第113話 魔王と魔族、動き出す
そこは空が闇に覆われた土地であった。水も紫色に変色し、大地も枯れている。そんな土地の一部分にだけ、作物が十分に育っている。その場所が魔王城であった。
「ねぇねぇ、メルエスとアレウス死んじゃったかなぁ?」
「アレウスはともかく、メルエスは死んだでしょう。メルエスは特殊なスキルはありましたがそれに慢心していましたから」
「ミストはー?最近帰って来ないよー?」
「あれは生きてます。実力はありますから。ただ……」
「うんうん、わかってるよー。スパイだって言いたいんでしょ?でもー、あれはほしいのー」
「あの変な言葉遣いは演技だと思うのですが?」
「えー?そーなの?でもほしー」
零が倒した魔族とミストの名前を出して話す二人は魔王城に住む魔族である。丁寧な言葉遣いをする方が男の魔族アポリス、もう片方の幼そうな感じの方が現魔王ポネシスである。
「ミストの方は後々にどうとでも出来るとして、メルエスとアレウスの件はどうしましょう?メルエスは一介の冒険者でも条件さえ満たしていれば殺せる筈ですが、アレウスに関しては実力がなければ無理でしょう。任せておいた任務も苦戦するような相手はいなかったはずです」
「んー?もしアレウスが殺されちゃったならー、あっち側の刺客ってことでしょー?勇者君じゃないのー?」
「勇者ーーあの魔法陣に干渉した時に出てきた者達ですか。あれにそれ程の実力があるとは到底思えませんが」
「アポリスが見逃すなんてーやっぱりあっちの仕込みなんだねぇー。あの中にねー吸血鬼、混じってたよー」
「吸血鬼が、ですか?」
召喚された勇者を見た時、アポリスは落胆した。勇者召喚、そんな仰々しい名前をしていながら雑魚しか呼び出せないのか、と。だが、吸血鬼がいるのなら話は別になる。
「吸血鬼、あの吸血鬼が……。それならば納得です。吸血鬼だけは中立になっていてもらわなくてはどんな種族でも滅びますからね」
この世界では、吸血鬼というのはそれだけ恐れられる存在なのだ。その理由は『吸血』というスキルの所為である。
それぞれの種族はそれぞれ特有なスキルを所持している。吸血鬼の『吸血』、龍人の『竜化』、エルフの『魔力親和』、獣人の『獣化』などがそれに当たる。
『吸血』は血を吸い取った相手のスキルを強引に奪い取る。たとえそれが上記のような特有なスキルであっても。
「しかし、その吸血鬼は何故勇者召喚で召喚されたので?他のは皆普通の人族となんら変わりない者達でした」
「そりゃあ私の『奪取』に対処するためでしょー」
「『真祖』ですか。では『真祖』の為に違う世界へ飛ばされていたと?大した徹底ぶりですね」
「それほど私の事殺したいんでしょー」
ポネシスはそれだけの事を既にしている。たとえそれが本人の意思に関係ないとしても、だ。
「最近はようやく『奪取』の制御も出来るようになってきたけど、私は多くを殺しすぎちゃったー。今までの環境もめちゃくちゃに壊しちゃったしー」
「魔王様の武力を持ったやり方は間違ってません。あの魔王のやり方が間違っていただけで御座います」
宗一は魔法道具を開発して魔族大陸を運営していたが、ポネシスは略奪で魔族大陸を運営している。平穏と争いという真逆の運営方法が取られている。
「ねー、吸血鬼に使者出しておいてー。中立で変わりないかってー。でー、アポリスは獣人大陸、行ってきてー」
「わかりました。可能であればダンジョンを潰しておきましょうか?」
「うん、おねがーい。あ、でも獣王にはバレないようにね。あれ、かなり面倒だからー。後、アポリスの主目的は、吸血鬼を殺す事。お願いねー」
「御意」
城から一人の魔族が獣人大陸に向けて飛び立った。最後の四天王、アポリス。目的は、吸血鬼・鉄条 零の殺害である。
「吸血鬼と殺りあうのは久しぶりだ。どれほど強いのか、私を楽しませてくれるのか、興味が湧いてくるぞ」
メルエスとアレウスを殺した相手、久しぶりの強敵。それがアポリスを興奮させていた。
「獣王にはバレないように小細工もしておかなければな」
今、獣人大陸に災いが舞い降りた。
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