第2話 吸血鬼
まあそうだろう、と僕は思っていた。オタク集団が言ったみたいに漫画やアニメ、小説のような出来事が起きたのだ。その手の方面にある程度触れていれば今の状況を見極めるのも難しい話じゃない。
例えば、ここに僕達のクラスが召喚された事について。これはどうせ倒してほしい奴がいるとかそんな事だろう。ありきたりなことを言えば魔王や魔族なんかだ。
「い、異世界?お、俺らはこれからどうなるんだよ!元の世界へ帰る方法は!」
吠えるように声を出す神代君。神代君はきっとそっち方面には疎いのだろう。それに帰る方法なんて目的を達成するか無いかのどちらかじゃないか?
「あなた方は勇者様でございます。世話の方は私達が致しますのでご心配なく。帰還の方法ですが、あるにはあるのですが……」
「あるのかっ!なら今すぐ帰してくれ!」
「すみません。私達のもとにはないのです。帰還の方法は私達の敵が、魔王が持っているのです」
あるのか。嘘かもしれないが。
「なっ………。じゃ、じゃあ帰れないじゃないか!僕達にも家族がいるんだ!こっちでずっとその魔王とやらを倒すまで待ってろって言うのか!」
「いえ、待つ必要は御座いませんよ。あなた方が魔王を倒せばいいのです。勇者なんですから。そうすれば帰るのも早くなりますし、私達の目的も達せられて一石二鳥です」
「倒せばってそんな、無理に決まってるだろ!俺たちにはなんにも力がないんだぞ!それに勇者?意味がわからない!」
そうだそうだ!とクラスの半数が声を挙げた。僕やオタク集団はなんとなく次の展開がわかっているので声を出していない。
「落ち着いてください。あなた方に力はあります。それも強大な力が。それを知ってもらう為に此方へ来てください」
そう言って男性は少女を引き連れて扉の方へ向かっていく。クラス全員がその男性の後を追う。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はアルス王国国王のユリザル・ハーカーと申します。こちらは私の娘のメネア・ハーカーです」
国王とその娘か。そこは大体予想がつく。こんなことするのなんて国のトップじゃなきゃ無理だろうし。
だけどクラスの奴らはざわついた。国王とかならあの子は王女かなどと口々に言葉が行き交っている。
「俺たちは
国王と聞いた途端口調が大人しくなったな。しょうがないのかもしれないが。
「もうつくよ。ほら」
そして連れてこられたのは庭と呼ぶにはかなり広い空間だった。そこには数名の甲冑を着た人達がいた。
「えっと、ここは?」
「修練場だよ。ここでならどんなことが起きても大丈夫なんだ。それで、君たちに渡すものがある。」
そうして皆に配られたのは針と薄い銀色のカードだ。
「自分達の血をそのカードに垂らしてほしい。そうすれば君たちの力がわかる。」
ここに来た理由である力の事が分かるというのであれば、と皆自分の指に針を刺し、血をカードに垂らす。
血がカードに触れた瞬間強烈な光が発せられ、先程まで何も書かれていなかったカードに文字が浮かび上がった。丁寧に日本語翻訳されてある。
鉄条 零 『人族(吸血鬼)』
男 レベル1
スキル:『吸血』『自己再生』『血液譲渡』『血液操作』『隠蔽』
称号:『転移者』『目醒めし者』『吸血鬼』『真祖』
僕は吸血鬼らしいです。なんで!?いつの間に人間やめちゃったの!?僕の人生の中で一番の驚きだよ!それにこれ誰かに見られたらまずいよね。こういうのは自分一人だけの秘密にしたほうがいい。絶対に。混乱招くから。
ということでスキルの『隠蔽』で吸血鬼関係全部隠しておいた。使い方とか効果とかは何故か頭にすんなりと入ってきた。吸血鬼補正のスキルだからとか?まあ、あってよかったぁ。きっと『吸血』の証拠隠滅とかの為にあるような気がするんだけどまあ使い方は人それぞれだしね!
こっちに近づいてくる足音が後ろからして振り返るとニヤニヤした土井がこっちに向かってきていた。
どーせ見せろとか言うんだろうなぁ。それで俺の方が強いとか言っちゃうんだろうなぁ。
「おい、カード見せろ」
はいはい。わかりましたよ。
「ぷっ、はっはははははは。なんだよこれ!おっもしれー」
そりゃ面白いでしょうよ。『隠蔽』でほとんど消してんだから。
「お前は何処に行ってもくず鉄だな。俺様は強いから歯向かうことも出来ないぞ〜残念だったなぁ!」
はいはい。わかりましたよ。
カードを返されると土井はクラスメイトのイジメ集団にその事を報告しに行ったようだ。笑い声が聞こえる。あいつらの血全部吸ってやろうか。
そんな昏い考えがよぎると同時に仲原さんと隼人がこっちに来た。
「おーい、鉄大丈夫か?」
「なにか酷いことされなかった?」
こっちに来ても心配してくれる二人。嬉しい事である。
「大丈夫。なにもなかったから」
「でもさっき笑い声が」
「あれはカード見て笑われただけ」
「じゃあ私にも見せて!」
「あっ、俺も!」
「じゃあ、僕にも二人のを見せてほしいな」
友人達のスキルとかを確認しておきたいからね。
そうして僕は二人のカードを受け取り、自分のカードを渡す。一応『隠蔽』をかけたままで。
仲原 恵美 『人族』
女 レベル1
スキル:『回復魔法』『水魔法』『聖魔法』
称号:『転移者』
不知火 隼人 『人族』
男 レベル1
スキル:『火魔法』『風魔法』『雷魔法』『剣術』
称号:『転移者』
ふむ。みんなレベルは1なんだな。よかったよかった。僕だけ1とかだったら流石にどうしたものかと思っていたところだ。二人のスキルは魔法系なんだなぁ。隼人が『剣術』スキル持ってるのはなんとなく分かる感じだ。元の世界で剣道やってたし。
それにしても、僕には魔法系なかったんだけど。吸血鬼専用スキルみたいなのしかなかったし。『隠蔽』は専用でもない気がするけど。
と、僕が自分と二人のスキルについて考えていると二人からお声がかかった。
「これ本当なの?」
「な、なぁまじかこれ?」
『隠蔽』を施してあるカードには吸血鬼関係が見えないようになっているからスキルとか全部ないように見えるんだよね。二人の焦りようはそこからだろう。どうするべきか。二人に心配をかけたくないが秘密を明かしても心配をかけそうなんだよなぁ。
よし!今は明かさない事にする。
「本当だし、マジだよ。だからこそ笑われたんじゃないか」
「なるほど……。ならどうするんだ?スキル無いなら戦えない気がするんだが」
「うーん、そこは大丈夫じゃない?あの甲冑の人達は剣持ってるから剣でも相手に出来る奴らがいるってことだし、レベルって概念があるならレベルが上がればスキルが増えるかもだからね」
「あー。そういう風にも考えれるか。なら問題ないか」
僕は戦うとも。魔王を倒すとかそんな目的はどうでもいい。とりあえず強くなりたいからね。
クラスのみんなも自分のカードを見て、他の人達と話し合っている。そこに国王から声がかかった。
「あー、話している所すまないが聞いてほしい。君達に力があるということはわかってもらえただろう。その力で魔王を倒してほしい。私達はもう長いこと魔王共のせいで辛い思いをしてきた。その魔王に帰還の書も奪われてしまっている。君達が元の世界に帰るためには帰還の書が必要なんだ。どうか魔王を倒して取り戻してほしい。もし、力があっても戦いたくないという者がいるなら手を上げてほしい。その者たちには戦ってもらわずにサポートに徹してもらう事にする。私達はもう、君達に頼るしかないんだ。どうか頼む。」
国王が途中から頭を下げながら口にした言葉。どうやら魔王を倒してほしいというのは本当らしい。帰還の書というのは嘘っぱちのような気もするが。というか帰る気は無いんだけどね。
国王が顔を上げた時にクラスメイトは誰も手を上げていなかった。みんな戦うのか。多分帰りたいからとか強くなりたいからとかなんだろうな。みんなは。
「ありがとう。君達全員が協力してくれるなら魔王を倒す事も夢じゃない筈だ。君達の訓練等はそこの騎士達に一存したからよろしく頼む」
「あ、あのっこちらの我儘に付き合わせてしまってすみません!」
国王が言い終えると国王の近くにいた王女が謝ってきた。きっと負い目があったのだろう。それに対して神代君が慰めのような言葉を返す。
「大丈夫だよ。これは俺達のためでもある事だから」
「でもそれは……こちらが何もしなければしなくてもよかったことじゃないですか。それに知ることもなかったこと。魔王を倒す事だって本当なら私達でなんとかしなければいけない問題なんです。それなのに……」
「いいんだ。俺達みんなが自分達の意志で選んだことだ。気にしなくてもいい。それが無理だっていうなら俺達のサポートをしてくれればいいさ」
「っ!はっ、はい!」
神代君、なんて主人公みたいな事を!ほら〜、王女の神代君を見る目がなんか変わった気がするよ〜。すごいね〜。
国王とかは全然気づいてなさそうだ。あそこまで露骨なのに。鈍感ってすごいな。
「それじゃあ、私とエネは失礼させていただくよ。色々とやる事があるからね。騎士の皆よろしく頼む」
ハイッ!と甲冑の人達が一斉に返事を返す。さっきの頼むの時は返さなかったのは、王女が話し出すとわかっていたのかな?だとしたら凄いけど。
甲冑の人達の中から1人が前に出てくる。
「あー、協力感謝する。私の名はエルリックだ。王国騎士団の隊長をしている。君達の訓練を任された。今から開始するから気を引き締めてくれ!では、ついてきてくれ」
そう覇気のある声をあげる隊長さん。何処向かうんだろ。流石にいきなり実戦とかはしないはずだし。
歩くこと数分。倉庫みたいなとこについた。
蔵と言った方が適切かもしれない。
「この中に武器が入っている!それぞれ好きな武器を選んでくれ!刃が付いているから人には決して向けるなよ!」
隊長さんが言い終わると同時に蔵の戸が開く。クラスメイトが一斉に蔵へ駆け出していった。女子までそんな……もうちょっとお淑やかにしようよ……。
さて、僕はどんな武器にしようかな。
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