第5話 調べごととゴタゴタ

 僕達は今、この世界に来た時に最初にいた城の一室で昼飯を食べている。メニューはパンと何らかの野菜を使ったサラダ、そしてガルルの肉だ。食べたいと思っていたガルルの肉がすぐに食べれるとは思っていなかった。正直嬉しい。


 どうやらここら辺で食べられている肉は全部ガルルの肉らしい。料理長さんが言っていた。まあ洞窟が近くにあるし、隊長さんとかかなり強そうだからね。


 白米は無いのか聞いてみたが、あるにはあるが今はあまり量が無く出せないらしかった。僕はパン派だし今食べてるパンがとても美味しいから別にいいんだけどね。

 サラダは、見た事のない野菜と人参や玉ねぎといった元の世界にもあった野菜を合わせて作られている。シャキシャキとした食感がしてかなり食べ応えがあった。

 ガルルの肉は隊長さんに聞いていた通り、柔らかく、とろけるような味わいで大満足だ。肉汁がジュワッと広がってしつこくもなく、白米と合わせて食べたいと思った。


 なかなかに充実した昼飯を終え、僕は図書室へ他のみんなはレベリングに向かった。今日はみんなレベリングに専念するらしい。明日には頑張らないといけないなぁ。


 3人の内の1人の騎士さんが付き添いでついて来てくれた。僕一人のために有難い話だ。本も持って来てくれるそうだ。僕一人では、目的の本を探す所から始めなければならなかったので、時間短縮になって嬉しい。僕は魔物の図鑑や世界のこと、魔法道具や魔力等の魔法に関係する本を読む事にした。


 魔物にはかなりの種類がいるようだ。洞窟にいたスライムやガルルの他にもオークやコボルト、ジャイアントスパイダー、スナイプビー、アイアンスネーク、など多種多様な魔物がいるらしい。同じ種類でも強い魔物と弱い魔物がいるらしく、強い方には体内に魔石という魔力の塊があるらしい。

 スライムには魔石を持った個体はいないらしいが種類が豊富らしい。酸や溶岩で出来ているスライムっていったい……。


 この世界は4つの大陸で出来ているみたいだ。今、僕達がいる人が統べる大陸、魔王が統べる大陸、獣人が統べる大陸、それ以外の種族が合同で統べる大陸の4つだ。

 魔王が統べる大陸以外の大陸には各大陸に7つのダンジョンがあるらしい。その内クリアされているダンジョンは獣人大陸で2つ、多種族大陸で3つで、残りの16ダンジョンはまだクリアされていないそうだ。

 過去にクリアされたダンジョンにはかなり高性能な魔法道具や剣などがあったらしい。


 こういうダンジョンってかなり強い魔物とかいるだろうから、行くことは無いかもなぁ。だけど21個ある内の5個しかまだクリアされてないってすごいよなぁ。クリアしたのってどんな人達なんだろうなぁ。


 他に特に気になるような情報もなく、魔法関係の本を読もうと思っていたら図書室に他の人が入ってきた。あれは、美智永さんだな。彼女がここにいるってことは、1組はもう訓練終わりなのかな。彼女はぐるりと図書室の中を見渡して、僕の方へやってきた。


「えーっと……鉄条君でよかったかしら?」


「う、うん。あってるけど……。何か用?」


「読み終わった本を貸してもらえないかなってね」


「いいけど、まだこれだけだよ?」


 読み終えている魔物図鑑と世界関係の本を指す。何冊か読んだがどれも同じような事しか書かれていなかった本達だ。


「十分よ。それにそれ全部今日で読み終える気はないしね」


「そっか。それじゃ、はい」


 本を手渡す。結構な数な為に重いから持てるかどうかと思っていたら軽々と持っていた。レベル補正なのかそれとも元々力持ちなのだろうか?


「ありがと。それじゃまたね」


「うん」


 本を持って図書室を出て行く美智永さん。さて、気を取り直して魔法関係を読もうかな。


 魔力について。魔力とは身体の中にある魔法を使うための力である。では、身体のどこにあるのか、どこから生成されているのか。それは心臓、そして血である。


 隊長さんが心臓付近と言っていたが付近じゃなかったのか。それに血か。そういえば魔物図鑑で魔法を使う魔物を調べていた時に、スライムとかボーンアンデットとかの血を持ってない魔物は載ってなかったし、魔物に関しても魔力は血から生成されるのか。


 自身のレベルが上がる事や魔法を何回も使う事により魔力総量が増えるのは、魔力枯渇を防ぐ為に身体が成長しているからだ、という意見があるがまだ理由は解明出来ていない。


 魔力枯渇は自身の魔力を使い切ると起こり、頭痛やだるさ、めまい等の症状が出る。1、2時間ほどで治るが戦闘中などに症状が出ると危険なので、自身の魔力総量と現在の魔力使用量を把握しておく必要がある。『魔力把握』はスキルを持っているとすぐに出来るが、持っていないとなかなか難しい。自身の心臓部分に意識を集中させ、そこに魔力で出来た塊がある。その塊の大きさで現在の魔力総量と使用量がわかるようになっている。

 スキルを持っていないと魔力の塊を見つける事がまず難しい。だが、一回でも成功させレベルを上げれば、スキルに『魔力把握』が追加されるのでやっておいた方が良いだろう。


 ふむ。スキルはレベルが上がった時にしか増えないのかな?そうだとしたら高レベルになる程スキルを取得しづらいだろうから、今のうちになるべく増やしておきたいところだ。この『魔力把握』も今のうちに手に入れておいた方がいいだろう。やってみるか。


 ……。………。

 ………。…………。……………。


「ふぅ。つっかれたぁ」


 なんとか出来た。にしても難しすぎるよ。なかなか集中力が続かないし。今何時くらいだろう。ちょっと外を見てみるか。


 図書室を出てみると、外はすっかり夕暮れになっていた。


 結構時間が経ってたんだなぁ。残りはまた今度にしようかな。図書室にいる騎士さんに声をかけ、図書室を後にする。なかなか充実した1日だったような気がする。みんなはレベリングをしているはずだけど、いつ終わりだろう。もしかしてもう終わってて帰って来てるかな。


 とりあえず修練場に行ってみるか。カキンッという音が響いてきた。やっぱり修練場には誰かいたかと思い、扉を開けたのが間違いだった。そこにいたのは土井達だった。最悪だ。周りに誰もいないし、迷惑事が起きるの確定だ。


「お、ちょうどいい所に来たじゃねぇか!くず鉄!こっち来い!」


 呼ばれてしまったので行かなければならない。はぁめんどくさい。


「お前今何レベだ?」


 言うのもめんどくさいのでカードを渡す。言ったとしても嘘とか言われて殴られるかもだし••••••。


「たった3レベかよ。今日何してたんだお前?才能ないんじゃねぇの?」


 と笑いながら言ってくる。図書室に籠ってたんだから、レベルは上がってなくて当然だ。


「お昼に切り上げた後に図書室に籠ってたんだ」


「へーそうかよ。ちなみに俺は8レベだぞ!おめーが本なんか読んでる間に頑張ってたんでなぁ!」


 ひゃっひゃっひゃっと高笑いをしているが、僕が昼に3レベになったのに、夕暮れのこの時間で8レベというのもあまり高くないんじゃぁ……と思ってしまったのが顔に出てしまい、苛立たせてしまった。


「んだよその顔は!」


 殴ってきた。痛い。さすが自称8レベだけあって能力も上がっているようだ。隼人達に見られたらまた言われちゃうよ……。ってちょっと待って。なんか土井が手をこっち向けて構えてるんだけど。


「これでもくらってろ!」


 ちょ、まっ。っつぅぅ。人に向かって魔法撃つ奴があるかよクソがっ。いったいなぁ。血も出ちゃってるし、どう言い訳すればいいんだこれ。あ、血止まった。『自己再生』スキルの効果だなこれ。傷も塞がっていってるし。『自己再生』スキルすごいな。腹におもいっきり魔法くらって受けた傷が跡形もなく、綺麗さっぱりなくなったよ。『自己再生』スキルの検証が少し出来たのには感謝するけど、魔法撃ってくるのはさすがにまずい。治るといっても痛みはあるみたいだし。けど痛みを度外視すれば、多少の無茶がきくって事だよなぁこれ。


 腹の痛みがなくなったので起き上がってみれば、土井達はいなくなっていた。逃げたのか。まあさすがに魔法を人に当てたら死ぬ可能性あるしね。僕のカードが落ちているので拾っておく。落ちてるってことは相当慌ててたんだろうなぁ。使った本人が何やってんだか。

 今回土井が使った魔法が『土属性』の物理系でよかったよ。ほんとに。これがあの水の刃とか火の剣とかだったら腹が斬れて、内臓どばぁだよ。そうなったらさすがに『自己再生』でもどうにもならないだろうし、本当に危なかった。


 そういえば土井の武器が変わってたな。メイスだったのが剣一本だった。仲原さんの推測通り持ち上がらなかったんだろうなぁ。


 さて、どうしようかな、これ。服は破れちゃってるし、周り血だらけだし。あ、この血って僕のだし、スキルの『血液操作』使えるのかな。周りの血に集まれ〜と念じてみた。すると、それが聞こえたかのように血が一箇所に集まっていく。おおっすごい!血が動いてる!けどこれどうしようか。あ、固まらせて・・・・・持ち歩いとくか。何かに使えそうだし。


 血の方はこれで解決だけど服の方はもうどうしようもないなぁ。ズボンは無事だけど上は完全にダメだ。お腹部分くっきり空いてるし。どうやって説明しようかなぁ……。はぁ……。

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