第81話 試した結果

「『浮遊』はまああんなもんでいいとして、次は『糸』か」


『糸』と『毒糸』初めて大きな魔物を狩った時に手にしたスキルだよな。クイーンだったか。今ではそこまで苦労せずに倒せてしまうだろうな。


「『糸』は出す時に詳細を色々と決める事が出来ます。例えば、こうですね」


 クロの手から文庫本くらいの厚みがある糸が出される。


「今回は厚めにしてみました。この様に使い方次第です」


「なるほどな。んじゃ、さっそく」


 なるべく視認出来ない程の薄さ、細さ、耐久性はあり、性質はよく切れる。


 手から糸が出ているような感覚はある。しかし、見えはしない。試しに糸があるであろう場所へ指を動かしてみる。すると。


「うっわお、まじか」


(ちょっ、何してんの!?)


 指が切れた。皮が切れて血が出たとかそういうものではなく、綺麗に切断面を残して指がスパッと切れたのだ。これを見て、すぐに糸を出すのを止めたが、『糸』の凄さを少々見くびっていた。


「マスター!?」


「……大丈夫?」


「ご主人!大丈夫です!?」


 周りで見ていたものも、上空を飛んでいたアカでさえ、指が切れた瞬間にこちらの心配をしてきた。


「大丈夫だから心配すんなよ。というか、クロなら治るの分かるだろ」


「治るからというのは心配しない事には繋がりません!それに奥様に見られたらどうするつもりですか!」


 あー、それはまずいな。さっさと治すか。『自己再生』と『回復魔法』を使用する。『自己再生』だけで十分だが、『回復魔法』はいざという時に使った事が無いと困るだろうということで使用感を試すために使用した。


(あのさ、それ、僕の身体だから。危ない事しないで欲しいんだけど)


 指1本くらいどーって事ないっての。どーせ強敵と会ったら指1本どころか腕1本とか下半身全部とか逝くかもしれないぞ?


(……それも治るんだよね?)


 まあ、被害が大きいとその分時間はかかるけどな。一応は治る。死ななきゃ治る。大丈夫だ。


(……なら、いいけどさ)


「『糸』は危険だしこの辺で止めておくか」


「それがよろしいかと。次、マスターが自傷行為に走った場合奥様に報告させていただきますのであしからず」


「それって、どこまで?」


「少し血を出すくらいなら報告はしません。今回のような指の損失するくらいの事をしたら、です」


 あ、よかった。血を出すのすらやめろと言われたら吸血鬼最大の武器が無くなるところだった。


「んじゃ、次、『忍者』だが」


「『気配遮断』『気配感知』『忍術』『隠密』がセットになっている豪華なスキルですね」


「そうなんだけどな、『気配遮断』は『隠蔽』があるからまずほぼいらない。『気配感知』はもう持ってる。『隠密』は使うかもしれないが、それも相手にバレないようにする為のものだから今使えるものじゃない」


「すると、やはり使えるのは『忍術』だけ、ですか」


「そうなる」


「では分身の術以外の『忍術』を試してみましょう」


 そう言われて分身の術以外の忍術ってなんだっけなと考え、火遁や水遁なんかがあったなと思い出した。


「じゃあそれでは、火遁の術」


 息を思いっきり吸って吐くのは炎。何となく、火遁ってこんな感じじゃなかったかっていうものを選んだ。


「……微妙」


「ご主人!私ならもっと強いの吐けるです!」


 威力は全然だった。それに炎のブレスはアカが普通に使えるな……。


「その、マスター。もういいです」


 次は水遁を!と思ってやろうとしていたらクロに止められた。何故だ。


「基本、その手の術の効果が薄いのが火遁の術を見てわかりましたので。『忍術』としてでなく、魔法系でやった方が威力が高くなります」


 なんと。


「つまり分身の術以外『忍術』は使えない子って事か?」


「はい、その判断で大丈夫です」


 まじか。どうせなら水遁を使って水の無いところで〜のやつをやりたかった。まあそれをやるとしたら同郷がいないといけないから俺は無理なんだが。


(一度はやってみたいと思ってる)


 俺が起きてる時にやってくれな。面白そうだから。


「さて、これで『忍者』も終わり。上げられたやつ全部試したけど、どうするよ?」


「……派生、狙ってみたら?」


「派生、ねぇ。俺が持ってる『雷歩』の事だよな?」


「……そう。使い続けたらいつの間にかスキルとして発現しているもの。その『雷歩』っていうのは多分、偶然だっただろうけど」


「私がいれば今のスキルからどうすれば派生が手に入れられるかわかります。そして、私とマスターで別々に担当すれば同時に2つも派生が手に入れられる」


 ほほう。それは面白そうだな。


「だが、普通にここでやっててもつまんないからダンジョンで適当に魔物を狩りつつだ。戦闘で慣らさないといざって時使えないからな」


「ええ。勿論です。『吸血』もしなければいけませんしね。アカ、貴女も人型で戦えるように同行しなさい」


「わかったです!」


「……私はアンシアの様子を見てくる。その後で暇があったら向かう。なかったら分身に伝えておく」


「了解しました。それではマスター、行きましょう」


「おう」


(あ、素材はちゃんと回収してね。『錬金術』の事もあるし、他にも使うから)


 分かってるさ。俺だってお前だからな。それに俺が回収しなくてもどうせクロなら回収するだろ。


(あー、そんな気がする)


 ま、俺が回収するさ。手間でもないしな。そんじゃ、お楽しみの魔物狩りタイムと行きましょうかね。

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