第97話 1日目終了
「っ……。クロ、あれって、奴隷、って事?」
「ですね……」
奴隷商が存在している所を見たから、奴隷制度がある事は知っていた。商品として、人が扱われているのも知っていた。でも、ここまでの旅の中で、一度も、奴隷と関わるような事はなかった。だからこそ、知らなかった。
「……ひどい」
ボロボロの服に傷ついた肌。髪も耳も尻尾もボサボサで、身体も細い。全てにおいて、ボロボロだ。
「テツ君……お願いします……」
「うん。分かってる。クロ、今から大至急分身体で資金集めだ。レア物でも何でもいいから売ってお金にしてきて。それを暗闇経由で僕に。あの子を助ける」
「承知しました。隼人様達にもお声掛けしておきます」
「うん、助かる」
さて、シークレットならみんな大金をはたいて欲しがるはず……。上手く長引いて資金集めの時間になってくれ……。
「はい、この獣人の少女、幼いですが、磨けば光る逸材で御座います!獣人のため、身体能力も高く、冒険者の方々も育てあげれば重宝なさること間違い無しで御座います!」
多少足元を見られても仕方がない。今は売って少しでも所持金を増やす事が目的だ。早く、早く!
「奴隷契約をしてしまえば主人に逆らう事は絶対に出来ません!危険は御座いませんので、ぜひ競り落として下さいませ!スタートは10金から参りましょう!」
まずい!始まってしまった!
『11金!』
『15金!』
『20金!』
まだ、小さい額で探り合いか……。なら時間はーー。
『50金だ』
「おおっと!?一気に50金入りました!」
『あいつ……好色家だ』
『げぇっ、好色家っていえばいくら金積んででも人以外の奴隷を手に入れることで有名なあのか?』
『あぁ、間違いねぇ。俺、前の競売で見た事ある。あの時も今と同じように大金を出して奴隷を落札してやがった』
『マジか……。俺たちじゃ敵わねぇな』
『ああ……』
そんな会話が聞こえてきた。そんな人がいたのか……。まずいな……。
「51金!」
少しでも時間を稼ぐために足掻くぞ。
『小賢しい真似を……。70金だ』
げっ……。マジか……。っと危ない……。今売ったので70金超えた。
「71金!」
『まだ突っかかってくるか……。75金』
っ……。どうしよう……。まだ分身体で売り捌いてるけど、幾らまで稼げるか分からない!
「ご主人!私の使って欲しいです!」
「アカ!ごめん、借りる!76金!」
アカの所持金を全部借りてギリギリ76金。分身体を急がせてはいるが、足元を見られてなかなか大金は手に入れられない。
『ちっ……。100金だ!』
うわっマジか……。隼人達からもクロ経由で回ってきたけど、100金は流石に超えられないぞ……。
「マスター、お待たせしました。150金ほどですが、確保しました」
「へ?本当?」
「はい。急ぎでしたので、だいぶ少ないですが、これほどあれば大丈夫かと思いましたが、足りなかったでしょうか?」
「いいや、十分だよ。ありがとう。150金!」
『なぬ!?くっ……』
好色家と呼ばれていた男は金額を提示してこない。
「ここまでのようですね。150金で落札です!おめでとうございます!本日の競売はここまでで御座います。また明日、御来場いただければと思います。本日はまことにありがとうございました」
競売が終了し、落札した人が各自で部屋に案内される。僕もその一人だ。
「それでは、奴隷契約をさせていただいてもよろしいですか?」
「えっと、奴隷契約ってどうやるんですか?」
「契約書類に主人の血と奴隷の血を1滴ずつ垂らし、その書類を主人が破れば、その書類が燃え、契約完了となります」
「なるほど。ありがとうございます。その子の血は?」
「こちらになります。どうぞ」
書類に僕の血と少女の血を垂らす。しかし、この時に少しだけ細工するのを忘れない。『隠蔽』で誤魔化せたようだし、大丈夫かな?
そう思い、書類を破る。破いた書類が燃え、残ったのは書類の燃えカスだけだ。
「これで完了です。どうぞ」
檻から少女が出される。抵抗したり、暴れる様子はない。多分、そんな体力もないのかもしれない。
「ありがとうございます。それと、今日の競売で出品した物が落札されてました。お金を貰えますよね?」
「はい。ですが、少し数が多いのでもう少しお待ちしていただいてもよろしいでしょうか?本日中にはお渡し致しますので」
「あ、そういう事なら明日、競売が始まる前で結構ですよ。この子の事もありますから」
「わかりました。受付に通しておきますね」
「さ、行こうか」
少女を連れて商業ギルドの外に出る。元気もなく、ずっと俯いている。まずは、ゆっくり話が出来る所と、この子を清潔にすること、食事を与えることをしないとだね。
「テツ君!」
「ミア!他のみんなは?」
「お金を稼ぎに行ってますよ。まだ4日間開催されますから」
「そっか。ならちょっと手伝って欲しい事が」
「その子の事ですよね。わかってますよ」
「ありがと。それじゃ早速」
人目を気にしながら暗闇を使い、中に入る。すぐに閉じたので暗闇の中は3人。入ってこれるのは僕と連絡手段を持っている隼人達だけだろう。
「ミアはご飯を用意してて。なるべく軽めのものがいいと思う」
「はい!」
「さて、きみの名前を聞いてもいいかな?」
「…………レミナ」
「レミナね。よろしく。まず早速だけど、奴隷契約、あれされてないから、安心してね」
「え………?」
「商業ギルドの人がいる前でだったからそれっぽく見せただけで、実際にはされてないってことだよ。僕を殴ってみてもいいよ?」
「……ん」
レミナが弱々しいパンチを僕のお腹にぶつけてくる。何かに邪魔される事もなく、自然に。
「ほん、とう、に…………?」
「本当だよ。僕は、レミナを奴隷から解放したくて落札したからね。これで自由だよ。まあとりあえずは身嗜みを綺麗にしたり、お腹をいっぱいにしたりしてもらうけどね」
「あ、あ、ぅぁぁぁぅぅ」
「ちょっ、泣かないで!?」
僕的に泣かれるのは一番困るんだって!?どうしたらいいの!?
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