第100話 血液譲渡

「テツ君、本当にやるんですか?」


「レミナが望んだ事だ」


「他に方法だって……」


「まあ、あるんだろうけど、それだといずれレミナは死んじゃうだろう。人助けをする為に絶対に無茶をする。そんな生き方、普通なら絶対に早死にだ」


「それは……」


「レミナの目は子供の浅はかな考えのものじゃなかった。自分の頭でしっかりと考え抜いた結果のものだった。なら、僕達はそれを後押しするのが役目だ。死なせないなら、僕の力を使うのが一番いい」


「テツ君は、それでいいんですか?」


「……本当なら、レミナには安全な何かをして欲しかった。その為に勉強もさせてたわけだしね。でも、自分の確固たる意志で決められたものなら、僕達がいくら言った所で変わりはしないだろうさ」


「そう、ですね……。なら、テツ君。私も、してください」


「本気?」


「はい。養子だとしても私達の子供になるんですから。子供がやるなら母の私にもお願いします」


「わかった。いいよ」


 僕は準備に移った。ミアとレミナに『血液譲渡』をするための準備を。


 それと宗介に連絡を取っておこうか。色々用意してもらいたいからね。


 アカとリンには外に出ていてもらう。そして、ミアとレミナの血をもらう。こちらは念のためだ。『錬金術』で鉱石にし、保管しておく。『錬金術』はスキルで鉱石にしたものなら元の物に戻せるらしい。今回の鉱石も鑑定は出来なかったのでクロが保管する事になった。


 使用した事がないスキルのためどんな症状が出るかわからない。そのためにポーション類を色々と買い込む。ついでに後で必要になりそうな物も買い込んでおく。


 後は『血液譲渡』をするだけだ。そのために吸血鬼に体を渡す。吸血鬼のスキルは吸血鬼状態の方が効果が出るらしいから。


「ミアとレミナ、やっていいんだな?」


(いいよ。ミアにはいつかやってもらおうと思ってた。それが今日になっただけだし、レミナにはしないと無茶をする)


「しても無茶しそうだがなぁ。ま、した方が死ににくいってくらいか」


 ミアとレミナに魔力を流していく。これによって血を受け入れやすくする。全身に魔力が行き渡ったらスキルを使いながら血を経口摂取させる。1滴2滴だと効果が薄いためそれなりの量を。


「くっうっ……ぁあああああああああああ」


「ひぅ……ぅん……ふぅ……」


 レミナとミアで反応が違う。レミナは絶叫を上げて苦しんでいるが、ミアはそこまで苦しそうではない。


「『魔力操作』を手に入れた時、奥様には魔力を流してそのままにしていたからでは?」


(そういえば、そうだね。レミナは大丈夫なの?)


「問題はない。これはまだ第1段階だ」


 第1段階という吸血鬼の言葉に不安を覚えながらも2人の状態を見ていく。

 次第に目に見えるように2人に変化が現れてきた。


 ミアは綺麗な紫色の髪の一部が赤色に染まっていく。そして身体に赤のラインが所々に入っていた。

 レミナは肌色の髪には変化がないが、耳と尻尾に変化があった。赤の縦線模様が入り、髪色より少しだけ赤みを増している。身体の方にもミアと同じように赤のラインが入っていた。


 そんな変化が見られた後、赤のラインが消え、髪色と耳、尻尾の色も全て元に戻っていた。


「これが第2段階だ。身体に血が馴染んでるって事だ」


(まだ、あるんだよね?)


「ああ、第3段階が残ってる。こっから俺達に出来る事はない。ミアとレミナ次第だ」


(どういうこと?)


「あの力を制御出来るか出来ないか、ってことさ」


 身体に現れた変化が消えてから、2人は声を上げることはない。眠っているように思える。


(何が起こってる?)


「あの2人にとって吸血鬼の力っていうのは異物でしかない。身体の方なら魔力を与えた後でならある程度は馴染む。器ならそれで大丈夫だが、魂の方はそうとは限らない」


(器?魂?)


「器は肉体、まあ身体の事だ。魂は精神、つまり心の事だ。身体の方には流せば魔力は循環していく。だが、心にはどうやったって吸血鬼の魔力は届かない」


(つまり、異物が精神を、心を蝕んでいるって事?)


「そういうこった」


(なら早く止めないと!)


「今止めたら、死ぬぞ?」


(っ、どういう、事だよ)


「肉体は既に吸血鬼の血と魔力を受け入れてんだ。受け入れられなかった心が肉体と合わさるはずがねぇだろ」


(なんで、それを言わなかった!?そんな事なら!レミナには違う方法だって!)


「自分でそれを言うのか?他に方法があるのにこれを選んだ自分が?それにだ、俺はちゃんと確認した。やっていいんだな、ってな」


(お前は、なんで!)


「ミアにはいつかするつもりだったんだろ?なら今やるか後やるかの話だ。レミナだって自分で言ったじゃないか、無茶をして早死にするってな。俺がこの事を話して自分が止めたと思うか?」


(それ、は……)


「お前は俺だ。だからわかる。自分は絶対に止めない。聞いた上で最後には決断を下す。やるって方に。ミアを死なせないためにはそれが一番だから。でも、この話を聞いた上でやるのはどうせミアだけだ。レミナにはそんな事させられないって優しい自分は言うんだろうさ」


(……)


「自分で早死にすると言いながら、それを逃れる方法を持ちながら、お優しい自分は目先の恐怖に負けてレミナには無理だと嘘をつくんだ。そうだろ?」


(……)


「自分には覚悟が足りねぇよ。ミアを死なせない?そんなの当たり前だ。クラスメイトを死なせない?そんなの無理だ。レミナを死なせない?甘さしかねぇ自分には無理に決まってんだろ」


(そんな、こと……!)


「なら、出来るのか?今まさに殺されてるかもしれないクラスメイトを助ける事が?自分に?」


(それは……)


「考えが、覚悟が、何もかもが足りない。ミアと出会う前に黒服に襲われた時のあの時の容赦のなさは何処に落としてきた?何でもかんでも守れると、死なせずにいられると思うなよ。本当に守りたいものを選べ。本当に死なせたくないやつを守れ」


(……お前に、何が)


「俺はお前だ。わかる。無理なんだろ?諦めるのが。嫌なんだろ?死なせるのが。なら力を手にしろ。容赦を捨てろ。お前が俺になれ。俺がお前になる」


(それで救えるのか?助けられるのか……?)


「お前が助けたいと思う奴らを助ける力ならあるんじゃねぇか?」


(っ、それ、なら)


 みんなが救えるというのなら、助けられるというのなら、僕は。


「ダメ、ですよ。テツ君。それを、したら」

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