第99話 レミナの覚悟
競売2日目。
この日ももちろん参加したが、好色家とやらがこちらを見てニヤニヤしていたので何かあると思い、適当な品を落札してみようとしたら被せてきた。それが何度も続いたため、妨害が目的なんだろうと思う。
ちなみにシークレットはドラゴンの卵だった。ドラゴンはアカがいるのでいらないと思ったので好色家さんに譲ってあげた。かなり値段上げたけどね。
それを僕が諦めたと取ったのかニヤニヤしてたけど、まだ2日目なのにかなりの金額消費したみたい。僕達は競売にいながら分身体のおかげでお金がリアルタイムで増えていくから困る事はない。
1日目に落札された商品の金額もそれなりで、量も多かったために手持ちは増えている。本当に欲しいと思う物以外は他の人に譲ってあげようと思う。
2日目に出品した商品もそれなりに落札され、収入は期待出来そうだ。
「うーん、競売ってお金を使う場所なはずなのにお金が増えてる不思議」
「テツ君が出した量を考えれば当たり前だと思うんですけどね……」
「……分身体のせい」
「いや、まあ、シークレットのためにあった方がいいじゃん?っと、それよりもレミナだ」
僕達が競売に参加している間、レミナの世話はクロに任せていた。クロの事を見た瞬間に匂いを嗅いですぐに懐いたのには驚いた。
聞いたら僕と同じような匂いがしたらしい。それで良い人だと思ったんだとか。なので安心して任せられた。
「お兄ちゃん!」
「レミナ、良い子にしてた?」
「うん!」
「マスター、レミナは覚えがいいです」
クロにはレミナの勉強相手をしてもらっている。レミナはもう奴隷ではないからこの先どう生きるのかはレミナ次第だ。だから選択肢を増やす意味でも勉強をさせている。まだ少女だからどうするかを決めるのはもう少し後になるだろうけどね。
「レミナに聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
「うん!いいよ!」
「答えづらい事だと思うけど大丈夫?」
「お兄ちゃんがいてくれるなら大丈夫!」
「そっか。なら、聞くよ。レミナが奴隷になった経緯を教えて欲しいんだ」
僕達は競売が終われば獣人大陸に向かう。もし、親から引き離されたのなら、獣人大陸に一緒に行き親と会わせる事が出来る。
だが、奴隷になった経緯次第では親に会わせる訳にはいかない。
「うん……。お母さん、がね、私に知らない人について行けって。それから奴隷になったの……」
ちっ……。奴隷には、親に売られる、身元が無くなり生活出来なくなった者、戦争などの捕虜など様々な理由でなる者がいる。
今回のは、きっと親に売られたのだろう。お金の為に。
「そっか……。御免ね、嫌な事、思い出させたよね」
「ううん。お兄ちゃんがいるから大丈夫……。お姉ちゃんもいるし、うさぎのお姉ちゃんもいるもん。先生にも色んな事教えてもらって、楽しいもん。嫌な事なんて、吹き飛んじゃうくらいに幸せだもん。だから、大丈夫なの!」
「なら、良かったかな。レミナは何かしたい事はある?」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんみたいになりたい!」
「テツ君と私みたいに、ですかぁ。私達の子供だったらそうなるかもですね!テツ君!」
「子供の話は全部終わってからって言ったでしょ……」
「なら私がお兄ちゃんとお姉ちゃんの子供になる!」
「ほぇ?」
何を言っているのでしょうか。僕には理解出来ませんねぇ。
「つまり、養子ということですね」
「先生、養子、ってなに?」
「簡単に言うなら家族じゃない子供を家族にする、というところです。女の子の場合、養女とも言いますよ」
随分とざっくりとした説明だけど、レミナ相手に難しい説明はまだ無理なんだろう。
「なら、その、養子?養女?っていうのになる!」
「いや、ちょっと待とうか。レミナは僕達みたいにっていうけど、レミナは僕達がどんな風に見える?」
「かっこいいお兄ちゃんとお料理が上手なお姉ちゃん!」
だよねぇ。あ、別に僕がかっこいいっていう答えが出るのが当たり前とか思ってたわけじゃないよ?そこまでかっこいいわけじゃないから。
ただ、しっかり見れてるかの確認だ。
「レミナ、僕達はこれでも冒険者なんだ」
「知ってるよ!先生が教えてくれた!」
「今、大変危険な事をしている最中なんだ」
「それも先生が教えてくれたよ!」
クロはいったいどこまで教えているのだろうか。
「レミナはまだ子供だ。僕達みたいに危ない事を出来るような力もない」
「ならその力?っていうの欲しい!」
「レミナはその力で何をしたい?」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんが助けてくれたみたいに色んな人を助けたい!」
ふむ……。
「もし、僕とミアのどちらか片方しか助けられないような状況になったら、どっちを助ける?」
「どっちも助ける!」
「どちらか片方なんだけど……。ま、いいか。レミナは人助けがしたいんだね?」
「うん!お兄ちゃんみたいに!」
「もし、養子になって僕達について来るっていうなら、痛い事や悲しい事が沢山あるかもしれない。それでも?」
「うん。私、怖かった。でも、お兄ちゃん達に助けられたの。力?っていうので、私みたいな人を助けられるなら」
その声は子供のそれではなく、目は覚悟が決まっている人の目だった。奴隷という身に一度なったからこそ出来る目であろう。
「クロ、何をどこまで教えてる?」
「基本的な読み書き、計算などを」
「そこに魔法、戦闘での立ち回り、武器の扱い方、魔物の情報、身体能力の向上を追加。本人が望んでるんだ。本気でやってあげて。プラスで分身体半分をポートのダンジョンに潜らせてオーブを沢山探し出して」
「了解しました」
「さて、レミナ。これからレミナには2つ、道がある。今の獣人としての力で人助けをするか、僕の力を使うか。僕の力を使うなら、普通の獣人じゃなくなるだろうけど、大きな力を手に出来る」
「テツ君、それは……」
「ミアは黙ってて。これはレミナが決める事だ」
レミナは考え込んだ。当然だろう。ここは運命の分かれ道なのだ。
「もし、お兄ちゃんの力を手に入れたら、沢山の人を助けられる?」
「それはレミナ次第だ」
それから数回、質問されそれに答えた。そして、決めたようだ。
「お兄ちゃんの力、ちょうだい。私、今までの自分から新しくなりたいから。沢山の人を助けたいから。お兄ちゃん達みたいに強くなりたいから」
「……わかった。いいよ」
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