第46話 竜とリン

 4階層は広大な平原だった。空には鳥や竜なんかが飛んでいるのが見える。

 そういえばあの竜も4階層、5階層に出るとか言ってたな。まあいい。忍者も倒したんだ。もう邪魔するような敵もいないだろう。


 遠視で周りを見ながら駆け抜けて行く。途中にいる魔物なんかは全て無視だ。


 2階層、3階層とは打って変わり、4階層はすぐに階段を見つけることが出来た。

 忍者達がいないとスムーズに済んでいいな。


 5階層、そこは火山地帯だった。山がたくさんあり、マグマのようなものが流れていたりしている。しかし不思議と暑くはない。このマグマは熱くないのかと試しに黒球を入れてみたら溶けていった。熱いけど暑くないってことなのか。


 この層の空にも竜が飛んでいるな。だが、4層の空にいたのとは少し違うように思える。違う種類なのかね。


「階段はっと………見つからねぇな」


 遠視で階段を探したが見つからなかった。この階層までしか攻略がされてないのは階段が見つけられていないからか?

 とりあえず散策をしてみることにした。


「おっと。雷歩だけだと捕捉されるのか」


 突如として空から赤の火炎が降り注いだ。距離もあるので回避は余裕だが、避けても避けても次が来る。


「さすがにめんどうだな……」


 やっちまおうかと火炎の主である竜がいる上空へ風魔法を使い向かう。そのまま竜の上をとる。そして竜に跨り怪力で鱗を剥がす。剥がす事にグオォォォと竜が悲鳴をあげる。4枚目を剥がした時点で竜が落下、俺は飛び降りて風魔法で着地する。


「この鱗とか鍛治でなんかに使えるかもな」


 手に入れた鱗の使い道を考えながら土煙が収まるのを待つ。収まると竜が腹を上にして、動かないでいた。鑑定で死んでいないのは分かっているため、何をしているんだと困惑する。もしかして、死んだふりでもしているのか?


「おい、死んだふりなんてしてないでこいよ」


 魔物に言葉が通じるか知らないが、先に仕掛けてきたやつが何をしてるんだと思った。

 すると、竜が顔をあげて首を横に振ってきた。尻尾も振っている。死んだふりじゃないってことか?てか言葉が通じたのか。


「死んだふりじゃないとすると……なんだ?」


 急に先程までとは違う大きな音が鳴った。遠視で手当たり次第に捜索してみれば、竜が何体も地面に倒れ、血を流している。


 気配感知をしてみても魔物以外の気配はない。一応、隠蔽と忍者のスキルで気配遮断をかけ、すぐ動けるように雷纒とクイックを発動させる。


 竜を観察してみれば、幾度もの切り傷があり、相手は刃物を使ってくる事がわかる。


 腹を見せていた竜も異常に気が付いたのか、普通に立ち上がっている。こちらに攻撃してくる様子は見られないから気にしないでおくか。


 ここにも竜がいるためにいつか敵が来るだろう。そこを狙わせてもらう。


 周りを探る中、一部に揺らぎがあるのが見える。その揺らぎは移動して、竜を狩っている。竜に無数の切り傷が刻まれ、最後には首をはねられていた。あの揺らぎが敵の正体か。


 見ていたのがばれたのか揺らぎはこちらに走ってくる。遠視を解き、魔眼を発動させると、揺らぎがなくなりちゃんと見えるようになった。ウサギの耳をした、少女の姿が。


「ちっ………。面倒くさい相手だな……」


 相手はリンだった。両手に長剣を持っている。その剣からは赤い血が流れ出ている。


「……あなたが、来てくれた人。私は見えてる?」


「ばっちり見えてるぞ。俺はお前を連れ戻す為にアンシアから依頼を受けた。さっさと帰るぞ。それとも、竜を殺しまくっているこの状況、敵についたか?」


「……帰れるなら帰りたい。でも、無理。今の私はっ!?避けて!」


 リンが長剣を振るってくる。動きは素早いが、反応出来ないほどではなかった。


「どういうことだ?」


「……私は今、命令されてる。入ってきた人を殺せって」


 剣を躱しながら事情を聞いてみる。どうやら訳ありのようだしな。

 リンの方も剣を振りながらもこちらに事情を説明してくる。


「なんでそんな命令を聞いてる、やらなければいいじゃないか」


「……それが無理。この首輪のせいで」


 見ればリンの首にはチョーカーが付けられている。真っ黒の。


「そいつを壊せばいいんだな?」


「……そう。だけど、大変。私の剣を避けながらやらないといけない」


「なに、それなら別に問題はないさ。速さなら俺の方が上だからな」


 雷歩の出力を上げて背後に回り込み、首輪だけを正確に狙う。


 キンッという金属音が鳴り、短剣が弾かれる。簡単には切れないか。どうするかな。炎纒で溶かしたりと色々案があるが、どれもリンに危害が加わってしまう。救出対象を傷つけるのはな……。


「……私の事は気にしないでほしい」


「そいつは無理だな。こっちはお前を助けるためにここまで来てるんだからな」


 さて、少し細工するか。


 今度はリンの動きに速度を合わせる。


「……何かするなら私にバレないようにして。きっとこの剣で斬っちゃうから」


「はいよ。了解っと」


 まあ、きっとバレないだろう。動きに合わせてやっているし。それにしても幻術を使うから苦戦するかと思ったがそうでもないな。魔眼のおかげで幻術かどうかがすぐわかる。

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