第12話 初依頼
おはようございます。異世界3日目です。寝ていた間に動いた記憶がない。吸血鬼は出てこなかったのか。初日は出てきたのに何でだろう?
(そりゃあ力を温存してるからだ)
頭の中に僕の声が響く。えっともしかして吸血鬼?
(そうだけど、吸血鬼って俺だけじゃなくお前もそうなんだけどな)
僕は人間って思ってるから問題無いです。ってかなんでいきなり話出来るようになったの?
(俺が回復してるからだ。俺が出てた分、力を消費していくが出なければその分回復する。初日は『吸血』したかったからな。ギリギリまで出てたんで力がほぼ無くなってたんだ)
なるほどね。それで出てくる時っていつでも出来るの?後はどっちの意志で戻れたりするの?
(まあ俺の力が回復してれば、ほとんどいつでも出れるな。主導権はお前だよ。寝てたりして意識ない時は俺に主導権移るけどな)
ふむ。わかったよ。ありがと。それじゃよろしく。
(おう。よろしくな)
「これが二重人格ってやつかぁ」
僕はポツリと呟いた。僕の中に僕じゃない僕がいる。面倒くさい感じだ。戦闘に関しては僕よりも吸血鬼の方が強いと思うから危なくなったら出す感じにしようか。
さあ隼人を起こしてゲイルのとこへ行かないとな。今日から冒険者になるんだ。行動は迅速にね。
ゲイルのいる城の出入り口に着いた。どうやら僕達が最後らしい。隼人が起きるの遅いから……。
「よし、全員揃ったな。これからギルド向かうからちゃんとついてこいよ」
「はい」
全員で返事を返す。ちなみに国王と王女には昨日のうちに別れを告げておいた。王女には睨まれてしまったけど。神代君ボコボコにしちゃったからなぁ。しょうがないね。
ところで、ギルドってどんな感じなんだろうなぁ。城下町だろうし結構大きかったりするんだろうか。
城を出てから数十分。ギルドに着いたらしい。木造でなかなかに大きい建物だった。年期が感じられる。
扉を開けると朝だからか、人はあまりいなかった。受付には若い女性が数名いた。
「こいつら、全員冒険者登録お願いしたい」
「全員ですか?わかりました。カードはお持ちでしょうか?」
「ああ。全員持ってる。てなわけで全員カード出せ。それでこの人に預けろ」
僕達はカードを出して受付の女性に渡していく。僕のカードは『隠蔽』を施してある。何かあるだろうが、たぶん大丈夫だろう。
「はい。預かりました。しばらくお待ちください」
そう言って奥に引っ込んでいく。2.3分もしたら戻ってきた。随分早い。こちらは20以上いるのに。
「全員の登録が終わりました。これからこのカードは冒険者の身分証にもなります。そして皆様は青ランクです。受けられる依頼は青か一つ上の緑までとなっておりますのでご注意ください。ランクは青・緑・黄・赤・銀・金・黒の7種類になります。ランクを上げたい場合、カードの裏面をご覧下さい。そこに次のランクまでの詳細が書かれています。それを達成するとランクアップとなります。達成した場合ギルドにカードを持って来てください。ランクの更新を行いますので。カードに書かれているランクが依頼を受けるランクに対応しているので、更新をしないと上のランクの依頼を受ける事は出来ませんのでご注意ください」
長いよ!長いよ!ちょっとは区切ったり、途中で質問したりしようよ!質問ないけどさ!
「ってなわけだ。わかったな?それじゃあ俺はここまでだ。後はお前達で頑張れよ」
僕は少し気になったので聞いてみた。
「ゲイルは何処へ向かうの?」
「ん?獣人大陸かな。知り合いにちょっと呼び出されてるからな。お前も頑張れよ」
ゲイルはそう言うとギルドから去ってしまった。さて、これから冒険者としての異世界冒険が始まるのか。楽しみだ。隼人と仲原さんには自分は一人でやる事を伝えてある。これには『吸血』が深く関わっている。仲間がいると、『吸血』をするタイミングがなくなってしまうからだ。せっかくのチートスキルを活かせないのはよろしくない。そんな理由だ。
「じゃあさっそく依頼受けようかな」
依頼掲示板を見てみる。今受けられる依頼は
薬草の採取、ガルルの素材集め、スライムの液体納品、オークの討伐だった。
スライムの液体納品やガルルの素材集めなら今この瞬間に依頼達成する事が出来るのだが、僕はオークの討伐を選んだ。とりあえず日銭を稼がなければならないのはわかっているが、それでも一回戦っておきたいのである。
「はい。了承しました。依頼達成までの期限は3日です。それまでにオークの牙を持って来てください。依頼では1個ですが、幾ら持って来て頂いても構いません。その分買い取りになりますので」
僕としてはこれは嬉しい。ガルルの時の状況からいって『吸血』はかなり数をこなさないといけない。その分の牙を買い取ってもらえるのだ。こちらに不都合がない。ありがたい。さて、じゃあ森に行きますか。
オークは森に生息している。体長が大きく、力がかなり強い。しかし、オークには知恵と呼べるようなものがなく、動きは単調だ。当たらなければ、ただデカイだけと的であるため、厄介さでいえばガルルの方が上だろう。
森に着いた。木々が邪魔で周り全体を見渡すことは出来ないが、問題はない。オークはデカイからすぐ見つかる。サーチアンドデストロイの開始だ!
だいぶ順調だった。もう既に20は倒している。『吸血』もして、牙も取ってある。オークに『吸血』して得たのは『怪力』というスキルだった。力が強くなるスキルだが、僕にはあまりいらないような気もする。念のためにスキルの強化はしておくが。
さすがにもう終わりにしてギルドに向かおうと思う。ずっとオーク狩りをしていれば、今のうちはお金に余裕が出来るかもしれないが、色々と道具を買わなければならない。素材を入れる鞄や服などだ。値段を見ずに出てきたので、どのくらいかかるのかわからない。必要と思われる道具が揃うまではここを出る事はないと思う。準備は万全にしないといけないからね。
ということで戻ってきた。誰も見てないところで『雷纒(大)』を使って走るとかなり早く帰れるね。使う前と使ってる時には常に周りを警戒してなきゃいけないけど。
まずはギルドだ。依頼の報告をしてお金を貰っておかなければ、買い物が出来ない。
「すみません」
「はい?あれ、朝に依頼を受けた方ですね。どうしました?」
「依頼報告に来ました」
手持ちの牙を全て出す。受付の女性がギョッとする。
「これ、全部あなたが?」
ん?何でそんなこと聞くんだろう?もしかして量多かったかな?
「そうですけど、何かまずかったですか?」
「い、いえ。そんなことは。で、では精算しますね」
あー、ちょっとやり過ぎだったかぁ。考えてみれば僕って朝冒険者になったばかりだったね。それが昼間になってこんな量のオークの牙を持って来たらそりゃあ驚くか。
「合計で70銅になります」
「ありがとうございます」
この世界のお金は、銅、銀、金、黒らしい。銅が一番低い単位だ。冒険者ランクも黒が一番高かったがこの世界は黒に何か特別な意味でもあるのだろうか?
お金も貰った事だし、どんな物が売ってるか見てみるかな。っとその前に宿だ。一泊どのくらいかかるのかじゃないと、宿代さえも使ってしまいそうで怖い。
宿に行き、宿代を聞いたが5銅で済むらしい。それで、飯付きなのだからお得だと思う。この世界で5銅がどれくらい高いのかわからないけど。宿代は先払いなので払っておいた。とりあえず一泊分だ。道具がどれくらいかかるかわからないからね。
その後は色々と物色した。鞄や服など買おうと思っていた物から剣などの武器や防具、魔法道具まで。
見ていく中でお金がまだまだ足りないと思ったので、明日からは依頼を沢山こなしてお金をゲットしなければならないな、と今後の目的を自分で立てた。
そこからはもう依頼をこなしていく毎日だ。基本は討伐系の依頼を。たまに採取などの依頼もした。そうこうするうちにお金も貯まり、道具もある程度揃ってきた。そろそろここから出るべきだろう。
僕の冒険の始まりだ。
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