第8話 模擬戦

 話し終えたらちょうど集合時間になって、隊長さんと騎士達がやって来た。それと他にも騎士じゃない人が一緒だ。誰だろう?


「あー、昨日の今日でまた集まってもらって悪いな。あー実はな、ある程度力を付けてもらうとその人には冒険者か騎士団に入ってもらう事になってるんだ。言ってなかった事は悪いと思ってる」


 後ろの人はその冒険者って事かな?けど連れて来たのは何でだろう?


「それでなんだが、まあ冒険者になりたい人はこの人と模擬戦をしてほしい」


 模擬戦……ね。なるほど。意図が読めてきた。


「冒険者になると騎士団が行く場所よりも過酷な土地へ行ったり、強い魔物と戦うことにもなるだろう。それで模擬戦というわけだ。ここに連れて来たこの人は冒険者の中でもかなりの腕だ。その強さを実際に経験してもらい、戦った後でも冒険者になりたいと思っていれば冒険者になるといいだろう」


 つまり冒険者になる覚悟の問題なんだろう。冒険者との模擬戦を経験して、もっと頑張るために冒険者になると覚悟を固められるかどうかという話だ。魔王を倒すという目的のために戦うと決めたクラスの連中の覚悟が本物かどうかを試したいのだろう。

 騎士団になったとしても強くはなれるのだろうが、冒険者と比べると経験に差が出てしまうだろう。


 僕としては強くなっておきたいので、冒険者になろうと思う。冒険者といえばクエストなんかがあったりして、お金が貰えるだろうからね。やりたい事をやるチャンスだ。それに魔物の血を吸う機会も多くなるだろう。僕はそれでいいが、さて、二人はどうだろうか?


「二人はどうするの?」


「俺は冒険者一択だな。強くなるためには険しい道を行かなきゃいけないだろうし」


「私も……冒険者かなぁ。多分騎士団にいたら強くなるのが遅くなるし、不知火君が冒険者になるみたいだから私もなれば三人とも冒険者でしょ?」


「よくおわかりで……」


「そりゃあね。もう何年もの付き合いですから」


「じゃ、あっちの人達の所へ行こうぜ!」


 隼人について行き、冒険者の方へ。そこには神代君と美智永さん、土井もいた。まあここら辺のメンバーはみんな強さを求めてるだろうから納得出来る。

 さて、模擬戦だがお相手のレベルはどのくらいなんだろうか?隊長さんがかなりの腕と認めているし、レベルはかなり高いだろう。知っている中では、僕無しで神代君のレベル13が最高だが絶対に敵わないだろう。


 冒険者の人がこっちに来た。何やらニヤニヤと笑っている。


「よーし、お前らが冒険者志望か。俺はゲイルってんだ。よろしくな。まあ勝てないだろうけど精々頑張ってくれよ?それじゃ誰からやる?」


 この人性格悪そうだなぁ。僕は様子見にしようかな。この人の力がどのくらいか知りたいし。


 僕は手をあげずに待っていると誰かが手をあげたようだ。


「お、いいねぇ。なかなかいい目をしてる。そういう奴は嫌いじゃない。いいぜ、始めようか」


 手をあげたのは土井だった。目をギラギラとさせて、睨むようにゲイルを見ている。さっきの言葉で怒りが沸点に到達したのだろう。はぁ……単純な奴だなぁ………。


 ゲイルが僕達から距離を取り、土井がゲイルを追いかけていく。ゲイルは僕達を巻き込まないようにしたのだろう。


 土井は剣を乱暴に振り回すが当たらない。ゲイルは全てをギリギリで躱してみせている。必要最低限の動きだ。とにかく躱す躱す。時に足を引っ掛け、土井を転ばせるようにして遊んでいる。これではもう模擬戦でも何でもないだろう。起き上がった土井の首筋に手刀を決めると、土井は倒れて動かなくなった。気絶したのだろう。


「ダメだこりゃ。論外。こいつは除外だ。幾ら意志があろうとただ相手に突っ込んで攻撃するだけの奴はすぐに魔物の餌だ。こいつは怒りに流されすぎている」


 土井は負けて更に冒険者になるのもダメらしい。なかなか厳しいようだ。


「さぁーてお次は誰だい?」


 次に挑戦したのは隼人だ。結果から言うと負けだった。まあさっきの土井と比べるとなかなかに善戦をしていたが。『火魔法』を使ってもゲイルの所に届く前に消えてしまい・・・・・・、剣で戦うもかすりもしなかった。次第に隼人の体力が尽き、終了となった。


 次々とみんなが挑むも、結果は同じだった。傷の一つでさえ付ける事が出来ない。僕以外全滅だ。僕としても傷の一つくらいは付けたいところだ。魔物相手じゃないので血の塊を針とかにするのは無しだ。吸血鬼にアドバイス的なものでも聞けないだろうか?と思って自分の中で問いかけてみたが反応はない。僕の力でどれだけやれるのか試すチャンスだしまあいいだろう。


「よーし、お前でラストか。聞いてるところによるとレベル低いそうだけど大丈夫か?」


「ええ、大丈夫です。さっきまでのでお願いします」


 僕だけ難易度を低くしてもらうなんて甘えだからね。さて、頑張りますか。


 僕は両手に短剣を装備して、ゲイルの方へ走り出す。距離を詰める間に『土魔法』で岩石ボールを作り放つ。途中で消えてしまうが陽動のため問題ない。作ると同時にゲイルの横と後ろに落とし穴を作り出しておいたためだ。ゲイルは僕が短剣で攻撃しても避けるだろうからその為の罠だ。僕は短剣を振る。当たらない。予想通りだ。しかし、ゲイルは斜めに避けて落とし穴を躱した。まるで見えているかのように・・・・・・・・・・。作戦が失敗したので距離を取る。


「ほう、落とし穴とはなかなか良い作戦じゃないか。ラストなだけはあるな」


「なんでわかったんです?」


「ん?そりゃ秘密だ。冒険者は自分の力を誰かに話す事はないぜ。情報は命だからな。対策立てられちまうし」


 ちぇっ。わかれば良かったんだけどな。『雷纒(大)』はなるべく温存しておきたい。血も攻撃に使わない決めているから『土魔法』でどうにかするしかないが、どうする?まずどうやって魔法を途中で消しているのかを調べなきゃだな。


『土魔法』でニードルを作り出して放つ。前と同じ様に途中で消えてしまう。なら二つはどうだろう。一つ目は同じ様に消えるが二つ目は消えるのが遅かった・・・・。常時発動系の何かじゃないってことか。なら!三つならどうだ!そして駆け出す。


「なかなかいいな!お前!」


 一つ、二つと魔法が消されていくが、三つ目・・・魔法・・消されず・・・・回避・・された。さっきの距離だと三つなら有効っと。短剣を振るう。魔法回避直後でも短剣回避っと。魔力はかなりある。まだまだいけそうだね。


 短剣で攻撃しながら岩石ボールを使う。流石の近距離だと回避消せないみたいで回避された。近距離で咄嗟に使えないと。一度距離を取る。


「うーん、なかなか秘密が暴けないですね」


「そりゃ当然だ。そんな簡単に暴かれてたまるか。だが、いいな。今日の模擬戦の中じゃお前が一番面白い」


「それはどうも」


 常時発動系じゃなく、近距離は無理、使うのに少しインターバルが必要。さて、これが魔法を消す正体なわけだが、落とし穴に気づいたものとは違うものだろうなぁ。まずは魔法を消す正体を突き止めなきゃ。一発だけやってみるか。


 右の手に電気を纏わせる。岩石ボールを出してそれに電気を移す。それを放って様子見だ。ふむ、消せるには消せるけど電気を消してから岩石ボールを消してるな。


「おう、今のは驚いた!お前複合魔法出来るのか!いいねぇ!」


 複合魔法?なんだろうそれ。後で調べてみようか。僕のはただ電気を移してるだけだからなぁ。まあ、けど今ので大体正体は掴めたかな?最後の一押ししてみますかね。今度は特に工夫もしていないただの岩石ボールを放つ。今回注目するのは魔法ではなく、ゲイル自身。少しだけ・・・・開いて・・・閉じている・・・・・。うん。当たりだね。


「複合魔法はもうないのか?ただの岩には飽きちまったよ」


「今ので魔法を消してる正体が分かったので岩石ボールはもう出番ないと思いますよ」


「なに?」


「あなたが魔法を消すのに使っているのは魔法ですよね。属性はまだ分かってませんけど」


「……。なぜそう思った?」


「魔法を複数放つと消されるのに時間差がある。それでまず常時発動系の魔法道具とかじゃないって分かります。そしてインターバルが必要な事も。次に近距離での即座に発動は出来なかった。これからある程度の距離が必要だと分かります。そして僕が撃った電気の岩石ボールは魔法二つを消す距離まで消えなかった。片方ずつ魔法を消してましたね。ま、こっちは消されるのかどうかを確かめたかっただけなんですけどね。それで、最後。今撃った岩石ボールを消す時、口が動いてましたよ。発声してイメージ力を高めてるんですよね。それで魔法だと思いましたよ」


「なるほど、なるほど。いいね、素晴らしい!百点だ!そうだよ。俺が魔法を消してるのは魔法で打ち消してるからさ。まあ口に出さなくても出来るが、今回はヒントのために軽く口を動かしてたんだがな」


「あれ、しらを切らないんですね。てっきり違うって言うと思ってました」


「そこまで調べられちゃ隠したってすぐバレるだろ。それに消してる正体って言ったから見破ってる方はまだなんだろ?」


「はい。そっち関してはお手上げですね。こうして話してる時と魔法を消してる時以外に口が動いてたとこは見ていないので。発声しないで魔法を使用してるって可能性がありますし、なにか魔法道具を使ってるって可能性もあって、絞りきれないんですよね」


「良かった良かった。そっちまでバレたら俺自身なくすぜ。ま、お前は合格だな。今日はギリ合格ばっかだったが、合格はお前だけだ。誇っていいぜ。それにお前なんか隠してるだろ?」


「はて、何のことですかね」


 すっごいな。吸血鬼の戦闘を思い出して色々と切り札的な物を作ったけど、使ってないのバレてる。けどこれ模擬戦だし、ぶっつけ本番で使っちゃってもしかしたらって事があるから使えないんだよね。


「どれでもいいから一つだけ撃ってこいよ。大丈夫だ。死にやしねぇよ。レベルと経験の差があるからな」


「それじゃあ御言葉に甘えますね」


 僕はイメージする。無数のニードルを。全方位から相手を穿つように。まだ名前が思いつかないから発声は出来ない。念入りにイメージをする。『魔力把握』のおかげで分かる。かなり大量の魔力が使われる。……出来た!


「いけ!」


 ゲイルの前後横上斜め全ての方向に『土魔法』で出来たニードルが出現する。そして、その全てがゲイルめがけて放たれる。




 ゲイルはその場にいることが危険と判断した。自身が避けられるものは避け、それ以外を魔法で打ち消しながらその場からの脱出を試みる。が、躱した目の前のニードルが再び狙って来たので、回避を優先。脱出の機会を失ってしまう。ゲイルはなぜ1度躱した魔法がまた動き出したのかを打ち消しと回避をしながら考える。


(数は少しずつ減っちゃいるが、躱したやつはずっと動き続けてるな。なかなか厄介な魔法だ。魔法の反応はどうだ?……ふむ。1つ1つにホーミング性能みたいなのが付けられてんな。躱した魔法がまた狙いを付けて襲ってきてるのはこれが原因か。つまり全部打ち消せばいいってこった。)


 ネタさえ分かればこっちのものだという風にどんどんニードルを打ち消していくゲイル。次第にニードルの数は減っていき……。ゲイルが全てのニードルを処理し終えたのは時間にして2分。その短時間で全てのニードルを打ち消してみせた。すごい技量である。


「いやぁ疲れた疲れた。なかなか厄介な魔法だな。少し本気を出したぞ」


「す、凄いですね。あれ一応切り札の一つなんですけど。まさかこんな短時間で攻略されちゃうなんて正直驚きました」


「あれは切り札だわ。俺も魔法が見破れなかったらもっと苦労してただろうからな。うん、誇っていいぜ。俺が認める」


「あ、ありがとうございます。それでなんですけど、ちょっと魔力的に厳しいのでもう模擬戦終わりでいいですかね?」


「ん?ああいいぜ。お疲れさん」


「最後まで見破りの方法と傷付けられなかったなぁ。はぁ……」


「ん?傷ならあるぞ。ほら」


 ゲイルは自分の腕を指して僕に言ってくる。それはかすり傷だった。


「最後の魔法だ。あれでついた。俺に傷を付けるなんてなかなか出来ないことだぜ?」


 お、おお!傷付けられてる!かすり傷程度だけど!やった!よくやった僕!


 あ、やばい。魔力の使いすぎだ。めまいが。


「っとと。大丈夫か?切り札っていってもやっぱまだレベル低いから魔力総量が少なくて、耐えられねぇんだろう。もっとレベル上げれば魔力総量が増えて切り札使っても耐えれるようになるだろうさ。まあ切り札なんて使わない状況の方が良いんだがな」


 僕はそのゲイルの言葉を最後に意識を手放した。

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