第64話 メイド

「このメイドがクリアボーナスなんですか?」


「ああ。扉の奥には台座があって、その上にこのメイドが今みたいに寝ていたんだ」


「どうやって起こすんです?」


 クリアボーナスだから人間ではないと思うし、オートマタ的なものだと思うんだけど。


「どうやら魔力を流し込めばいいらしいんだがな。どうも、俺たちの魔力じゃ反応してくれなかったんだ」


「え?それってどういう事ですか?」


「こんな話を聞いたことがあります。ダンジョンクリアボーナスの武器や防具は選ぶのではなく選ばれるというのを」


「使用者が選ぶんじゃなくて、装備側が選ぶって事ですか?」


「はい。通常、ダンジョンというものは単独ではクリアしません。数パーティが合同になって攻略するものらしいです。そして、クリアした際のボーナスは、そのボーナスがパーティの中から1人選ぶようです」


「つまり、今回の場合だとリックさん達は選ばれなかった、という事ですか?」


「そうなるな。だとすると、後最下層に行ったのはそこの嬢ちゃんとお前、魔族って事になる」


 リンの話では忍者も結構最下層にいたらしいけどね。忍者は僕がやっつけたけど。


「ってことは必然的にリンか僕のものって訳ですか」


「ああ。俺たちもダンジョンボーナスがこんな仕様だとは知らなかったさ。試してみて初めてそういうものなのかってのがわかったくらいだからな」


「それじゃあリン、先やっていいよ」


「……わかった」


 リンがメイドの背中に手の伸ばし、魔力を注いでいく。一瞬ピカッと光を放ち、魔力注入を止めるがメイドは動かなかった。


「嬢ちゃんでもないとすると、お前さんだな」


「まじか……」


 僕はメイドの背中に手を当て魔力を思いっきり流す。とりあえず今持っている魔力の半分程度を。すると、先程のリンの時よりも激しい光がメイドから発せられた。


「うわっ」


 その場の全員が目を閉じたと思う。光が収まってから数秒して目を開けるとそこには先程まで寝ていたメイドが優雅に佇んでいた。


「マスターレイ様。これより私はマスターのサポートを務めさせていただきます」


「あ、はい」


 いきなりの事でそんな返事しか返せなかった。


「それでマスター、如何しましょうか。ここにいる者たちは皆殺しで宜しいので?」


「は!?何言ってんの!?ダメ!そんな事したらダメだから!」


 なにこのメイド!?いきなり物騒すぎやしませんかね!?


「そうですか。ではここにいる者達は中立という立場として設定しておきます。マスターに危害を加えれば即斬首ですので、お気をつけください」


「…………」


 この危険なメイドの発言に誰もが沈黙する。何故かって?僕はもう何だこれって思ってるから。他のみんなは多分迂闊な発言がこのメイドにどう取られるか分からないからだと思う。だっていきなり即斬首とか怖すぎでしょ。


「……。あ、メイドさんの名前って何?」


「私に名はありません。お好きなようにお呼びしてください」


「う、うん。じゃあ、クロで」


「かしこまりました。これからはクロと名乗る事に致します」




「それと、ここにいる人たちが何を言っても危害は加えないでね。たとえ僕に対する暴言とかがあっても」


「マスターの命令とあらば」


 メイドがそう言った瞬間にみんなが深いため息をついた。


「ちょっと、これは予想外でした〜」


「ですね……。なんかこれを見ると自分達が選ばれなくて良かったとすら思えてくるような面倒臭さです……」


 うん。僕も選ばれない方が良かったと思えてきています。


「……クロは何が出来る?」


「……」


 リンの問いかけに対しクロは何も答えない。


「……クロ。リンの問いに答えてあげて……」


「了解致しましたマスター。私はマスターと同じレベル、同じスキル、同じ動きをする事が出来ます。要はマスターが二人になったと思っていただければ。今、同じ動きと申しましたが、マスターの2倍、3倍の動きも可能としますがこちらは注がれた魔力を消費致します故使用後は補給していただかないと枯渇し行動停止に至りますのでご注意を」


 ふむ。凄いな。流石はクリアボーナスって感じの性能だよ。


「僕が新しいスキルを手に入れたらそのスキルも自動的に使えるようになる?」


「なります。更に言えば私がマスターの持っていないスキルを取得した場合はマスターにもそのスキルが追加されます」


 うわっなにそれチート。このメイド僕との相性良いかもしれない。


「なんか凄い化物メイドだな……」


「ですね〜」


「マスター。この者達は私を侮辱したと思われるのですが手を出しても宜しいでしょうか?」


「ダメだ。はぁ……。クロ、人に手を出していいのは僕が指示した時、僕が危険な時だけ。だけど、殺しはしちゃダメだ。色々と問題だから」


「かしこまりました」


 クロくっそめんどくせぇ………。もうちょっとどうにかならないですかねぇ……。


「えっと、とりあえず、話を戻します。調査結果は以上。ダンジョンクリアボーナスも以上。これで、報告完了でいいですか?」


「はい。お疲れ様でした。報酬はレオンから受け取っておいて下さい」


「あ、それはもういただいてますので大丈夫です。それでは俺たちは失礼しますね」


 そそくさとリックさん達が退室していった。クロと一緒に居たくなかったんだろうなぁ……。


「あ、はいこれ。朔月。返すよ」


「……ん」


「マスター、お待ちください」


「え?」


 リックさん達もいなくなったし、僕も行こうかと思って返そうとしたらクロに止められた。なぜだ。


「その刀、少し見せていただいても?」


「………壊さないなら」


「ありがとうございます」


 クロがリンにきちんと許可を取って丁寧に刀を見ていく。


「マスター、これをご覧ください」


 そう言ってクロが指を差しながら僕に見せてきたのは、あの『十字架に悪魔と鎌』のマークだった。


「これは……。待って、じゃあ望月にも?」


「……ん、見てくれて構わない」


 リンから望月を受け取り同じ場所を調べてみればそこにも『十字架に悪魔と鎌』のマークがあった。


「……リン。これってどうやって手に入れた?」


「……これは私がアンシアに預けられる時に私を拾ってくれた人から貰ったもの」


「リンって最初からアンシアさんと一緒にいた訳じゃなかったのか」


「はい。私はこの子をその人から託されただけです」


「その人の名前って聞いても?」


「はい……。ソウイチ、あの人はそう名乗っていました」


 ………。


「マスター?どういたしました?」


「いや、何でもないよ。ちょっと驚いただけ」


 ソウイチ、それは僕の父さんの名前だ。そしてこのマークは僕と父さんが作ったもの。占い師はこう言っていた。このマークが入ったものは『魔王さんが作ったもの』だと。


 まさか、父さんがこの世界に?そして、先代の魔王と何らかの関係、もしくは本人という事があり得るかもしれない?


 いや、ただの同名の人だっていう場合もある。だけど、そうだとすればこのマークはどう説明すればいいのか。


「これは……面倒な事を押し付けられたなぁ……」


 あの占い師が誰なのか、次に会った時には教えてもらわないといけないだろうなぁ。

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