのすぐ後、死亡した。
「あれ、あなたも倒す気で投げたんですけど」
「貴様、何者だ?今のはなんだ?」
「馬鹿正直に誰々です〜さっきのは〜なんて言わないでしょう」
「ちっ、相手が悪かったか」
黒服が逃げようとするので、高速で背後を取り、気絶はしないが、動きは封じれるくらいの電圧をあたえる。
「がっ!?な、なぜ後ろに」
制圧完了だ。さて、この黒服から少し聞き出そうかな。
「リーダーはあんたか?」
「……」
話す気は無いらしい。血の針に気づき撃ち落とせるくらいだから相当な手練れだからこそ実力差が分かると思うのだが。
「アジトは何処だ?」
「……」
これも言わない。駄目だねこれ。荷馬車の方を助けに行かないといけないし、もう相手にする時間はない。針を首に刺し、絶命させる。
全ての死体から自分の血とその死体の血を少量ずつ回収し、荷馬車を助けるために来た道を少し戻る。
最高速度を出せば一瞬で追いついた。黒服を背後から奇襲して、全員殺しはしないが行動不能にし、荷馬車の御者に声をかける。
「追ってきてた黒服達やっつけたんで、もう止まっても大丈夫ですよ」
御者が驚く。必死に逃げてたところに荷馬車と同じ速度で移動しながら話しかけてくる人がいれば驚くよね。
「ほ、本当か?」
「ええ。ほら、これが証拠です」
手に持っていた黒服の男一人を見せる。それを見て安心したのか、御者が荷馬車を停めた。
「あ、ありがとう。ありがとう。本当にありがとう」
そんな感謝しないでほしい。黒服が僕に関わらなかったら助けていなかったのだから。すこし胸が痛くなる。
「そんなに頭を下げないでください。困りますって」
「いや、助けられたのに感謝するのは当然だ。私も娘も死なずに済んだのはあなたのおかげなのだから」
「娘さん、ですか?」
僕には御者一人にしか見えないのだが。もしかして、荷物と一緒に隠れてるのかな?
「ああ。今日は特別に一緒だったんだ。そうだ、もう大丈夫だって言わなければ!」
御者が荷馬車の荷台の方へ行き、被せてあった袋等を取っ払っていった。そこには一人の少女がいた。10歳くらいかな?ピンク色のワンピースを着ている。なかなか可愛らしい。
「ユメ!もう大丈夫だ!この人のおかげで助かったぞ!」
「本当?」
「ああ!本当だ!お礼を言わなきゃな!」
「うんっ!」
家族の会話っていいよね。僕の両親はどこいるのか知らないんだけど。
「お兄さん、ありがとうっ!」
「どういたしまして。それで、お名前を伺っても?」
「ああ、私はガリスだ。こっちは娘のユメ」
「僕は鉄条 零っていいます。それでお二人はどちらに行かれるんですか?」
「私たちはアンヨドに向かおうとしてたんだ。その途中で黒服達に襲われてな。何とか逃げてたところなんだ」
ふむ。アンヨドか。僕が今向かっている街が丁度アンヨドだ。ちなみに王都の方はアンリというらしい。宿屋の人がそう言っていた。向かう街が同じなら一緒にどうだろうか?
「僕も丁度アンヨドに向かってるところですよ。それなら一緒に行きませんか?」
「本当か!?君ほどの腕があれば怖いもの無しだ!お願いする!あっ、でもこれって護衛の依頼になるよな。報酬はどうする?」
「僕の冒険者ランクではまだ護衛の依頼って受けちゃいけない事になってるんで、報酬は良いですよ。それにこれは一緒について行くだけですから。勿論、魔物やさっきみたいな輩が出てきたら戦いますけどね」
「そ、そうか。それはありがたい。では馬車に乗ってくれ。徒歩と馬では速度が違うからな」
「あ、少し待ってください。あれを何とかしてからにしたいので。その間、ユメちゃんと遊んでいてあげてください」
黒服達を指差す。彼らはまだ生かしてあるのでこの後色々と問わなければならない。
「ああ。わかった。馬にも負担をかけただろうし少し休憩にする。ユメ、こっちに来い」
「うんっ!」
仲のいい親子って見ていてほっこりするね。
「さてと、アジトとリーダーを教えてくれるかな?」
「……」
適当に選んだ黒服に問いかける。しかしこれまたあの黒服と同じで無言。話せるくらいは出来るのになぁ。しょうがない。『怪力』を使い腕を折ってみた。苦痛の声をもらすけど、あっちの親子には聞こえないように口を塞いでおいたから安心だ。
「で、アジトとリーダーは?」
「……」
まだ言わないみたいだ。この黒服集団なかなかしぶといな。腕の一本もってかれたら吐いてくれると思ってたのに。しょうがない。もう一本!
「アジトとリーダーは?」
「あ、アンヨドにある酒場のマスターがリーダーだ。アジトは酒場の地下にある。お、お願いだ。もうやめてくれっ!?」
めんどくさいなぁそれ。まあ全滅させるけどね。あの親子に被害が及ばなければいいけど。麻痺が解ける前にここの黒服をやっとかないとね。
爪に仕込んだ血を黒服一人一人に刺していき、血を回収した後、近くの木に置いておいた。道にあったら邪魔だしね。
「ガリスさーん。もういいですよー」
「そうか!なら出発しよう!」
荷馬車に乗り込む。中は色んな荷物があったが、きちんと整理されている。馬車は揺れるだろうし、何か対策されてあるんだろう。馬車が出発する。徒歩より断然速い。僕が本気で走った方が速いんだけどね。
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