吸血鬼少年の異世界冒険

マルチ

1章 旅立ち

第1話 テンプレート

「ははっ。すげぇな。これ」


 暗闇の中で不敵に笑う一人の少年。黒目黒髪の日本なら何処にでもいそうなただの少年だ。手と足に電撃を帯びていなければ。


「これは『雷魔法』より威力高いな……。好きな威力に調整も出来るし、スタンガンとかに使えそうだな」


 少年は下ろしていた腰を上げ、電撃を消し、近くを散策する。明かりもなく、普通の人間なら殆ど何も見えないであろう暗闇の中で平然と辺りを見渡して、標的を探す。


 探すこと数分。見つけたのは寝ているスライムだった。


「うぇスライムかよ……。どうせならガルルのがよかったんだけどなぁ」


 とあるゲームではザコといえばスライムというふうになっているが、スライムの強さは種類によって千差万別だ。

 今、少年の目の前にいるスライムは特に特殊能力もない体にある核を壊すだけで倒すことが出来る一番弱いスライムだ。

 だが、この世界には他にマグマスライムという体がマグマで出来たスライムや体が酸で出来たアシッドスライム、毒を持っているポイズンスライムなどかなりの種類がいる。

 どのスライムも見た目や色が違うので見分けるのは簡単だが、違う種類のスライムがいる事を知っていなければ、見た目や色が違うだけでただのスライムだろうと思い込み油断を招いて重傷を負うということもあるだろう。


 少年はスライムを見分ける知識を有している。丁度今日魔物についての本を読んだからだ。

 たとえさっき例に挙げたスライム達が出てきたとしてもそれぞれに対して有効な手を下し、始末するだろう。今少年がいる所では普通のスライムしか出ないが。


「さて、どうかなっと」


 少年の手に電気が帯びる。その手を銃のような形にし、人差し指の先に電気を集める。目の前で寝ているスライムの核に狙いを定め、集まった電気を人差し指から弾丸のように高速で撃ち出す。


 寝ていたスライムは突如襲ってきた痺れと痛みに目を覚ますが、その後すぐに核を壊されドロドロに溶けてしまった。


「核を壊す前に一瞬反応していたし、痛みはあるんだろうな。こりゃいいな。使えそうだ」


 少年は検証結果に満足し、ドロドロに溶けたスライムを瓶に詰め、道中に残していた素材を全て拾い、暗闇の洞窟から外に出る。素材は『隠蔽』で見つからないように外に隠しておく。


 外は少し明るくなっていた。少年は眠そうにして欠伸をした後、近くの誰かに言い聞かせるように呟いた。


「今の所の俺の時間・・・・はあとちょいで終わりだ。俺が使える能力はお前も使えるし、使い方もわかっただろ。自分の事だから言うが、あいつらの事なんとかしとけよ?それと、死なせたく無いのなら自分の力を教えるくらい、しといても良いんじゃないか」


 そう誰も周りにいない状況で口にし、静かにひっそりと自身の寝床へ少年は帰り、眠りについた。



 ※※



 朝。憂鬱だ。今日は月曜日で学校へ行かなければならない。ずっと休んで不登校になってもいいが、叔父さんと叔母さんに心配をかけるわけにもいかず学校でのことを話すわけにもいかないので、学校に行かないという選択肢を選ぶことが出来ない。


「はぁ……」


 朝食を簡単に済ませ、制服に着替えて教科書も入っていないのに重い鞄を持って家を出る。途中でコンビニに寄り昼飯を買って、出来る限り早く学校へ行く。

 学校に着くと運動部の活気ある声が聞こえる。そのやる気を少しでも分けてほしいものだ。


 自分の教室のドアを開け、中に入る。が、足を踏み入れた瞬間に殴られ廊下へと飛ばされてしまった。


「っつぅ……」


 殴られたのは顔の左頬辺りだ。じーんと滲むように鈍い痛みが残っている。痛みに顔を顰めていると、怒声を浴びせられた。


「おっせぇんだよ!もっと早く来いや!くず鉄がっ!」


 殴って声をかけてきたのは土井 亮太だ。僕をいじめてくる奴らの親玉的存在だ。毎朝毎朝僕を殴るために僕より早く学校に来て待機してる変な奴だ。別に殴るのなんて朝じゃなくてもいいだろうに。


「早くしろよ!てめぇが持ってくんのをずっと待ってんだからよ!」


 怒声が響く。うるさいなぁ。殴らなきゃもっと早く渡せるっていうのがなぜわからないのか。


 僕は鞄を手に取り中身を土井に渡す。取り出したのはゲームや漫画、飯などだ。土井達は欲しい物で比較的安価な物を僕に買わせて持って来させている。安価な物なら安定して手に入れられるとか思っているのだろう。


 渡す物も渡したし僕は教室を出て行く。時間になるまで外で待つことにしているのだ。自分からあいつらと一緒にいるとか意味わかんないし、一緒にいたらどんなこと言われるか……。殴られるのも嫌だしね。


 この状況をなんとかしたいとは思っているが策が思い浮かばない。一時的にならどうにかすることも出来るだろう。先生の誰かに頼ればいい。だがこれは後が大変だ。絶対に報復を受ける。その為に今の状況を変える手立てが何もないのだ。何か大きなきっかけでもあればいいのだが……。


 朝の登校時間ギリギリで再び教室に戻る。その時は他の生徒が何人もいる事もあり、土井達は手を出してくることはない。自分の席は窓側の一番後ろの席だ。

 隣の席の仲原 恵美さんと前の席の不知火 隼人の二人が挨拶してきた。それと心配を。


「おはよう、鉄条君。今日は大丈夫だった?また何かされたりしてない?」


「おは〜。なんかあったら言えよな、俺達友達だろ」


「二人共おはよ。大丈夫だよ、特に何もされてないから。わかってるよ、何もないから言ってないだけだよ。」


 と、二人の言葉に嘘で返しておく。心配をかけるわけにはいかないからね。これは僕の問題だし。


「「嘘だね」」


 ………なぜわかる。いつも通りな気がしたんだが。どこが変だっただろうか。


「左頬。赤く腫れてるよ」


「そんなんなってりゃなんかあったのは確実だ」


 左頬の事を完全に忘れていた。


「これはさっき学校来る時に絡まれただけだから。ほんとに大丈夫だから」


「はいはい。わかりましたよ。何も無かった。それでいいんだな」


「酷くなったら絶対に言うんだよ?私達の方でも何とかするから。それと、左頬の手当てするからこっちきて」


 二人には心配と迷惑をかけっぱなしだ。何とかして他の事で報いたいところだ。


 そんな風に思っていると急に周りが暗くなった。教室内がざわめき出す。外は先程まで晴れていたのだが、今は黒一色になっている。

 どうなっている。何が起こっている。


 目の前の黒に染まった外を見て思考していると、教室が先程よりさらにざわめきを増した。教卓の上に紫色に輝く魔法陣と呼べるものが突如として出現したからだ。

 紫色の魔法陣の輝きが増し、辺り一面を光で照らす。その瞬間僕を含めた教室の全員が目を瞑った。

 甲高い音が鳴り響く。頭が割れてしまいそうな音に耳を塞ぐ。いったいどれくらいの時間鳴り続けていただろうか。ようやく音がおさまり、耳に当てていた手を離し目を開ける。


 そこはもう教室では無かった。ゲームやアニメに出てくる城のような造り。そして目の前には肩で息をする少女とその隣にいる少女の兄だろうと思われる若い男性が立っていた。


「や、やりました!父様!」


「ああ!よくやったぞ!メネア!これで私達……!」


 かなり若い見た目をしているがどうやら目の前の男性は少女の父親らしい。いったい何歳なのか気になるところだ。


 僕が目の前の二人に関して思考していると、周りにいたクラスメイト達の混乱が少し抜けたのだろう、声を挙げた。


「いったいここはどこだ?」

「どうしてこんなとこに?」

「こんな漫画やアニメ、小説みたいな現象!まさか異世界!?」

「おい!そこにいる二人!なんか説明しろ!」


 声を挙げたのは、クラスの中心人物である神代 太一、美智永 柚子、オタク集団、いじめ筆頭の土井だった。

 これに対して目の前にいた男性が冷静に対処した。


「わかりました。質問には全てお答えします」


「まず皆さん全体の疑問であるここが何処かという問いですが。ここはあなた方がいた世界とは違う世界です」


 そしてオタク集団を指差し、


「そこの方達が言っていた異世界というので間違いないでしょう」


 そう言った。

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