第4話 御目当ての魔物
隊長さんがランタンに魔力を流したようで他のみんながおおっと声をあげている。僕は元々見えてるから変化がわからなくて驚きづらいな……。
「みんな前の方を見ろ。あそこで寝ているのがガルルという魔物だ」
キタ!ガルルキタ!隊長さんの情報通り狼の様な見た目だ。色は紺。
「ガルルはこの洞窟に出る魔物の中じゃ一番危険だ。奴は素早く、そして魔法を使うぞ」
魔法を使ってくるのは厄介だな……。『吸血』スキルが効きそうなのがここだとガルルだけだから、安全かつ楽に狩れたら良かったのだが••••••。とりあえずどんな魔法なのか聞こう。
「どんな魔法を使ってくるんですか?」
「奴が使うのは雷魔法だ。自身の身体に電気を纏って、通常よりも速く動くというものだ。奴の武器はその魔法と鋭い歯だが、その歯にも電気を纏わせる事が出来るのを確認している。それに奴らは基本群れで行動する。一体ずつならそれほどでないが、三体以上だとかなり厄介だ」
「なるほど……」
かなり辛いな。僕一人で狩るのは無理かもしれない。『自己再生』がかなり優秀なスキルなら多少無茶をすれば狩ることが出来るだろうが……。スキルを過信して治らない傷を受けてしまえば、死んだも同然だろう。
「だが、今あそこにいるガルルは一体でしかも寝ている。これは好機だ。俺と騎士3人で周囲を警戒するから君達だけで倒してみるといい」
「わかりました。出来る限りの事をしてみます」
「私はサポートに徹するね」
「よしっ!やるか!」
さて、どう攻めるか。寝ているといっても奴は危険だ。狼型だし感覚も鋭いはず。みんなに魔法を出してもらって集中砲火すれば簡単に倒せるだろうが、隊長さんは戦い方を学んでほしいと思っているはずだ。この作戦はあまりよろしくない。ならば……。
「僕に案があるから聞いてほしい。魔法で水の刃を使っていた人、ガルルの脚どれか一本に当ててくれ。その時点で奴は起きてこちらを攻撃してくるはず。それを大きな武器持ちの人がガードしてくれ。速いといっても脚にダメージを受けたらあまりスピードは出ないはずだ。僕と他の素早い人で奴の動きをなるべく制限して、一撃の威力が高い武器か魔法を当てて撃破。こんなでどうかな?」
結構穴がある作戦だがそこは初戦だししょうがないだろう。それよりこれに乗ってくれるか、これよりいい案があるかの方だ。
「なあ、そんな事しないでも魔法を一気にぶちかましたら倒せるんじゃないか?」
「俺もそう思うんだが」
オタク集団の一人と隼人がそう言ってくる。
「それでもいいんだけどね。いつでもそんな戦法が通じる訳でもないし、一人一人戦い方を学んでいかないと、この世界じゃ生きていけないと思うよ。だから今回は魔法集中砲火は止めにしたんだ。それに、奴の動きを見ておいた方がいい。起きている状態で出会った時、奴がどんな風に襲ってくるかわからないからね。知っておくことは必要だと思う」
「な、なるほど。そこまで考えてたのか。ならその案でいこう」
「ああ。それがいいな」
二人が納得してくれた。周りのみんなもなるほどと頷いている。みんな考えてなかったのか……。
「今考えた作戦だから穴も多いし、奴の動きを知らないから不測の事態が起こる可能性もある。そこだけは注意してほしいかな。それじゃあ作戦開始だ!」
掛け声を聞いて、一人が魔法を使用する。水の刃が前方、寝ているガルルの脚に見事命中した。あわよくば切れればと思って水の刃を指定したが、脚に傷を付けただけで切れはしなかった。
ガルルは脚に傷を受けるとこちらに気付き、襲ってきた。しかし作戦通り、脚にダメージがあるせいでスピードがあまり出ていない。だが、奴が雷魔法を使うとさっきより速くこちらに駆け寄ってきた。予想より速いが、それでもまだなんとかなるスピードだ。
「防御!」
僕は叫ぶ。すると大剣を持った人が目の前に出て、盾のように大剣を扱い、奴の攻撃を防ぐ。
ここからが僕の出番だ。両手に短剣を持って、奴にダメージを与えては引くの繰り返しで注意を引く。ヒットアンドアウェイだ。どうやら電気を纏えるのも常時ではないらしく、比較的安全に少しずつダメージを蓄積させる事に成功している。
後方では、隼人が魔法使用のためのイメージをしていて、仲原さんが奴が電気を纏った瞬間を狙って魔法で援護してくれている。なるべく早く隼人の魔法が完成してほしい。こっちに注意を引くにも限度があるし、防御を担当している人の方も限界がある。
「出来たぞ!」
隼人が声をあげ、後方から前へ出てくる。隼人の近くには火で出来た剣が二本、宙に浮いていた。
「フレイムソード!」
技名を叫び、火の剣がガルルに向かう。僕はガルルが避けられないように退路を塞ぐ。隼人が魔法を放った後に自身も剣で攻撃をする様で駆けてきているが、必要無かったらしい。二つの火の剣がガルルに命中し、頭と尻尾を焼き切ったからだ。頭を切られては流石に生きてはいまい。
ふうっと大きく息を吐き、作戦成功に安堵する。不測の事態も特に起きなかったし、今回は完勝だろう。
「ナイス魔法!」
「そんなことねーよ。作戦が良かっんだ」
そんなこと言われると照れるな。
「ああ、見事な作戦だったぞ」
隊長さんが褒めてくれた。隊長さんにまで、褒められるとはなかなかいい作戦だったんだなぁ。
「だが、倒してからすぐ気を抜くのは良くないぞ。周囲を確認し、他に敵がいないかしっかり調べてからだな。まあ今回は俺たちが周囲の警戒をしていたから必要は無かったがな。覚えておけよ」
「はい」
隊長さんの言うことはもっともなので素直に聞いた。確かに気を抜いた瞬間他の敵が出現して、攻撃してきていたら僕は回避する事が出来ず、怪我を負っていただろうからだ。
だが、まあ今回は良しとしておこう。次回から気を付けておけばいい。そういえば……。
「隊長さん、ガルルからは何が取れるんですか?」
素材を聞いておこう。自分で狩ることになるだろうし。
「ガルルからは牙と毛皮、肉だな。まあ言ってしまえば全身だ」
「そうなんですか。機会があれば食べてみたいですね」
「奴の肉は柔らかくてなかなか美味いぞ。楽しみにしておけ」
「はい!」
騎士一人が剥ぎ取り方を教えてくれるそうなので、みんなで見学した。そこまで難しい訳でもないらしいが慣れが必要だそうだ。
「さて、見事な戦いぶりだったな。みんな配ったカードを持っているな。あれを出して見てみるといい」
言われてカードを取り出す。そこには
鉄条 零 『人族(吸血鬼)』
男 レベル3
スキル:『吸血』『自己再生』『血液譲渡』『血液操作』『隠蔽』
称号:『転移者』『目醒めし者』『吸血鬼』『真祖』
と書かれていた。スキル、称号に変わりはないが、レベルが上がっている。
「どうだ。レベルが上がっているだろう。レベルを上げるには魔物を倒す事が必要になってくる。そしてレベルが上がると魔力総量と身体能力が向上する」
数値にはなっていないがちゃんと上昇するのか。安心した。さすがに能力が普通の人並みでドラゴンとか挑む気になれないからね。ドラゴンがいるか知らないけど。
「魔力総量に関しては魔法を使っていく事で更に増えるから魔法の鍛錬はしておいて損はないぞ。だが、魔法にばかり頼るのは良くないからな。さて、時間もいい頃合いだし戻るぞ」
「まだ全然時間経ってない気がするんですけど、もう帰るんですか?」
「ああ。流石にお昼を抜くのは良くないし、君達はまだこっちに来たばかりだからな。他にやりたい事もあるだろう」
やりたい事……か。どんな魔物がいるのかとか調べたいな。大陸がどんな風になっているのかも気になる。この洞窟でレベルを上げるのにも限度があるからなぁ。
「そう……ですね。考えてみればやりたい事はありますね」
うんうん、と全員が頷く。
「だろう?そういう事も考えて今日は切り上げようと思ってな。切り上げ時間は各自の担当騎士に任せているから他の騎士がいつ切り上げるかはわからないがな。もちろん、昼飯を食った後に、魔物を倒してレベルを上げたいという者がいれば俺は付いて行くぞ。じゃあ帰るぞ!」
隊長さんすごいいい人だな。この人が隊長やってる騎士団はきっといい雰囲気なんだろうな。
「エルリックさんめっちゃいい人だな」
隼人が話しかけてきた。隼人の意見には同意だ。
「だね。僕はレベリングの他にもやりたい事があったからありがたかったよ」
「鉄条君は他にやることがあったの?」
仲原さんが会話に参加してきた。
「そりゃああるよ。この世界の事とか、魔物の事とか色々調べなきゃいけない事が沢山だよ。情報とか知識とかはあるに越したことはないからね」
「あー、なるほど。俺はレベリングの事しか考えてなかったなぁ」
「私もそうかも。生き抜く為に自分の能力上げる事しか考えてなかった。確かに知識は必要かも」
「二人共もっと視野を広くもった方がいいよ……」
「だなぁ。ま、今日はレベリングかな。まだ行くにしてもこの洞窟だろうし。それに戦力になる奴がいたほうがいいだろうしな!」
「私も今日はレベリングにしようかな。調べ物は寝る前にする事にするよ」
「二人共無事に戻ってきてね。油断と過信は絶対にしない事だよ」
「「はーい」」
二人揃って返事をする。この二人に死なれるのは嫌だから注意はしとかないとね。隼人は狭く深くの考え方だからね。周りの誰かが色々注意してなきゃ危なっかしいし。仲原さんは色々と考えてはいるけど、周りが見えなくなる時が多々あるからね。
帰りは特に魔物に出会うこともなく、無事洞窟から帰ることが出来た。他の組はまだ洞窟に残っているようで、見ることはなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます