閑話 忍者と主

「………」


「すみません、主様。襲撃の結果、1名が死亡。他の者は被害ありません」


「そうですカ。その1名は下っ端ですカ?」


「はい。引きつけ役をしてもらっていた者です。幾らでも代わりはいます」


「ならばいいでス。それで、どのような人物だったのですカ?ダンジョンに入ってきた者ハ」


「それが……身長が低く、銃という武器を使用する他に、主様から借り受けた重力場を用いてもこちらのクナイを捌ききる程の速さと腕を持っております」


「……?」


 黒忍者の報告にリンは戸惑う。アンシアは決して身長が低くはないし、どちらかといえば高いほうだ。それに銃というの武器が何なのかすらわからない。


「それはそれは、なかなか面白そうですネ。それにしても、重力場で動けるとは凄いですネ。黒は動けますカ?」


 男が黒忍者に対して重力をかける。


「ぐっ……。無理、で、ございます。話す、のも、だいぶ、キツイくらい、です」


「そうですカ」


 男がパチンッと指を鳴らすと黒忍者が受けていた重力は無くなっていた。


「他に報告するとしたら、そいつは謎の攻撃手段を持っています」


「謎、ですカ?」


「はい。こちらが視認出来ない様な類のものかと。それにより引きつけ役が死に至りました」


「そうですカ……。それでは、次は1つ解放していいですヨ。次の襲撃は……3階層階段近くでいいでしょウ」


「ハッ。了解しました」


 黒忍者が姿を消す。


「このダンジョンに入って来た方はなかなか優秀なようですネ。貴方が期待しているアンシアという方ですかネ?」


「……」


「だんまりですカ。まあいいでしょウ。それにしても重力場で動けるとは是非とも仲間に加えたい程の逸材でス」


「……絶対に負けないから」


「それはそれは、楽しみですネ」


 その人は絶対にアンシアではない。だけど、きっと負けない。そう信じる。黒忍者を倒した事から私の敵ではない事は明確だ。ならばきっと、ここまで来て助けてくれるはず。……その人がウサギの事を知らなければだけど……。


 それにしても、アンシアでなければいったい誰なのか?それが気になった。このダンジョン深くに入る事になった切っ掛けは、ダンジョンを封鎖するからだと目の前の男と忍者が話しているのを聞いた。

 他の人を狙う事もしないとすると、その人1人で入ってきているという事だ。

 アンシアは自分に甘い所があるが、あれでもギルド長という立場だったはず……。もしかして依頼を?


「さっきから、何を考え込んでいるのでス?」


「……別に」


 この男に情報を与えるのだけは避けなければならない。


「まあ、いいでス。もし、黒が手に負えないような人物なら貴方自身にやってもらいましょうかネ」


「!?」


 それは、駄目だ。絶対に阻止しなければならない。自分の、ウサギの幻術を見破れるのなんてほんの一握りの限られた人にしか出来ない。

 今、このダンジョンに来ている人がどれだけ強かろうと関係なく簡単に殺せてしまう。


「……それだけは、絶対に、ダメ!」


「貴方はそんな事を言える立場ではないのですヨ。それがある限り、ネ」


 自身の首にある首輪を指され、歯痒くなる。こんな物を付けられてしまったのは自分の責任だ。


「さてさて、黒が行っている間にやるべき事を済ませてしまいますカ」


 男は自身の指を薄く切り血を出すと、それを使い地面に謎の模様を描き始めた。


「……?」


 リンは何をしているのかわからずに困惑する。


「まあ、わからないでしょうネ。何をしているのかなんテ」


 困惑しか見せないリンを嗤う。


「これで、完了でス。後はダンジョンに来た誰かさんを始末するだけですネ」


 楽しみダと笑い、踊り狂う。


「……」


 私は祈る。今ダンジョンにいる人が、強い人であることを。幻術を見破る事の出来る人であることを。この状況を打破してくれる人であることを。この男を殺してくれる人であることを。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る