第7話 打ち明けと魔法道具

 目を覚ます。朝だ。僕は慌ててカードを見る。



 鉄条 零 『人族(吸血鬼)』


 男 レベル20


 スキル:『吸血』『自己再生』『血液譲渡』『血液操作』『隠蔽』『魔力把握』『土魔法』『雷纒(大)』


 称号:『転移者』『目醒めし者』『吸血鬼』『真祖』『血を操る者』『群潰し』



 ……。夢じゃなかったか……。血の塊も僕が作ったのより多くあるし……。あれはなんだったんだ?僕という意識はあったし、考えている事や目にしたもの、口にした言葉なんかも全部聞こえていた。


 ……むぅ。そういえば、僕じゃない時のカードは人族の方がかっこ枠になっていたな……。人族の時は僕が、吸血鬼の時はあのもう一人の僕が出てくるのか?それなら入れ替わるタイミングや条件はなんだ?夜になっていること、寝ていること、とかしか今の所考えつくものがないな……。


 ややこしいから吸血鬼と呼ぶ事にするが、吸血鬼が最後に言った言葉……。


「死なせたく無いのなら自分の力を教えるくらいしといても良いんじゃないか、か」


 隣ではまだ隼人がぐっすりといびきをかきながら寝ている。吸血鬼の言う事はわかる。強い力を持っている事を教えておけば、二人の心配を少しでも減らせて危険な状況でも助けられる。それを抜きにしても、二人共こちらを信頼してくれているのに、そんな隠し事をしていていいのか、という意思が込められていた。


 吸血鬼の言う事は尤もだ。反論できない。だが、それでも、怖いのだ。自分が吸血鬼だということを打ち明けるのが。もし、二人に怖がられ距離を置かれたり、言いふらされたりしたら、そんな事を思ってしまうのだ。隼人も仲原さんもそんなことをする様な人間じゃないのはわかっている。しかし怖いのだ。もしかしたら。そう思ってしまうだけで。二人が近くからいなくなってしまえば、僕は一人だ。一人。孤独。嫌だ。それだけは嫌だ。絶対に嫌だ。旅に出たりで離れる事があったりするのはいい。そこにはまだ繋がりがあるから。だけど、だけど!


「……いっ!おいっ!」


 はっとする。隣を見れば隼人が起きていて、こちらを心配そうに見つめていた。


「大丈夫か?何があった?」


「えっ?」


 何かあったのか?ではなく何があった?


「えっ、じゃねぇよ。そんな丸くなって、震えて何回も名前を呼ばれちゃ何かがあったのは明白だ。それで、何があった?今回に限っては誤魔化しは無しだ」


「だ、駄目だよ。教えられない」


 これを教えてもし嫌われたら……。


「昨日寝てから何処か行ってたのは知ってる。それに帰ってきたのが朝方だったのも」


「……それは……」


 僕の意志ではない。そう喉から出かかっていた言葉をなんとか止める。


「はぁ……。何の心配してるか知らないけどな?俺は鉄の親友だし、ちょっとやそっとのことじゃその事実は変わんないぞ?だから話せ、な?なんか問題があったなら俺が手伝ってやるからさ。それは仲原だって同じだぜ?少しくらい俺たちに話してもいいんじゃないか?」


「本当に?たとえどんな事があっても変わんない?」


「ああ。変わらないさ」


「わかったよ……」


 僕は話した。吸血鬼という事。スキルの事。昨日の服に関しての事も含めて全部。夜の事も。

 それに対する隼人の反応が、


「なんだよ。そんな事か」


 と、軽いものだった。僕としては覚悟を決めての事だったので、呆気にとられる。


「別に吸血鬼になってるくらいで何だってんだよ。鉄は人から血を吸う気は無いんだろ?だったら関係ないだろ。それに魔物から血を吸って強くなれるなら、俺たちが危ない時に助けてくれるだろ。怪我も治るなら死ぬ可能性だって低いんだしさ」


「うん、うん、そうだね」


 嬉しかった。よかった。


「仲原にも言うんだぞ。他の奴らに言うのはやめといた方が良さそうだけど。てかカード見せてくれよ」


『隠蔽』を外してカードを渡す。


「うっわほんとにレベル20までいってる。多分今クラスの中じゃ一番レベル高いだろうな。俺が12でたしか神代が13だったはずだし」


 まじですかい。まああの吸血鬼の戦闘一戦一戦が短かったからなぁ。その差なんだろうな。


「この『雷纒(大)』ってなんなんだろうな。俺たちが普通に使うのって『雷魔法』のスキルだし。もしかして俺たちのスキルと魔物のスキルって別物なのかね?」


「うーんどうなんだろうね。昨日読んだ本には特にそういう事書かれてなかったし……。自分達はカードのおかげでスキルが見れるけど、魔物のスキルなんて見ようがないしね」


「そうなのか。『隠蔽』なんてスキルがあるんだし、『鑑定』とか『看破』とか相手のスキルが見れそうなスキルとか魔法道具があると思ったんだけどな」


「確かにそうかも。魔法道具の本はまだ読んでないからどうかわかんないけど、魔法道具の作り方がわかれば何か作ってみたいね」


「お、じゃあ期待しとくぜ。それじゃそろそろ飯でも食いに行くか」


「うん」




 朝食は各自好きな時間に取ることになっていて、仲原さんには会えなかった。昼には訓練で会えるので早いか遅いかだけの問題だが。


 朝食の後は昼になるまで本を読んでいた。今回は魔法道具についての本だ。今朝話していた事もあるしね。



 魔法道具を作るのには魔力圧縮機と魔法道具にしたい道具の材料、スライムの液体が必要となる。種類はどのスライムの物でも良いが、溶けたりする物はそれに耐えうる基を用意しなければ使い物にはならないだろう。


 スライムの液体は魔力の伝導性が非常に高い。他にも魔力の伝導性が高い物はたくさんあるが、加工が必要であったりと扱い辛い物がたくさんである。そして加工してもスライムの液体の方が魔力の伝導性が高く、スライムの液体は加工の必要性が無い。その分少し量が必要になるが、スライムはほとんどが弱い魔物である為、苦労する事はないだろう。そのため、他の素材が魔法道具に使われる事の方が稀である。


 魔法道具の製造方法だが、既存の道具を魔法道具にする事は出来ない。それなりに近しい物が過去に作られた事はあるが、性能を比較しても魔法道具の方が高かったからだ。どうにかして作れないかと研究している者が幾人もいるが、結果は芳しくなく、現状は一から作るしかないとされている。

 一から作る方法だが、それは作る物によって様々だ。何故なら、武器や機器、本、光源など色々な物を魔法道具にする事が出来るためだ。光源、ランタン等の作り方だが、これには『光魔法』か『火魔法』が必要になる。この二つのどちらかが明かりの基になるからだ。基本的な構造は普通のランタンのもので構わないが、明かりは魔法を魔法式というものにして、スライムの液体で魔法式を描き、魔力を注ぐ場所と魔法式をスライムの液体で繋げる事が必要となる。スライムの液体は魔力を注ぐ事により固形化するため、一度魔力を注げば魔法式や回路が固形化し魔法道具のランタンが完成となる。


 魔法式だが、これには『魔力把握』と魔力圧縮機が必要になる。魔力圧縮機に魔力を注ぎ込むのだが、その時の魔力が多すぎても少なすぎても出来ず、一定の量を魔力式が完成するまで注ぐ必要があるため、『魔力把握』が必要となる。その際に、どうやってスキルを式に付与するのかだが、これは念じることだ。自身の持っている付与したいスキルを思い浮かべながら魔力を注ぐ。魔法式は完成すると光を放つ。これで、魔法道具に使用する魔法式の完成となる。


 ランタンの作り方の時にスライムの液体で魔法式を描くと記述したが、ここで作った魔法式を使用しても魔法道具を作製する事は可能だ。しかし、そうすると見本を使用するという事になるので、同じ魔法道具を作るのにまた魔法式を作製する事になる。



 むむぅ。なかなか大変そうな気がするな。それに魔力圧縮機って物が必要なのか。頼めば貸してくれそうだけど、自由に使うためには自分用のを手に入れた方がいいよね。そうすると何処かで買ったりしなきゃいけないのかな。そうなると、この世界のお金が必要になるのかぁ。これは隊長さんとかに相談かなぁ。


「おーい鉄、そろそろ時間だぞー」


 どうやらもう訓練の時間らしい。本を読んでいると時間を忘れてしまうな。隼人に返事をして身支度を整え、集合場所の修練場へ向かう。


「仲原にはもう話したのか?」


「ううん。まだだよ。見つからなかったから、訓練の集合の時にしようかなって思ってて」


「なるほどな。早いか遅いかだけの問題だし、それでもいいか。ちゃんと言うんだぞ」


「わかってるよ……」


 修練場に着くと他の組も集合しているようだった。今日は合同だったりするのだろうか?あ、土井がこっちを見て驚いている。服の事を誤魔化した時に土井だけはいなかったから驚いて当然か。魔法を受けた次の日に平然としてるんだからね。昨日の事があるのと隼人が近くにいるからかこっちに来ることはないみたいだ。っとと、土井じゃなくて仲原さんを探さなきゃね。


「仲原みっけ、ついてこい鉄」


「うわ、先越された」


 土井を見ていたら隼人が仲原さんを見つけてしまった。


「おっす!」


「こんにちは、仲原さん」


「うん、こんにちは、鉄条君に不知火君」


「えーっと、今大丈夫?ちょっと重大な話があるんだけど……」


「え、う、うん、大丈夫だけど……重大な話って?」


「うーんと、とりあえず、大声は出さないでね?知ってるの隼人だけだから」


「うん、わかった」


 隼人に話した事を仲原さんにも話した。


「うん、うん、うん。……なるほどね。けどこういう事は最初から言ってほしかったかな。鉄条君の心配も理解出来るから強くは言えないけどね。それで、不知火君はいつから知ってたの?」


「俺も今日だ。本当まじでこれからは秘密は無しでいこうぜ。俺たちはそんな些細な事で鉄を嫌ったりしないし、その秘密を言いふらすような事なんてしないからさ」


「うん……わかったよ。これからはそうする」


 二人が良い人で優しい人で本当に良かったと、心からそう思った。

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