第90話 犯人?特定

 分身体で外に出る。今度、『回復魔法』の装備品作っといた方が良さそうだなぁ。常に意識して使うのは結構面倒な魔法みたいだし。


 さて、クロは何処らへんにいるかな?『気配感知』でクロの気配を探り、『風魔法』で空中を踏みしめて『鑑定の魔眼』で犯人探しも同時に行う。


 クロ発見。暗闇の中に入れる。僕の暗闇とクロの暗闇を繋いでおいたからこれでクロに『回復魔法』を使えば元に戻るはずだ。


「んー、駄目だなぁ」


 上空から犯人を探していたが、なかなか見つからない。この方法だと外に出ている人しか見る事が出来ないから、見つからないって事は室内かな?


 地上に降りて1軒1軒探し回るが、犯人と思われる者はいなかった。


「うーん、既に村にはいないってことかな?」


 村の中全部を回ったが誰も引っかからない。村の外にいるか、もう村に用は無いと何処か遠くへ行ったか、何処かに巧妙に隠れているかの3択くらいだろうか。


「遠くに行くにしても、村の人の様子を見る限り時間がそこまで経ってるようには思えない」


 村人全員が酔っていては村は機能しない。しかし、村人全員がまだしっかりと生きているし、酔い以外の異常は見られない。もし、時間が経っていたなら体調不良、最悪の場合死人が出ている可能性だってあっただろう。つまり、この酔いの原因の魔法は使われてからそこまで時間が経っているわけではない。


「それに、こんな痕跡残していくかな?」


 何かの実験であって何処かへ去ったならこうして魔法を残していくだろうか。何らかの処置をしておくのが普通だろう。


「と、なるとまだ実験中かな?」


 実験なら何処かからか経過観察をしているはず……。村の周囲で村を観察出来そうな場所は……丘かな。


「一応、この村の中にいるっていう線が消えた訳じゃないから分身体をもう1体要請かな」


 本体の方から分身体が1体暗闇で送られてくる。


「僕は村の中を見てくるよ」


「うん。僕はあの丘に行ってみる。もし発見したら本体を通して情報共有って事で」


「了解」


 分身体1体に村に残ってもらい、僕は村の外にある丘を目指す。もし犯人がいるならバレないようにした方がいいだろうから『気配遮断』と『隠蔽』を同時使用して、『雷纒』『雷歩』『クイック』の三点セットで、視認しようにもそれなりの力が必要になるように速度を上げる。


 武器は音を出さないためにも短剣にしておく。いざとなったら血と糸でどうにかなるはずだ。


 そして、丘に着いた。『気配感知』を使用して気配を探ってみると、反応が一つ。当たりかな?


 三点セットを解いて、慎重に近づいて行く。『気配遮断』と『隠蔽』をしているが、格上なら必ず見破ってくる。用心しておくに越したことはない。


「……あれかな?」


 見つけたのは1匹の狐だ。尻尾が3尾ある。『気配感知』をしてもその狐以外には見つけられない。この狐が、犯人?この場合は犯動物になるのかな?


 そうと決まった訳じゃないから一度接触してみよう。魔族とか黒服とかなら分かりやすかったんだけど、狐っていうのは流石に判断に困る。言葉が通じるかどうかもわからないけど。


「あー、言葉はわかる?」


『む……。貴様は村にいたはずだが……。幻体か?』


 頭に直接言葉が流れ込んできた。声をかけてから狐がこちらを向いたので、この狐の言葉だと思われる。


「んー、幻術って訳じゃないね。使い手はまあ、いるけど。それで、あの村があんな風になってる原因は君でいいのかな?」


『いかにも。だが、邪魔はしてくれるな。これは村の長に頼まれた事だ。悪さでしている訳ではない』


 ありゃ。村長が頼んだ事なの?けど、その言葉を鵜呑みにする訳にもいかないしなぁ。


「うーん、それ証明出来ない?」


『証明か……。これでどうだ?』


 三尾の先から炎が放出され、その炎が次第に紙になっていく。


『それは村の長との契約書だ。村の長も所持している。部屋を漁れば出てくるはずだ。村にいるなら探せるだろう?』


 本体を通して村の分身体に同じ物を探してもらう。契約書に村長の名前が書いてあり、鑑定をして、その名前の村長が家の中にいたのは把握しているので、その家内を捜索してもらうと、どうやら発見したらしい。


「あったみたい。えっと、このサグジってのが君の名前でいいのかな?」


『いかにも。契約内容もそこに書いてあるだろう?』


 なになに?


『1年の中で1回村全体を酔わせる』『1年の中で1回村全体を驚かす』『村が危険な時は村民を守るために行動する』


 最初に書いてあるのが今起きてる事かな?最後のはいいとして、最初のと2つ目のはいったい何の目的が……。


『我はその内容に従っているだけだ。対価は食糧だな。契約内容が気になるなら明日、村の長に聞くのがいいだろう。我は理由を知らぬからな』


「明日っていっても、村全体が酔ってるけど、明日には治るの?」


『一種の呪いの様なものを使用しているだけでな。発動を止めれば効果はすぐ消える。契約しているから今日解除する事は出来ないぞ』


 うーむ。何だろう、タイミングが悪かったとしか言いようがない。

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