第98話 レミナに餌付け

「ごめん、なさい。取り、乱し、ました……」


「ううん、いいよ。それだけ嬉しかったって事でしょ?安心していいよ。レミアが落ち着くまで一緒にいてあげるから」


「あり、がとう、ござい、ます」


「ご飯、出来ましたよ〜」


 レミアが泣き止んでそれから少しすると、ミアが料理を持ってきた。


「ひっ……」


 そのミアに対してレミアは怯えているようだ。僕に対してはそれなりに対応してくれたけど、まだ少女で奴隷という境遇だったから見る人全てが怖かったりするのかな?


「大丈夫だよ。この人はミアっていって僕のお嫁さんだ。酷いことはしないから安心していいよ」


「お嫁、さん?」


「そう。お嫁さん。知ってるでしょ?」


「う、ん」


「えっと、私、どうしたらいいんでしょう?」


 食事を持って来たものの怯えられて近付くに近付けないミアが困り果てていたので、僕が受け取り食べさせてあげる事にした。


 ミアには魔法携帯でみんなに報告をしてもらい、食べさせている間にアカの服を持って来てもらった。アカの服なら着れるだろうと思ったからだ。


「お腹いっぱいになった?」


「なった!」


「じゃあお姉ちゃんにお礼を言おうね」


「うん!ありがとう!」


「いえいえ、どういたしまして」


 お腹いっぱいになったからか元気もそれなりに出てきているようで安心した。言葉遣いも子供相応のそれになっているので、奴隷として敬語を使うように、とかがあったのかもしれない。


 そしてミアに対しての態度が軟化したのはありがたい。餌付けって大事。


「じゃあ次は身体を綺麗にしようか」


「どうやるの?」


「お風呂に入るんだよ」


「お風呂!好き!」


 といってもお風呂に入れるのはミアだけど。僕が入れるのは流石に、ねぇ。


「このお姉ちゃんと一緒に入ってね」


「お兄ちゃんは一緒に入らないの?」


「僕はダメなの。いいからお姉ちゃんと入ってきてね」


「そうですよ!テツ君も一緒に入りましょう!」


「なんでここでミアまでそっちに入ってくる!?ダメだから!」


「夫婦なら一緒に入っても問題ないはずです!」


「レミナがいるじゃん!?それに夫婦だからって問題じゃないわけではないからね!?ほら!いいから入ってきて!」


「むぅ……。分かりました……。レミナちゃん、いきましょう」


「うん!」


 はぁ……。全く。とりあえず、外に出ようかな。お風呂に入るのだって暗闇の中だから何かあって見たら困るし。


「あー、そうだ。お金返しておこう」


 魔法携帯で隼人達に連絡し、クロのおかげで使わなかったお金を少し色をつけて返しておいた。やっぱり貸してくれたっていうのはありがたかったからね。プラスで返したかったんだ。


「あの子の様子はどうだ?」


「僕とミアにはそれなりに接してくれてるけど、多分他の人には怯えると思う」


「なら俺たちはまだ会わない方が良さそうだな。会わせるならそっちメンバーのクロさん、アカさん、リンさんだろ。クロさんは2人が気付かないとこに気付きそうだし、アカさんは身長も同じくらいで歳はわかんないが、遊び相手にはなりそうだ。リンさんは同じ獣人だしな」


「ん、そうだね。そうしてみるよ」


 隼人の言葉通りにクロ、アカ、リンを連れて暗闇の中に戻る。そして目の前に広がってきたのはミアの裸だった。


「え?」


「あれ、テツ君、もしかして一緒に入る気になりました?」


「すみませんでした!」


 暗闇をすぐに閉じた。まさかそんないきなりあんな場面に繋がらなくてもいいじゃないか。


「おい小僧、お前だな?あの獣人を落札したのは」


 突然声をかけられて振り返ってみれば、そこにいたのは好色家とか呼ばれていた人と見た事のない騎士のような人だった。


 その騎士の方を認識したであろう瞬間にクロとリンはすぐにでも動けるようにしていた。


「まあそうですけど、何か?」


「寄越せ」


「はい?」


「寄越せと言ったのだ。私にな」


 いや、それはわかっているのだが。何を言っているんだこの人。


「窃盗、奪取等をした場合はブラックリスト入りで殺害対象になるんじゃなかったでしたっけ?」


「ああ、そうだろうな。だが、そこに譲渡は含まれん。だから言ったのだ、寄越せとな」


「はぁ、そうですか。まあ嫌です。お引き取りください」


「折角痛い目を見ずに済ませてやろうとしたのにな……。やれ」


 後ろに控えていた騎士が剣を抜く。普通ならそれだけで問題になるだろうが、今は暗闇を使う都合上人気がない場所にいたため、騒ぎ立てる輩もいない。しかしーー


「……実力を過信するのはよくない」


「マスターに危害を加えるのは許しませんよ」


 クロとリンが騎士が動くより早く無力化していた。


「なっ……」


「ご主人には敵わないです!」


 アカはというと一人だけ何もせずに無い胸を張っていた。


「こっちはこの事を問題にする気は無いですし、素直に引き下がってくれませんかね?」


「このっ……。明日からの競売まともに落札出来ると思うなよ!」


 そんな捨て台詞を吐いて騎士を引きずって帰っていく。


「はぁ……。余計な面倒が増えた……」


「……執着が凄かった。あの手の輩は何をするかわからない」


「マスターのためにももっと資金稼ぎをしておいた方が良さそうですね」


 レミナを外に出してあげたいけど、色んな問題があるなぁ……。

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