第91話 事情説明

「という事があって、今日1日はあんな状態らしい」


 分身体から得た情報をみんなに共有する。そこで酔いから醒めたクロがなるほどといった顔をした。


「だから分身体から影響を受けたのですか」


「ん?どういう事?」


「そのサグジとやらが使用したのが呪いの一種だったので、本体の私にも影響が出たのです。本体と分身体には魔力的な繋がりが存在します。呪いの場合、その魔力の繋がりを辿る事が可能です」


「分身体が分身を繰り返して生まれた末端でも、その呪いっていうのは本体まで届くの?」


「はい。分身体が分身しようとも、その分身体のルーツに当たるのは本体です。魔力は本体まで確実に繋がっています。呪いは確実に本体まで侵食するでしょう」


 うわぁ……。今回はなんか酔わせるだけのものだったから良かったけど、それ命に関わる呪いだったらかなり危ないじゃん……。分身体が死ぬような呪いを受けちゃったら本体まで死んじゃうんでしょ?嫌だなぁ絶対に会いたくないよそんなの。


「なぁ、ていう事は今日1日はずっとこの中って事だよな?」


「うん、そうだね。明日になったら村長に色々聞きに行くよ。素直に教えてくれるかわからないけどね」


 まあ状況的に説明は貰えるだろうけど。


「じゃあ竜に乗りたいんだが、いいか?」


「好きだねぇ……。アカいい?」


「ご主人の頼みならいいです!いくらでも飛ぶです!」


「だってよ。この空間、どこまでも続いてるから遠くまで行かないようにね」


「わーってるって」


 アカが竜形態になり、隼人を乗せて飛んで行った。


「じゃあ私達はガールズトークしてるから邪魔しに来ないでね?鉄条君」


「えっと、ミアも?」


「うん。もちろん。アカさんは飛んじゃってるからクロさんもね」


「マスター、よろしいでしょうか?」


「いいよ。分身じゃなくて本体で行って来なよ。ミアと一緒にいてあげて」


「了解しました」


 さて、本当ならミアに用があったんだけど、それはまた今度かな。で、今何しようかな?残ってるのは、僕と神代君、近藤君だけか。


「丁度いい。鉄条に話があったんだ」


「神代君が僕に?」


 近藤君はどうやらこの話を聞くらしい。どこまでも聞き専か。にしても、これはアレのことだよなぁ。


「ああ。どうせ聞くんだ。回りくどい事抜きでいくぞ。鉄条、お前は誰だ?」


「誰だ?って、僕は僕だけど……」


「模擬戦の時、鉄条の様子に違和感があった。だが、それはこの世界に来てから何かあって変わったんじゃないか、そう思って聞くのはやめていた」


 へぇ、そんな風に思ってたんだ。まあ、色々あったし、少し考え方は変わったとは自分でも思うけどね。


「でもこの旅道中魔物と戦闘している時にその違和感は存在しなかった。あの模擬戦の時だけ、何かが違っていた。俺の中でそれだけが異様に感じられた。もう一度、言うぞ。お前は誰だ?」


 誤魔化しは、やめた方がいいかな。今、このメンバーの中で僕、クロ、リンを抜いたら一番強いのは神代君だろう。もし、僕らが動けない状況の時、ミアを助けてもらえるとしたら、実力を伴うとしたら、神代君しかダメだ。隼人じゃ、まだ足りない。


(そもそも俺が我儘言ったからバレた事だ。俺に決定権はねぇよ。お前がそう決めたなら、そうしとけ)


 うん、そうだね。なら、打ち明けようか。神代君ならきっと大丈夫だろうから。


 周りに声が漏れないように『風魔法』で空気の壁を作り出す。その時にクロがこちらを見ていたけど、大丈夫だと真っ直ぐに目を見つめたらそのままガールズトークに戻った。


「これで大丈夫かな。それじゃあ、質問の返答にいこうかな。神代君が聞いてるのは、多分僕じゃない。ーー俺、だろ?」


 口調が変わった途端、神代君の目がキツくなった。


「そう警戒するな。誰にも手出しはしないし、何か敵が来たとしたら俺が戦うんだからな」


「それは、お前の意志か?」


 ここは僕が答えた方が良さそうだね。


「いいや、僕達の意志だよ」


「鉄条、あれは、なんだ?」


「本人が言った方がいいかな。ーー俺は、吸血鬼さ。本に載ってたりしただろ?十字架がどうとかにんにくや銀製の物が苦手とか。基本、その吸血鬼と変わらないさ。まあ、苦手は無いんだがな」


(苦手を挙げるなら怒ったミアとかじゃないかな?)


 それはお互い様だろ。


「吸血鬼?鉄条が?」


「正確には俺が、だな。あっちは正真正銘人間だ。まあ、俺という存在があるから吸血鬼と同じ事は出来るけどな」


「お前はいつから鉄条と一緒なんだ?出て行くことは可能なのか?」


「俺を追い出そうっていう事か?そりゃ無理だ。俺はあいつであいつは俺だ。俺をどうにかしたいならあいつごとどうにかしないといけない。消し去りたいってんならこの身体をあいつごと殺すしかないな。それと、いつからの方だが、この世界に来てからだ」


「お前は……味方、なんだよな?」


「ああ。基本考えるのはあいつの仕事で、方針もあいつが決める事だ。今は一応目的があって旅をしてる。あいつと俺、両方関わりのある目的がな。言うつもりはないし、クロに聞いても口止めはしてあるから言わないぞ。その目的を邪魔したりしなきゃ別にどうだっていいのさ。俺はな」


「僕としては、まあ、みんなを元の世界に戻してあげたいとは思ってるけど、一番はミアを守る事。2番が僕が強くなって死なない事。僕の中でこの優先順位は変わらない。それと、あっちは言わなかったけど、僕が敵に回る可能性についても言っておこうか」


 これは言わないとね。


「ミアに手を出したり、危害を加えたら、そしたらもうそいつは僕の敵だ。 僕の敵になるって事は自動的にクロとアカも敵に回る。その事だけは覚えておいてね。それさえ守ってくれれば僕は神代君の仲間でいられるよ」


「それは、仲原や不知火であってもか?」


「……まあ、きっとね。あの二人がミアに手を出すなんて考えられないけど、もし、やるなら多分、僕は覚悟を決めてやるだろうね」


 あぁ、敵対する覚悟もある。なんだ、悩んでも結局はミアが一番なんだ。どちらか片方しか救えない。そんな状況になったら、ミアを助けるんだろう。


「そうか……。この事は誰がどのくらい知っている?」


「隼人、仲原さん、美智永さん、近藤君、ミア、クロ、アカ、リンじゃないかな?ギルド長とかも知ってるはず」


「知ってたのか……」


 神代君が近藤君に視線を向けていた。まあ、敵対の可能性については言及したのは初めてだけど、そこら辺はみんな察しているはずだ。だから言わなかったのもある。


「近藤君達にはバレちゃったから話しただけだよ。神代君にもバレたしね。信頼して話したのは隼人と仲原さんとミアだけ」


「なるほどな。もう壁解いてもいいぞ。今の話、王女様に聞かせたくなかったんだろ?名前が上がらなかったからな」


「まあね。あの国と国王、王女を完全に信頼してないからね。連絡手段は渡したけど、宗介に断ってちょっと弄らせてもらったし。それと、まだ話したい事はあるから壁は消さないでおくよ。ここからは1対1で話したいから近藤君は少し失礼してね」


 壁を近藤君を退けるように再設置する。さて、ここからが僕が話したかった事だ。

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