第65話 月の力

「にしても、よく見つけたね」


「はい。私にもマークがありますので。共鳴したのかと」


 へ?クロにもあるの?


「マスターが確認出来なかったのも無理はありません。私のマークはここに刻まれていますので」


 そういってクロはエプロンドレスをたくし上げ、太ももの付け根が見えるところまで上げるとそこにマークがあるのが見えた。確認したのにずっとたくし上げている。何故だ。


「もう戻していいから」


「はい。かしこまりました」


 さて、どうするかなぁ。あの占い師にはマークが付いたのは回収するって話をしたけど、今回のはなぁ。リンのメイン武器な訳だしなぁ。


「それに、このマークが付いてるのは何か特別な効果とかあったりしそうだし……」


 クロの背中には魔法式がしっかりと刻まれているが、朔月さくげつ望月ぼうげつには魔法式が見当たらない。つまり魔法道具では無いのではないかと思う。


「マスター。マスターが誤解をしていそうなので言いますが、これは歴とした魔法道具です。ただ、魔力を使用するのではなく、月の力を必要としているようですが」


「月の力って何?確かリンが大人になってたのと関係があるやつでしょ?」


 月の力を全て使ったとか言ってたからね。


「……月の力っていうのは言葉の通りで、月から得た力のこと。ほとんどの種族は月の力を持っていないけど、月と夜に関係する種族のほとんどは持っている」


 月の兎っていうくらいだし、確かに関係あるか。


「って、夜に関係あるなら僕にもあるのか?」


 あ、口が滑った。だけど、まあこの二人ならいいか……。アンシアさんはあの婆さんの知り合いだし、リンは何となく気づいているだろうから。


「はい。マスターにもございます。ですが、マスターの場合自身の中に貯めておく事や武装などに貯めておく事をしていないため、夜を迎えると共に常に放出しているようですね」


「……月の力は夜の月が出ている時にしか得られないし、使えない。貯めるには入ってくる力を認識して内に留めるようにならないとダメ」


 内に留めるってなんだろ。ギュッて固める感じか?教えてもらおうかな。


「で、その月の力って結局どうなの?使うと強くなったりするの?」


 リンの場合は大人になって基本スペックが上昇してたし、幻覚等の能力も月の力を使っているらしい。そんな力が増えるなら僕としてはモノにしておきたい所なのだが。


「……効果は種族それぞれというか、人それぞれらしい。兎は幻覚がそうで、私はそこに追加で大人化が入ってる」


 なるほどなぁ。つまり、僕だと吸血鬼系のものが出るわけか。


「マスターの場合、吸血鬼関係、それも強力なものが得られると思います」


「どうして?」


「マスターの称号に『真祖』というものがあるのが観えました。吸血鬼の真祖となると過去の例を参照しても強力である可能性の方が高いのです」


 へぇ。というか観たって完全に鑑定の魔眼だよね。僕の称号まで見られるのか。


「テツジョウさんは吸血鬼の真祖だったのですか〜。驚きですね〜」


 白々しいな……。知っていたと思うんだが……。


「マスター、どちらにしろ月の力は夜にしか取得出来ません。ならば、今は出来る事をすべきかと。この街の復興は終わっていないのですから」


 ああ、そうだね、って………。


「なんでそこまで詳しく分かってるのさ?それに吸血鬼の真祖も過去の例を参照って言ってるし、何をどこまで把握してるの?」


「そうですね。まずマスターの記憶は共有されています。それに加え私を創り出した魔王の記憶も入っています。その為、吸血鬼の事も現状の事も把握していた訳です」


 なるほど。なるほど。君は僕の記憶を共有していながら僕の知り合いに手を出そうとしていたというわけだね。どうなってんだか。


「ま、いいや。んじゃ、ミアと仲原さん、隼人は僕と同じ扱いをするように。美智永さん、近藤君、王女様、神代君には手を出さず、怪我をしそうなら守るように」


「かしこまりました」


 一緒に行動を共にしてる仲間に手をあげられたらたまったもんじゃないからね。あ、ミアと仲原さんと隼人の扱いが別なのは当たり前の事だから。


「あ、そういえば薬草類採ってきましたよ。どうぞ」


 普通に忘れていた事を思い出し、アンシアさんに渡しておく。朔月望月の事に関してはまた今度にしよう。


「はい〜。受け取りました〜」


「それじゃあ、他の人の所に行こうかな。クロの紹介もあるし」


「それがよろしいかと。ちなみにミア様はすぐ近くにおられます」


「ならミアからだね」


 クロがミアの位置を把握したのは感知系を使ったからだろうし、僕も使って居場所を探す。すると、ちょうど今ギルドの前に来たところだった。


「運がいいね」


 僕とクロはすぐにギルド長室を退室し、ミアに声をかけた。


「ミアー」


「あれ?テツ君、どうしました?それにそのメイドさんはどうしたんですか?浮気ですか?」


 ミアの後ろから何か黒いものが見え始めた。幻覚だろうか……?


「違うからね!?えっと、ダンジョンクリアボーナスのクロだよ。一応マスターって事になった。けど、ミアも僕と同じように扱うように言ってあるから」


「クロと申します。マスターの記憶を共有しておりますので、ある程度は存じております。マスターの奥様でお間違えないでしょうか?」


「お、奥様だなんてそんな……」


 クロに奥様と言われた瞬間に態度が急変し、手を頬に当てくねくねとしている。扱い方がよくわかっているなぁクロは。


「私はマスターのメイドではございますが、マスターからはミア奥様にも同等の扱いをと申されておりますので、何かご用がございましたらお申し付けくださいませ」


「わかりました!よろしくお願いしますね!クロさん!」


「よろしくお願いします、奥様」


 ミアは奥様呼ばわりされるだけで簡単に認めてしまったようだ。まあ楽だからいいんだけどさ……。

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