第3話 訓練開始と魔法

 さて、どんな武器にしようか。ゲームなんかでは死んだとしても生き返れるから好きな武器を選ぶが、流石に自分の生死がかかった場面では慎重に選ばざるを得ない。

 遠距離武器なんかは近付かずに敵を倒す事が出来るということでかなり安全に狩りが出来るだろう。ゲームなんかと同じであるならば、敵を倒せば経験値が手に入りレベルが上がる。そのレベル上げが安全に出来るのはかなりの利点だ。


 だが、自分には『吸血』スキルがある。この『吸血』は相手の血を吸うことにより、その相手の能力値やスキルを得ることが出来るチートスキルだ。

 吸血鬼は吸血をすることで眷属などを増やすという話があったりするが僕の『吸血』はそうじゃないみたいだ。僕が眷属を増やしたりするには、スキルの『血液譲渡』を使う必要があるみたいだ。


 その『吸血』スキルが敵に使えるのであれば、多少の危険を顧みても近接武器を使って沢山敵を倒して、その血を吸うのも手の一つだろう。ここは隊長さんに少し聞いてみるか。


「隊長さん、少し聞きたいことがあるんですけどいいですか?」


「ん、いいぞ。なんだ?」


「僕達は魔王を倒すために訓練をするって事ですけど、訓練ではモンスター的なものとかと戦ったりするんですか?」


「ああ、そのことか。まあそうだな。モンスターというのはよくわからんが魔物を倒す事が主な訓練になるだろうな」


「魔物ですか。その魔物ってどんな感じなんです?」


「んー、種類が沢山いるから答えづらいな。これから戦ってもらう魔物はガルルという狼みたいな見た目をしたやつだな。あとは全身がゲル状のスライムや骨に取り憑いたボーンアンデットなどだな」


「なるほど。ありがとうございます」


「いや、礼はいい。情報を得ようとするのはいいことだ。敵の事を知ってるか知っていないかで対応がかなり違うからな」


「では、僕は武器を選んできますね」


「ああ」


 ふむ。スライムとボーンアンデットという魔物は血がないから『吸血』スキルは使えないだろう。だがガルルという狼型の魔物には使えそうではなかろうか。狼型みたいだし、きっと血があるに違いない。とりあえず近接武器にしておこう。もし『吸血』スキルが使えなかったら遠距離武器に変えさせてもらうということにして。

 ……というか『吸血』スキルが魔物に使えなかったら人の血を吸う他に使いようがない。流石に人から血を吸うのは遠慮したいところだ。


 ということで、自分に合いそうな武器を手に取った。小回りが利きそうな短剣2本だ。身長が低い(150くらい)からあまり大きい物を選ぶわけにもいかず、せっかく低いなら動き回れる武器の方がいいと思い短剣にしたのだ。短剣はかなり接近しないといけないが他に使えそうな武器もない。

 それに『吸血』スキルが血液を摂取するだけで効果を発揮するのか、吸血鬼らしく本体から血を吸わなければ効果を発揮しないのか、ここら辺を調べるためにも刃物の方がいい。


「さて、みんな武器を選び終えたな?なら洞窟へ行くぞ」


 隊長さんの掛け声でまた移動を開始する。その洞窟にさっきの話に出た魔物がいるのだろう。しかし、この人数で行って大丈夫なのだろうか?まあきっと大丈夫なのだろう。


 と、自己完結すると仲原さんと隼人に呼ばれた。


「なあ、鉄はどんな武器にしたんだ?」


「鉄条君、私にも教えて欲しいな?」


「短剣だよ。この2本」


「ほっほー短剣かぁ。その2つで低身長活かして動き回るってことか。なかなか考えるじゃないの」


「まあね。ゲームじゃないんだからちゃんと身の丈にあった物を選ばなきゃだし」


「私もそこには同意。神代君とか土井君とか扱えなさそうな武器持ってたし」


「へぇーどんな?」


「神代君が片手剣2本で土井君がメイスね。神代君は二刀流をしようとしてるのかもだけど流石に右手と左手で動きが違いすぎるから使いこなすのは無理だろうし、土井君はメイスが大きくて重たすぎだから、多分持ち上がらないんじゃないかな。さっきからずっと引きずってるし」


「ほんとだ。それで、君達の武器を教えてもらっても?」


「俺は片手剣1本だ。スキルに『剣術』があったし、剣は慣れてるからな。まあ剣道とは色々と違うだろうけど」


「私はスタッフだよ。スキルが魔法系しか無かったし、力もそんなに無いから魔法使いとして頑張ろうかなって」


「うん、二人共現状をよく考えて選んでるみたいだね」


「ゲームじゃないからな、これは」


「うん、死にたくないもん、絶対に」


 ちゃんと現状把握が出来てるこの二人なら死ぬ事はきっとないだろう。理不尽な目にあいでもしない限り。


 そんな話をしていると先頭集団が歩みを止めた。どうやら洞窟に着いたようだ。


「これから何組かに分かれて洞窟に入ってもらう。洞窟は複数あるから待機する組は出ないだろう。それぞれに騎士が数名ずつ付くからそいつらから魔物の弱点を教えてもらい、撃破してほしい。それでは、これより訓練を開始する!」


 訓練開始か……。ガルルを狩りたいとこだが狼型で素早いだろうしスライムなんかを倒しまくりたいところだ。


 組は4つに分かれた。1組目は神代君や美智永さんを中心としたチーム。2組目は土井達いじめ集団。3組目がなんと女子だけのパーティーだった。4組目が僕達三人とオタク集団である。

 土井達と一緒にならないでよかった。そんなことになったら盾にされそうだからね。『自己再生』のスキルがどこまで有能なのかわからない以上あまり怪我をしたくない。


 僕達の組には隊長さんと他に騎士3人が付いてきてくれた。3人の騎士がどれくらい強いのかわからないが、隊長さんがいれば今日この組から死人は出ないだろう。


「さあ!行くぞ!」


 僕達は4つ目の洞窟に入る。広さは充分にあり、10人くらいなら横に並んでも大丈夫なくらいだろう。


「待て」


 隊長が静かに言い、全員が足を止める。


「あそこに見えるのがスライムだ。あれは特に能力が何もない雑魚だ。体内にある丸い核を壊す事で倒す事が出来る。ゲル状の体に物理的ダメージをいれても効かないから覚えておけ。ただし、核になら物理的ダメージも効く。だが基本は魔法系で倒す。奴は起きている時核を常に移動させるからな」


「魔法系ですか。その魔法ってどうやれば使えるんです?」


「まずはスキルを持っていることだな。スキルはレベルが上がると増える事があるから、今持ってない奴も話は聞いておけ。

 魔法を使うために必要な事だがそれは1つだけだ。イメージ。想像力だ。俺は『火魔法』のスキルを持っているから火を出すことが出来るが、その出す時のイメージと出した後のイメージを頭の中で想像することによって使う事が出来る」


 そう言って隊長さんは火の玉を数個出した。急に現れた熱を放つその玉は前方にいたスライムの方へ向かっていき、スライムの核をスライム諸共燃やし尽くした。


「今みたいに、火の玉を出す、火の玉を敵に当てるというイメージをする事によって魔法を使う事が出来る。今は何も言わないで出したが、自分で出来たイメージに名前を付けて、その技名を口にするとイメージしやすいだろう」


 なるほど。イメージに技名ね。さっき隊長さんが使ったのはファイアボールってな感じかな。自分で技名付けるって厨二病みたいだなぁ。


「さて、一匹は倒したがまだまだたくさんいる。誰かあそこにいるスライムに魔法を使ってみたい奴はいるか?」


 オタク集団と隼人が手をあげる。男だもんね。魔法には憧れるよね。僕は使えないけどね!


「それじゃあ手をあげた奴全員でやるか。各々自分が持ってる魔法系でイメージしろ。今はまだ訓練だからさっき私が使って見せたやつを真似して構わないから」


 オタク集団と隼人が横並びになって前方にたくさんいるスライムの方へと手を伸ばした。隊長さんが使った時に手を伸ばしたりはしてなかったから、イメージの問題かな。数秒でオタク集団の一人が技名を告げ、火球を出現させる。さっき隊長さんが使ったのと同じだからイメージしやすかったんだろう。


 だが、他の奴らはみんな個々で違うものをイメージしているようだ。少し遅れて、オタク集団と隼人が技名を告げて、魔法を出す。

 その魔法は火の剣や雷、氷の槍、水の刃など様々だ。それらが一斉にスライムの方へ射出されていく。次々と殺到する攻撃にスライムはなすすべもなくやられていく。中々に爽快な光景だ。無双ゲームのような感じだ。


 全員が魔法を撃ち終わると、前方にいたスライムは全て核を壊され、ドロドロと溶けていた。すると付いてきていた騎士3人が後ろから前へ出て、ドロドロに溶けたスライムの残骸を瓶に詰め始めた。

 某狩ゲーのような感じで魔物からアイテムが取れるようだ。他の魔物なら剥ぎ取りと言えるだろうが、スライムの場合採取みたいになっているが。


「核を壊すとスライムは形を保てなくなり、ドロドロに溶ける。そのドロドロに溶けた物はスライムエキスと呼んでいるが、色々な魔法道具を作るのに使われるから倒したら今騎士がやっているように取るようにしてくれ」


 魔法道具か。色々と面白そうな物がありそうでどんな風なのか楽しみだ。


 騎士3人の採取が終わり、洞窟内を更に進んでいく。


「さて、外の光が入ってこないから暗くて周りが見辛くなってきたな」


 そうだろうか?僕には奥の方まではっきりと見えているのだが。これも基本夜に生きる吸血鬼の特性かもしれないな。


「暗くて周囲が見えないと連携が取れなかったり、魔物の奇襲を受ける場合がある。そうならないよう、明かりを確保しておけ。『光魔法』や『火魔法』のスキルを持っている奴はそれで明かりを確保してもいいが、今回はこれを使う」


 隊長さんが取り出したのはランタンのような形をしたものだ。


「これはさっき話した魔法道具というものだ。これは魔力を通すことで、周囲を明るくすることが出来る代物だ」


 魔力ねぇ。さっき魔法を使ってた隼人達も魔力というものを使っていたのだろう。まあ一応聞いておくか。


「魔力ってなんですか?」


「魔法を使うための力、源だな。自分の心臓付近にあると思ってくれ。魔法を使う時はあまり気にしなくてもイメージによって自動で使用されるんだが、魔法道具の場合は自分達でどのくらい使うのか決めて通す。魔力を通す時も大事なのはイメージだ。それと、魔力は休んだりすれば回復する」


「なるほど、ありがとうございます」


 まあゲームでいう所のMPみたいなものだな。数値化されていないが。ゲーム感覚は良くないが、ゲームに似ている所はゲームみたいな解釈をしよう。生死などは別だが。

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