第89話 村の異変

「えーっと、どうなってんの?これ……」


 競争と称してみんなで全力ダッシュをしていたのだが、途中で村を発見し、みんなの意見の元、寄ってみたのだがその村は何かおかしかった。


「みんな酔ってますね……」


 今はまだ昼を過ぎた辺りだ。それなのに、村人が所々に倒れ伏しており、調べてみればみな酔っているのだ。


「酔ってるっていっても酒なんて無くないか?」


 近藤君の言うように村の中には酒瓶は落ちていない。まず、村の見張りの人すら酔っていたのに、酒は置いていなかったのだ。


「何か、あるんじゃないかしら?」


「調べます?」


「まあ、せっかく寄ったんだし……。それにこんなになってる原因を知っておかないとモヤモヤする……」


 こういうのは見つけてしまった時点で関わってるのと同じだ。原因を探るくらいはしたい。


「……マスター、失礼します」


 クロがそう言うと、僕含めその場の全員を暗闇の中に強制的に入れ込んだ。


「どうしたの?」


「どうやら、あの村一帯に魔法が掛けられているようです。村人があの様になっていたのもそれが原因かと。マスター達をあのままにさせておけば、村人と同様の症状が発症してしまう恐れがあったため、緊急で避難させていただきました」


 原因、わかっちゃったよ……。調べる所が楽しいのに……。


「じゃあその魔法を使っているのは?流石にここまで知ったらどうにかしたいと思うんだけど」


「あの短時間ですし、鑑定は魔眼ですから直接見ていないので、特定は出来ておりません。ですが、分身体で上空から見ておりますので村内にいるなら早期発見は容易いかと」


 うわー、優秀だなぁ。どうしたんだろう。クロってここまで優秀だったっけなぁ。いや、優秀だったはだったんだけども。


「それじゃあ、俺たちは犯人特定出来るまで待機って事でいいのか?」


「それでいいです。異常事態が起こり次第、皆様に報告はさせていただきますが」


 ふむ。まさかちょっと立ち寄ろうとしただけの村でこんな事件が起こっているとは。


 それから数分。各々暗闇の中で過ごしているとクロに変化があった。顔が赤くなっている。


「クロの様子、おかしくないですか?」


「やっぱりミアもそう思う?」


 僕一人なら思い違いという事もあったかもしれないが、ミアも言うなら間違いないだろう。


「クロ、どうしたの?」


「マシュター?クロは〜ふつうでしゅよ〜」


 あ、これ酔ってるわ。いつもキッチリとしたクロがこんなになる訳ないもん。こりゃ大変だ。


「みんなー、集合ー!」


「クロが大変です!」


 僕とミアの声でみんなが集まり、クロの様子を見て様々な反応を見せた。


「鉄、クロさんはここから出てないよな?」


「うん。出てたら僕が分かるはず。だからクロ本体は絶対に出てないよ。外に出てたのは分身体。だから分身体への影響が本体にまで出たっていうのが僕の推測。でも今まで分身体が受けた影響が本体にまで出た事例はないから確実にそうとは断言出来ないけど、症状を見る限りはそうだと思う」


 分身体に村を捜索させていたからには、魔法の効果範囲内にずっといたという事なのだから、分身体が酔ってしまうのはしょうがないと思える。本体は出ていないのに酔っているという事は、効果が本体にまで影響していると考えても不思議ではない。


「この症状は治せるのか?」


 神代君に聞かれるが、分からない。そもそも僕らは酔う事がない。お酒を飲まないから。だから治せるかどうかは分からない。


「酔いを状態異常と捉えていいなら、治せるとしたら『回復魔法』になるのかな?」


『自己再生』はあくまで肉体を再生させるくらいだと思うし、それで回復するならクロはこうなっていないはずだ。


「この中で『回復魔法』を使えるのは仲原と鉄か」


「だね。試してみるよ」


『回復魔法』を酔いが醒めるようなイメージで使用する。仲原さんも協力して使用してくれる。


「う……。マスター、何を?」


 クロの呂律が元に戻っている。酔いが醒めたかな?と思い『回復魔法』の使用をやめるとすぐにクロの顔が赤くなっていった。


「マシュタ〜」


 あ、酔った。そっか、分身体の影響が本体に来てるって事は分身体を回収しないと治したって一時的に治るだけになっちゃうのか。


「分身体回収して来ないと……。でもミイラ取りがミイラになる可能性もあるし……」


 やるとしたら僕かクロだろう。何かがあっても分身体で行けば安全だからだ。


「魔力がどれだけ必要か分かりませんが、『回復魔法』で治るなら『回復魔法』を使用しながら行けば酔う事もないのでは?」


 王女ナイス。その案を採用しよう。


「なら僕が行ってくるよ。分身体で何かあっても安全だし、『回復魔法』を使えて魔力量も一番多いだろうから」


 日頃から『雷纒』を使ってる僕の魔力量はかなり多い。正確にどのくらいか、っていうのは分からないけど、『回復魔法』を使いながらでも1、2時間は余裕で保つ自信がある。


「テツ君はクロみたいになりませんよね?」


「そのための『回復魔法』だし大丈夫だよ。何か身体に異常がありそうならすぐに連絡は入れる」


 心配性だなぁ。

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