第92話 秘密の話

「さて、一応今旅をしているメンバーの中で信用に値して、話もしっかり出来るであろう神代君にだけ、言うよ」


「そこまで俺の事を信用してくれるのは嬉しいが、話くらいなら不知火でも出来るんじゃないか?」


「うーん、隼人は僕がいると基本考えるのをこっちに任せて来るからね。参考にならないんだ」


 ミアもその部類に入る。近藤君は聞き専だから除外として、美智永さんは知識が多いから話をしたかったけど、余計な不安も抱えておいて欲しくないし、その事を調べるに当たって深くまで探ってしまって消されるなんて事もあり得るかもしれない。だから今回は外した。仲原さんにも余計な不安を抱えて欲しくないから除外。クロに話しても、僕の記憶を持っているから話し合いにならないし、この考えは最初から持ってたものだから今のクロも知ってる事なので除外。


 リンやアカも信用してるが、今回の話にはついてこれない。王女はこの話に関係があるので本人に話すのはよくない。すると、自然と話せるのが神代君しかいないわけだ。


「他のみんなも色々理由があって除外なんだ。だから神代君に話す」


「わかった。それで?一体何についてなんだ?」


「僕達を召喚した人について、だよ」


「え?それは王女様だろ?目の前で疲れてるのは見たし、実際に王女様の前に俺たちは召喚されたんだから」


「僕も最初はそうだと思ってたんだけどね。最初に教室で見た魔法陣と召喚された際に足下にあったオレンジ色の魔法陣でかなり違うんだよ」


 この世界である程度の知識を付けたからわかる事だ。何も知らなければ、色が違う魔法陣というだけだが、この世界の知識に触れればわかる事が一つある。


「魔法陣の中の魔法式がその二つでかなり違ってた。クロの僕の記憶から紙に書き出してもらったからわかる事だけどね」


 そう言って、神代君に2枚の紙を渡す。


「確かに、違うな。でも、俺たちを召喚したのは王女様じゃないのか?結果的にだが、俺たちは王女様の前に出た訳だし」


「うん、その可能性も否定は出来ない。もしかしたらそうなのかもしれないけど、だとすると、その紫色の魔法陣は?ってなる訳だよ」


「これは確か教室に出てたやつだよな……」


「うん。王女が召喚したなら教室にもオレンジ色の魔法陣が出るのが普通だと思うんだ」


 まあ、元の世界とこの世界で色とかの出方が違うとかなったらそれまでだけどさ。


「つまり、元々は紫色の魔法陣を出した奴が俺たちを召喚しようとしていた?」


「かもしれないし、王女の魔法陣に介入してそっちに召喚されるように仕組んだとか色々考えられる」


「複数の可能性が考えられる以上、これは答えが出ないんじゃないか?」


「うん。今の所は答えが出ないと思う。でも、そういう可能性があるっていうのを知っておいて欲しかったんだよ。でも、紫色の魔法陣の方は誰がやったかは分かりそう、かな」


「誰だ?」


「魔族だよ。僕はちょっと用事があってダンジョンのボス部屋まで行ったんだけどね、そこにも魔法陣があったんだけど、その魔法陣は紫色をしてた。その魔法陣は魔族が設置したもので、ミアにも『精霊魔法』を魔法陣を出すように試してもらったら紫色をしてた。魔族の魔法陣は紫色なんだと思うんだ」


 ダンジョンのボス部屋の用事はもちろん魔法式の転写だ。障壁が魔法陣を覆っていて直接血を被せる事が出来なくて手間取ったけど、ちゃんと写した。


「魔族がなんで俺たちを?」


「わからない。僕が会った魔族は敵である2人にミア、声だけのミストって奴だけ。魔族にもミアみたいに敵対しない子もいるけど、その魔法陣を出した相手がそうとはわからない」


「魔族が人族側に俺たちを召喚したとして利益なんてあるか?」


「ほとんどないね。魔族を悪と思ってる側に出した所で魔族は下手したら狩られるのがオチ……。それが狙いって事もあるか?」


「ミアさんのような敵対してない魔族が送り込んだって事か?それだと自分達にも危険が及ぶからしないんじゃないか?」


「確かに……。魔族を倒して欲しいのが目的なら自分達の方に呼べばいい訳だし。情報が少なくて駄目だね」


 もっと魔法陣を見て魔法式を解析しないといけないだろう。解析出来ればわかる事もあるかもしれない。あ、そうだ。あれも言っておこうかな。


「僕はこの二つの魔法陣の魔法式を解析中だからもしかしたら何か帰還できる魔法が出来るかもしれない」


「っ、帰れる、のか!?」


「まだなんとも、だね。意味さえ分かれば式を逆転させて帰る、なんて事も出来るかもしれない。けど、今の状態だと何が起こるかまだ何一つわからないから無理だね」


「そうか……」


「期待させてごめんね。解析さえ出来れば帰還できるのか、魔法陣の目的、とかが色々わかって出来る事も多くなるはずなんだ。それなりに時間はかけてるけど、なかなか進まないから一応、別の手段で帰れるかもしれないって程度に頭に入れといて欲しい」


「ああ、わかった!」


「でも、この壁の中で話した内容は誰にも言わないで欲しいんだ。まだ話したのは神代君だけで他の人に余計な不安とか期待とかを持たせたくない。神代君にはちょうど良かったから話した訳だしね」


 宗介がこの場にいたら話していただろう。魔法携帯があるが、これは直接話したい事なのでまた今度会った時に話そうと思う。


「わかった。信用を裏切る訳にはいかないからな。隠すよう努力する。一応、俺の方でも色々考えてみるつもりだ」


「うん、ありがとう。それじゃあこの壁を解こうかな」


 空気の壁を無くし、周囲に声が通るようになる。これで話し合いは終わりかな。とりあえず1人で篭って魔法式の解析をしなきゃね。

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