第6話 破滅

週が明けて月曜日。

 すでにあたりは秋の風。

 高校も再開し、で、あるから小娘は再び青書生に逆戻り。また灰色の教室で話のあわない連中と、人生を棒に振ったウーマンリブの闘士の説教を聴く毎日が始まる――否。その前に。

 「ん……」

 恵比寿駅で待ち合わせをしていた小娘は頷いた。改札からちょっと険しい表情の姉が出てくるのを見とめたからである。

 十五時十五分――。

 これから激戦に赴く。

 場合によっては、姉妹の傭兵軍団は戦列から離れることも覚悟せねばならない。

 ――作品は……いとおしいんだけれど……。

 丸山花世は姉がそのように呟くのを聞いている。長く続いてきた作品。九年も続いてきた作品。その作品についている女神はとても健気で、一途。

 大井弘子は作品についている女神のことを体感として理解しているようであり……丸山花世もその気配を察知している。

 ――作品についている神様に触れるとは、こういうことか。

 それは有名作家だからといって必ずしもたどり着けない境地。作品の神様に触れること。物語の神様の声をじかに聞くこと――。

 ――なんとか……エターをうまく続けられないだろうか。

 小娘もそれは思っているのだ。全てが丸く収まる方法はないのか。だが。愚鈍な社員達を見ている限り、すでに『丸く収まる』というレベルで話は済まなくなっている。

 「行きましょう」

 三度16CCに乗り込む。

 あるいは、これが最後の打ち合わせとなるか――。

 と。恵比寿駅を出た、小娘の足が止まった。

 「ちょっと、アネキ……」

 見知った顔。雑踏の中に、丸山花世は良く知った顔を見出したのだ。それは、色黒のちんちくりん。かつての同僚や外注先の恨みを買った、本人だけが自分をビジュアル系と信じて疑わない男。チーフ・グラフィッカー、間正三郎。間は、ひどく上機嫌な様子で同僚かあるいは部下だろうか、肩を叩きながら喚いている。

 「ラーメンだ、ラーメン。おごれよな!」


 男達は笑いながら、雑踏に消えていく。それは会社とは別の方角であり……ということは、間は、打ち合わせに欠席をするつもりなのか。打ち合わせを放り出してラーメンを食いにいく。それは、職業人として、正しい姿なのか。正論に激昂し、影でキレまくり、その様子はすでに丸山花世たちにも伝えられている。そのような男が、打ち合わせを拒否して飯を食いにいく。

 「お、おい、てめー、ちょっと、待てコラ!」

 丸山花世は走り出そうとする。なんとしても不埒な、作品の神様につばを吐き続けるクソ野郎をとっ捕まえて張り倒してやらなければならない……だが。そこで、大井弘子が妹を制した。

 「放っておきましょう。あの人は自分が逃げていることを理解している」

 「でもよ……アネキ」

 蹴りを入れてやらなければ気がすまない妹に対して姉はより冷酷だった。

 「逃げてる限り、永遠に自分の作品は作れない。だったら好きなだけ逃がしてやればいいのよ」

 「……」

 「他人にも向き合わない。自分にも向き合わない。それは、どこにも通じてない道なのだから」

 

 代表作――なし。

 

 それが間正三郎の死ぬまでの経歴。本人がそれでいいのならばそれで構わない。他人がどうこう言う問題ではないだろう。

 「行きましょう」

 大井弘子は歩き始める。羅刹モードに入った大井弘子は妹からしてもすこし恐ろしい。

 いつものように。いつもの道を姉妹並んで歩く。大通りを渡り、雑踏を過ぎ、いつものオフィスビル。看板のかかったオフィスビル一階置くの扉。いつもは丸山花世がインターホンをとる。だが、その日は大井弘子自らがインターホンを取った。

 ――これは、出入りだな。

 小娘は思った。完全な喧嘩、である。

 「大井一矢と申します。はい……そうです」

 大井弘子はインターホンを置き、やがて、いつものヒゲが目をショボショボさせて出てきた。

 「……いや、どうも……」

 社内でのポジション争いに明け暮れる中年男。業務以外のところで体力の損耗が起こる会社は大抵左前。

 「えーと、社内でもいろいろとありまして……とにかく、奥へどうぞ」

 「……」

 大井一矢は無言でついていく。小娘もそれに続く。入り口すぐのところにソファがあって、そのソファに、声優だろうか、それとも歌い手だろうか、女性が一人、座っているのが小娘にも見えた。誰かを待っているのだろうか。

 「間さんはどちらへ?」

 大井一矢は言った。どちらへも何も、大井一矢は知っているのだ。間が恵比寿駅前を徘徊しているのを。間正三郎はラーメンを食いに行った。口実かも知れないが、会社を出ているのだ。

 「間は……社内の別プロジェクトがありまして……」

 市原はいつものように嘘をつき、丸山花世はそこで言った。

 「ラーメン食いに行くのがプロジェクトなん? さっき、あのちんちくりん、恵比寿の駅前うろうろしてたけど?」

 「え、いや、それは……」

 ヒゲのエグゼクティブ・プロデューサーは言葉を失った。

 「それでは打ち合わせにならないのではありませんか? 私達に一番、不満を感じておられるのは間という方で……その方が現れないのでは、話合いにならないでしょう」

 「……それは、その……」

 「まあ……構いません。食事よりも大事な打ち合わせがあるとは思えませんが、それも御社のやり方なのでしょう」

 アネキ分は穏やかに言った。

 ゲーム業界。プロデューサー。クリエイター。

 昔は子供達が憧れた職業。そして、市原の姿こそがその憧れの対象……とはとても思われない。斜陽産業のゲーム業界に夢を抱く若者は多分もういない。

 「……」

 市原は一度、沈黙し、それからポツリと、

 「馬鹿な奴らなんですよ……」

 と、呟いた。そして丸山花世は思った。

 ――てめーもな。

 丸山花世はくたびれた中年男に冷たい視線を送って席に着いた。大井弘子もそれに続く。

 「お仕事、お忙しいのですか?」

 大井弘子は市原に言った。

 「ええ……まあ、新作のゲームのイベントがあるので、そちらのほうにいろいろと」

 「イベントですか……」

 大井弘子は言った。

 「声優を集めて、秋葉原でミニコンサートをする予定なんですよ」

 「それはよかったですね」

 外交辞令、である。大井弘子の言葉には何の感動もない。だが市原は、他人の心の奥を読むことが、どうもうまくないようである。

 「トークイベントとか……スケジュールの都合とかも大変なんですよ」

 ――そんなことしてる場合じゃねえだろう……。

 小娘は思っている。そして姉は言った。

 ――会社、二期で赤字なんだろ……。

 「それでは、さっそく本題に入りたいのですが……ですが、肝心の間さんはおられない。どうなさるのですか? そちらには何か仰りたい御用向きがあるとか。こちらにも申し上げたいことはありますが、まずはそちらから仰っていただいたほうがいいと思うのですが」

 大井弘子の言葉に、市原は応じる。

 「ああ……はい、そうですね、今、芝崎が来ます。間たちの想いは芝崎が受けていますから」

 間たちの想い。

 市原はそのようなことを言ったが、言っていて自分でおかしいとは思わないのだろうか。

 ――そんな大層なもんかよ。アホか。

 やがて。芝崎が会議室にやってくる。足を踏み鳴らし、肩を怒らせたその姿は、要するに、

 ――オレは怒ってるんだ。オレを怒らせたらどうなるか分かっているのか!

 というポーズであろう。

 芝崎は市原とは目をあわさずに、自分の席についた。

 「どうも」

 大井一矢は軽く頭を下げたが芝崎は何も言わなかった。ただ、薄汚い色を下唇を震わせるばかり。

 「それで……なんでしょうか?」

 大井弘子は冷静に聞いた。

 「何か、現場サイドでいろいろともめておられるとか……」

 女主人は言い、そこで芝崎が狂犬病を煩った駄犬のように吼えようとする。と、その前に。

 「ひとつ申し上げておきたいのですが、芝崎さん、あなたはいつも打ち合わせに遅刻をされるのですね。私が本日、こちらにやってくることはわかっておられたのに、何故、そういう非礼を働くのですか。あなたは、市原さんの部下なわけですから、上司よりも先に現場に入っていなければならない。それは社会人として当然の態度でしょう」

 それは鋭いカウンター。芝崎はたじろぎ、大井弘子はさらに一撃を見舞う。

 「……ゲーム業界の人間とは言えサラリーマンなのだから、大事なのは一般常識。この言葉、覚えておられます?」

 「……」

 「これは芝崎さん、あなたがゲーム学校の生徒達の前で講師として招かれた時に仰った台詞です。自分の言ったことは、忘れてしまいましたか? ネットで簡単に拾ってくることのできたのですが。まあ、時に、自分の言葉の意味を理解しないままに話をされる方がおられますけど」

 大井弘子は芝崎を追い詰めている。そして。

 ――そんなの関係ない、と、テメーは言う!

 丸山花世は思った。

 「そんなことは……そんなことは関係ないッ! そんなことは……」

 退路を塞がれた豚は狂って反撃してきた。それはまさに破裂の瞬間であった。

 「そうですか?」

 大井弘子はあっさりと譲った。

 「なんなんだ、おまえらッ!」

 芝崎は退くに退けずにかえって一歩を前に踏み出してくる。

 「ちょっとおかしいんじゃないかッ?」

 「何がおかしいんですか?」

 「何がって……こちらのことを馬鹿にしやがって!」

 芝崎にはもはや冷静な判断力はないのか。傲慢さと小心。そして過剰な自己防衛本能。

 「いいかげんにしろよ! 態度がなってないのはそっちだろうが!」

 「何をお怒りなのですか? よく分かりかねますが……」

 大井弘子は冷笑しているわけではない。鋭い視線を芝崎という小物の顔の上に送り続ける。

 「いったい、どういう点が私達の態度がなっていないのか……指摘してくださるとありがたいのですが……」

 「オレたちのことを馬鹿にした。オレ達が会社を潰したとか、権利を守れなかったとか、オレたちが無能とか……聞くに堪えない暴言ばかり並べやがって! 侮辱だ! 俺達に対する侮辱だ!」

 「……」

 「スタッフとキンダーに対する数々の侮辱! オレ達はそれを許すことができない」

 「俺達ということは……それは、越田さんや、間さんの意見でもあるのですね?」

 「そうだ! 謝罪しろ! オレ達に!今すぐだ!」

 芝崎はわがままを言っているというよりは、むしろ気が触れている。

 「それにな……」

 芝崎はまだ何か怒ることがあるらしい。つくづく、気の毒な男である。

 「だいたいな、なんだこのシナリオ!」

 「シナリオがどうかしたのかよ」

 小娘が割って入る。

 「会社の……腹黒い、専務の名前、なんで、芝崎次郎……オレの名前なんだよ!」

 作中、邪悪な姦計をめぐらせる悪党。その名前は……芝崎次郎。そして、最後はシナリオの中で芝崎は主人公達に半殺しの目にあっている。めでたしめでたし、であるが、それが、芝崎には気に入らないらしい。

 「何がまずいん?」

 丸山花世は不思議そうに尋ねた。悪意もなく、ただ不思議そうに。その表情に芝崎は、変な間を作った。怒りに『?』で応じられる。そんなことを芝崎は予測していなかったのに違いない。

 「作品は私ら作り手の交差点じゃんか。それで名声得る奴がいて、落ちぶれる奴がいる。金を得たり、失ったり。作品は私らの人生の投影だよ。スタッフの泣き笑いは当然シナリオに書きこまれる。当たり前のことじゃんか。それが作品に深みを増すわけでさ」

 「……」

 「そういう意味では、あんたら、これまで本当の意味での作品、作ってきてなかったんよ。ただ漫然と、切り貼りしてただけで。だいたい、市原さんはさ、こう言ったのよ。『魂削って書いてくれ』って。でも、誰の魂を削るかまでは聞いてないのよ。市原さんは私らの魂削れって言いたかったらしいけれど、作品ってそんなに都合のいいモンじゃないからさ。だから、当然、悪辣な重役は芝崎さん、あんたの名前がふさわしいんだよね」

 小娘は自説を展開する。

 「あんたは……松木っていう人もそうだけれど、最初見たときから、トンチンカンだったんよ。あんた覚えてっか知らんけど、私らと初めて会って、ブランでタイニー作ってるって言ったとき、こう言って喚いてたんよ。『そんなの聞いてねえ』って」

 「……」

 「あんたねえ……会社でもめてんのか知らんけど、私もアネキも初対面よ。初めて会う人。そういう人間を前に、『そんなの聞いてねえ』とか『オレは認めねえ』とか……それこそ社会人としておかしいじゃんよ」

 「……」

 「それで、思ったのよ。エターっていう作品がここまでひどくなっちまったのは誰のせいかって。誰かが悪い。誰かが……それは誰だ? 私、思ったんよ。ああ、作品をここまでダメにしてしまったのは芝崎さん、あんただって。あんたが癌なんだって。もちろん松木っていう人も。だから、悪人であるあんたを作品の中でつるし上げてやった。っていうか、あんた、自分では一銭の金も会社に入れず、今まで通りにプロデューサーなんて威張れると思った大間違いなんだよ。自分は身銭切らんと、博打やろうなんて甘すぎる。ちゃんと、テラ銭ぐらい払ってもらわんと。でも、そういう気持もないみたいだしさ。だから、私のほうで、あんたの魂削って、作品の神様に捧げといたんよ。金で払えないんだったら、体で払う。そんなの当たり前だろ」


 小娘には小娘の理屈がある。だが、それは作品を本当の意味で作っていない芝崎には理解できないこと。

 「なんでそんなこと……オレがゲームの中で侮辱されなきゃいけないんだッ! なんでプレイヤーの前でオレが恥かかなきゃいけないんだッ!」

 芝崎の姦悪さに小娘もイライラしている。

 「ゲームで失ったのはゲームで取り返す。当たり前じゃん。会社潰して作品に泥塗ったんだから、あんたが作品の中で泥すすって作品にわびる。そんなこともわかんねーのかよ! オレのエター、オレのエターっていつも喚いてんだ。ちったあ作品の役に立ってみろっつーのッ!」

 「……ぶ、侮辱、侮辱だ!」

 豚は吼えた。

 「謝れ! オレたちに、オレたちに謝れええええッ!」

 なまっちろい豚野郎は目を血走らせ、口から泡を飛ばして発狂した。市原も炎上する部下に手がつけられない。否。手をつけるつもりなどないのだろ。市原は本心では部下の恥辱を大喜びしている。

 ――オレの地位を取って代わろうなんて、なめたこと言ってんじゃねえ。

 市原は腹の中で笑っているのだ。

 「謝れとおっしゃいましたか……」

 大井弘子が目をぎらりと光らせた。それは、普段温厚な姉が見せない表情。襲い掛かってきた酔漢の顎に蹴りを入れて相手の奥歯叩き割った時の表情。

 「それで……本当にいいのですか? 謝罪しろというのであればしますが……」

 「おまえらが悪いんだ! おまえらが! なんだ、偉そうに、救世主面しやがって! いったい何様のつもりなんだよ!」

 芝崎は発狂したまま喚く。

 「偉そうに御託ばっかり……おまえらがいなくてもオレたちがいれば、エターは回ってくんだよ! 越田、間、オレ……その三人がいるからこそのエターなんだよ! オレたちが主人公で……おまえらはオレたちを輝かせる脇役でいいんだよ!」

 丸山花世は、いつものように『こいつ馬鹿だな』とは思わなかった。そうではなくて別のところにはっとしたのだ。  

 救世主。

 その言葉は不思議な輝きを放っていた。それは多分芝崎という男の心を読み解くキーワード。救世主という言葉が素直に口から飛び出してくるような人間は……自分が救世主になりたいと常に思っているということ。九年間続いた作品。

 ――一度は潰れ掛けたエターナル・ラブをを復活させるのは誰だ? それはオレ! 芝崎次郎!

  芝崎はそう信じている。そう振舞いたい。だからホワイトボードの前で狂ったように踊る。芝崎にとっては、自分以上に目立つ人間が許せない。越田や間ならばまだ許せる。一応は同僚だし、芝崎には絵が描けないのだから。だが、外注にスポットライトが当たるのは許しがたい。

 ――オレが主役! オレが主役なんだ!

 だが主役も何も芝崎には何の才能もないのだ。

 そして、一方で、救世主という言葉は……。

 丸山花世は姉のほうを見やった。姉も……妹のほうに一度だけ視線を送ってくる。

 ――その通りである。

 つまり、興奮した芝崎の口から発せられた言葉は、多分だが作品そのものの言葉。作品の神様は常に作り手にいろいろな情報を送っている。それは、些細な白昼夢だったり、雑踏で聞こえた誰かのため息であったりとさまざま。大事なのはそれに気がつくこと。

 ――作品を救えるのは貴女たちだけです。

 作品の神様は多分そういうことを言っている。だから、芝崎の口から発せられた言葉がひどく輝いて聞こえた。小娘はそう捉えている。そして、それは大井弘子も同じ。芝崎とその場に居合わせた市原はだが、その大事なサインに気がついていないのだ。

 「謝罪……謝罪しろッ!」

 芝崎はまだ吼えている。大井弘子は憤りを瞳から消して言った。

 「分かりました。謝罪いたしましょう。ですが、それは、謝罪をするのであれば、まず、あなたからでしょう」

 「……」

 「名前の変更。それは、私達の専権事項です。あなたが勝手に変えていいものではありません。侮辱と仰られるが、最初に手を上げてきたのはあなたです。あなたが最初に恣意的な行動を取ってきたわけで、ですから、私は申し上げたのです。『そんなことでは会社はつぶれますよ』と。何度でもつぶれる。そのことは事実です。先に礼を失していたのたのはあなたで、ですから私も無礼で応えた。自分のことは棚に上げて他人に謝罪を要求するなど言語道断」

 「……」

 「名前の変更に関しては、私達を会議に迎えるべきでしたし、それが当然です。でもそうしない。それはいったい何故ですか?」

 大井弘子は冷静に聞いた。芝崎は答えない。

 「別に、そんなに難しいことでもない。私達を呼べばいいわけで、私達を排除して影で事を決める……」

 「その件に関してはボクも悪かったと……」

 市原が場の空気が読めないのかしゃしゃり出てくるのを大井弘子は左手を上げて制した。

 ――おまえは黙ってろ。おまえの相手はあとでしてやる。

 「連絡の不徹底……ではありませんね。何か意図があったからそういうことをしたのでしょう。それはいったいなんですか。私達に対する嫌がらせ……だけではないでしょう。16CC上層部に対するあてつけですか? 親会社に対するデモンストレーション? それてもブランに対する意趣返し? いずれにしたところで、あなたのやっていることは、会社に対して損害を与えるということであって、それは背任ですよ。あなた、もしも何かあったとき、責任をとる覚悟はおありなのですか?」

 「……」

 芝崎はぽかんとしている。背任という重い言葉があるいは芝崎の狂熱を拭い去ったか。

 ――責任を取れるのか。仲間と画策したことで生じた損金なりを自分で負えるのか。

 新しい環境に対する不満。権利をさらっていった会社への不平。上司に対する鬱屈。野望。そういうものが、芝崎をサボタージュに走らせた……のか。あるいは、そこまで考えもなく、ただ、幼稚園児のように駄々をこねていただけなのか。いずれにせよ社会は動機を勘案するよりも結果を重視する。理由はともあれ損害は損害。そのことに……芝崎は突然思い至ったのか。大井弘子の脅しに芝崎は別のベクトルで狂ったようである。

 「はいはい! 分かりましたよ! 謝るよ、謝りゃいいんだろうがッ! 謝りますよッ!」

 ヤケクソの暴発。けれどその心の奥には不安と恐怖が入り乱れているのに違いない。そして大井弘子は軽く頭を下げた。

 「そういうことであれば私達も謝罪いたしましょう。本来的に事実に対して謝罪をすることはないと思うのですが、頭を下げていただいているのであれば私達も頭を下げるのが礼儀ですから」

 ――頭下げるって……芝崎の態度、謝っているとはとても思えんけどなー。

 不遜というか、壊れた芝崎の姿を見ながら小娘は思う。だが、姉がそうするならばそれでいいのだろう。

 それに、まだ話は終わったわけではないのだ。

「さて……そちらのお話は終わったようで、私のほうからも実は、お尋ねしたい儀があるのです」

 「それは……なんでしょう」

 市原はぼんやりしていった。

 「16CCという会社のことです。二期連続赤字なのですね」

 大井弘子はすぱっと言った。

 「それで……16CCの親会社であるNRTは三期連続で赤字だと子会社の支援を打ち切るとか。それは本当ですか?」

 何故それを知っているのか。

 市原は少し戸惑っているようである。

 「伝え聞くところによると、こちらの会社は今中間期もあまり成績が良くないということなのですが……それは芝崎さんはご存知なのですか?」

 三年連続で赤字であれば会社はなくなる。16CCはすでに二年連続の大赤字。そして今年度前期も赤字。後半期に盛り返して黒字に持っていかないと会社はなくなる可能性がある。大井一矢の言いたいことは、

 ――そんな状況を理解していながら足の引っ張り合いをしているのか?

 ということ。そして芝崎はいつものようにトンチンカンであった。

 「……知ってますよ。そんなこと」

 丸山花世としては点を仰ぎたくなるところである。

 ――知ってて、そんな馬鹿なことをしてたのか!

 「いや、しかしですね……ゲームのタイトルはこれから発売になるわけでして、検収がずれているだけなんですよ。下半期でなんとかすれば、あるいは……」

 市原は言い訳のようにして言った。

 本来的にはそれは外注には関係のないこと。金さえもらえればそれでいいだろう。市原はそう言いたい違いない。だが大井弘子の気持は妹にはよく分かっている。

 ――作りました、売れませんでした、会社はまたつぶれましたでは……エターという作品は気の毒ではないか。

 「そんなことできるのですか?」

 大井弘子は訊ねた。姉はすでに知っているのだ。

 ――その作品は売れない。

 と。どれだけ数を撃っても、当たらない。何も当たらないのだ。最大で五千本。最少で……おそらく千本。16CCが出すタイトルでお客を惹きつけるものは皆無。

 「とにかく今は頑張るしかないかと……。それに」

 「それに?」

 「ゲーム部門を始めたのは去年のことで、ですから、親会社も、その辺りは考慮するのではないかと……」

 「……」


 「ですから、多少は手心を期待できるのではないかと……」

 「なんか、根拠あって言ってんの?」

 小娘は尋ねた。市原は応じる。

 「いや、根拠はないのですが……上が何考えているか、ボクらには分かりませんし……」

 まったく根拠のないままに大丈夫と言い切る。市原は本当に頭がおかしいのかもしれない。

 「では……たとえば、期末になるごとに新規事情を立ち上げていけば、親会社は延々と16CCを支援してくれると?」

 ゲームがダメなら出版業。出版がダメなら映画部門。金融、居酒屋、土建業。新たな部門を起こし続ければ金はいくらでも支援してもらえるのか? そうではあるまい。

 「……」

 市原は黙り込んでいる。先の見通しは立っていない。

 「ですから、エターに賭けているっていうか……」

 「賭けてるって……スタッフ、全然、協力する気ないみたいじゃんか」

 芝崎は黙っている。会社をどうするかというよりも、目の前にいる目障りな相手をどうするかということが社員の最大の懸案事項となっているのだ。

 「私は……そんなに虫のいい話は通らないと思います」

 大井弘子は言った。

 「もしかしたら、支援は続くのかもしれません。けれど……心がけの悪い人には物語の神様は良い作品を書かせてはくれないでしょう」

 もうエターは羽ばたかない。二度と持ち直すことはない。

 姉妹にはその結末が見えている。見切れてしまっているのだ。

 「市原さん。芝崎さんもそうですが……スタッフに愛されないキャラクターは、お客さんにも愛されないのです」

 大井弘子は続ける。

 「……本当に。ここまでちぐはぐなスタッフは見たことがありません。オレのもの。オレの作品。オレのエターナル・ラブ。でも……誰も、本心から作品を愛していないし、作品に触れていない。作品を皆さんはおもちゃにしているだけ」

 市原も芝崎も何も言わない。語るべき言葉もないのか。

 「それでどうするのですか」

 女主人は訊ねた。

 もちろんのことだが……大井弘子も丸山花世もまだ本題に入っていない。

 「えーと……何がですか?」

 市原は首をかしげた。やはりこの男は薬で前頭葉がいかれているのか……それとも演技であるのかる。

 「……この作品を続けるのですか。私達は侘びを入れに来たわけではないのです。私達は皆さんに結論を聞きに来たのですよ」

 妹は思っている。

 ――アネキはたいした辛抱だよなあ。私にゃ真似できんわ。

 「えーと、それは……続けるって言うか、続けざるを得ないっていうか……これにみんな賭けているわけで……」

 「それは、市原さん、あなたの意見であって、皆さんの意見ではないのでしょう? 皆さんは別に、私達のシナリオに賭けてはいないみたいですよ」

 大井弘子は芝崎のほうを見やった。芝崎はぼんやりしたままである。

 「現に、今も間さんはサボタージュをしている。私としては、この仕事、もう降りてもいいと思っているのですよ」

 仕事を降りる。

 市原はまさか大井弘子がそのようなことを言い出すとは思っていなかったのだろう。ヒゲは相当慌てたようである。

 「いや、それは……困るというか。その、何とか穏便に……」

 ヒゲの男は懇願するようにして言った。それは嘲りを自ら招く態度であった。

 「困ってんのはこっちだっつーの」

 小娘は嫌な横目で中年男を眺める。

 「間さんも、私達には我慢がならないようですし。憎んでいる人の書いたシナリオやプロットに絵を描くというのも不快なことでしょう」

 大井弘子は言い、市原は慌てて言った。

 「いや、間のことは、もう、大丈夫です……」

 それは口からでまかせ。そんなことは小娘にも見抜かれている。

 「何がどう大丈夫なんですか?」

 大井弘子は詰問し、ひげのプロデューサーは自分では知らないうちに虎の尾を踏んだ。

 「間とも話し合いをしましたから……間は『おまえがそんなに言うんだったらやってやってもいい、と』」

 「……なんですって?」

 大井弘子の口から……恐ろしい声が漏れた。

 「今、何と仰いました?」

 「え、ええと……」

 雰囲気ががらりと変わった大井弘子に、市原は怯んでいる。

 「何と? 間さんは何と仰ったのですか?」

 「いや、ですから……『おまえがそんなに言うのであれば、やってやってもいいと……』」

 大井弘子は天を仰ぎ、沈黙する。

 「何か……問題があるのであれば、ボクがみんなを説得しますから……ですから、降りるのは、それは勘弁というか……時間ももうないですし」

 どこまでも市原は愚かであった。

 そして丸山花世は突然キレた!

 「おい、なんだ、その態度は!『やってやってもいい』だとッ?」

 妹は姉が何を思っているのか理解している。

 この世には許される発言と許されない発言があるのだ。

 「やってやってもいいだって? おいッ! てめー、何様のつもりだ! 間ッ! 出て来やがれ、このー!」

 小娘はテーブルを蹴り飛ばし、そのあまりの勢いに芝崎も呆然となった。

 「そうじゃねえだろ! 『オレも悪いところがあって、済まなかった! 心を入れ替えるから一緒にやってこう』っていうのがスジだろうが! それを、てめーなんだとーっ! 『やってやってもいい?』 てめー、どんだけ偉いんだよ!」

 間が言った『おまえ』が市原を指すのか、それとも、大井弘子たちを指すのかは分からないが、それはどうでもいいのだ。小娘が激昂しているのは自分が侮られたからではない。作品と作品についているエターの小さな女神、さらには物語を司る神さまを冒涜したからである。

 「なんだ、そのヒネた態度は! てめーは田舎のヤンキーかよ! おい、ちょっと、早く、間の馬鹿、呼べッ! ちんちくりんめ、目ん球抉り出してやる!」

 小娘は怒りが収まらない。そして、大爆発する丸山花世を見ている芝崎次郎は笑っている。楽しいからではない。恐怖しているのだ。

 「花世……」

 姉が言った。

 「花世、落ち着きなさい」

 「けれど……アネキ、おかしいよ、この会社の社員、みんな狂ってるって!」

 小娘は半泣きである。

「自分達育ててくれた作品を足蹴にして……食い物にして、てめーらみたいな実力のない人間、今まで威張ってこられたの、エターがあったからじゃねーか! それがなければただのチンカスも同然のクズの癖しやがって! 作品も支えきれず、会社も守りきれず、権利さらわれても何にも出来ずに、こそこそ逃げ回っていた奴らが、会社同士の手打ちになったら、小汚い歯見せて笑って『ボクちゃんのエター』だと? てめーら、いい加減にしろよっ! エターはてめーらのもんなんかじゃねえ! 作品の権利は会社のもので、作品はファンのもんだ! てめーらは作品、作らせて戴いている単なる下請けだろーが! はっきり言ってやらあ! 何がチーフグラフィックだ! てめーがいなくたって、作品回ってくんだよ! 原画もプロデューサーも同じ! てめーらいなくたって、作品は続いていくんだよ! お客が望む限り!」

 「それを、てめーら、自分がいなきゃ世の中まわってかねえみたいなこと言いやがって! 馬鹿じゃねーのか! 越田も間もいっぺん会社やめてみりゃいんだよ! てめーらの穴なんか若い奴がいくらでにも埋めらあッ! むしろ、うるせーだけ、金ばっかりかるロートルがいなくなりゃ、人件費も節約できるし、会社としては万々歳だっ!」

 芝崎も市原も小娘の激発が恐ろしくて反論ができない。彼らには、作品のために死ぬという気概がないのだ。

 「思いあがってんじゃねーぞ! 作品大事にできねー奴らがこの先生き残れるわけねーだろうが! だいたいパクリばっかりやってる塗り屋風情にシナリオの何が分かるんだよ! 分かってねえが、偉そうに外注を善導してやるってか! いい加減にしろよ、このタコッ!」

 あまりの剣幕。あまりの風圧。市原も芝崎も逃げ腰になっている。

 「おい、市原ッ! てめー、間の野郎、今、ここに呼べッ! 早く! あのクソ野郎に電話入れろ! 今すぐだ! 今すぐに戻ってくるように言え! 説得じゃない、命令だ! あいつがラーメン屋に飯食いに行ってんの、こっちも知ってんだよ!」

 小娘は机をがんがん拳で殴る。

 「い、いや、それは……」

 脅迫に市原は真っ青になった。

 「できねーのか? ああッ? できねーのかよ! てめー、エグゼクティブなんだろッ! ちげーのかッ?」 小娘は足を踏み鳴らし、テーブルの上に置かれてあった資料用の雑誌を手でなぎ払って咆哮する。

 「帰ってこないんだったら、解雇だ! 解雇しろ! 上司の命令にたてつく奴はクビだッ! 全員クビだ馬鹿ヤローッ!」

 台風のように小娘は暴れまくり……そして、妹がイキを切らせる頃に姉が言った。

 それは静かな宣言であった。

 「皆さんが生きることを私も、花世も、そして作品の神様も望んでいません。皆さんは……もう、生きることが許されないのです。もちろん、生物学的には皆さんの人生は続くでしょう。でも、クリエイターとしては……皆さんは殺害されなければいけないのです」

 死刑宣告、であった。

 「私達はエターのチームから外れます」

 

 夜が長くなっていく。

 冬に向かってる少しずつ季節は移ろっていく。

 夏服から冬服へ。

 小娘もいつの間にか制服を着替えている。

 品川駅。

 ヤクザな娘はぼんやりと空を見上げる。十六時の雑踏はどこか哀しい。見上げる空は深い群青色。それもすぐに朱鷺色に変わり、茜色。最後はワインレッドに染まるのだ。

 「行くか……」

 丸山花世は一人歩き始める。駅の東口。背の高いビルの間を縫って、行きなれたいつもの道。

 ブランセーバー本社ビル。すでにシナリオの納品は済んでいる。

 と。

 本社ビルそばにあるコンビニの前で小娘を呼び止める声があった。

 「やあ……どうしました?」

 見れば……変わった男が一人ぼんやりとしている。変わり者のプロデューサー。三神はチョコレートをほおばっている。

 「なんだ、また、あんた、さぼってんの?」

 口を歪めた丸山花世は……だが少しだけ元気がない。

 「栄養補給ですよ」

 三神は言った。

 「待ってました。そろそろ来る頃だろうと思っていましたし」

 「ああ、うん……アネキからメールいったっしょ?」

 「はい」

 ――納品したシナリオの請求書を妹に持って行かせます。

 姉はそのようなメールを三神に送り、そして小娘はそれにしたがってブランを訪れた。

 「行きましょう」

 三神はチョコレートを口にくわえたまま歩き出す。小娘は疲れたようにしてそれに続く。

 「聞きました。いろいろともめたようですね。16CCと」


姉妹はエターの作業から降りた。そのことはすでに三神にも伝えてある。細かいところまではつまびらかにしていないが……。

 「あまり気にしないほうがいいでしょう」

 「まあ、うん。そうなんだけれどさ……」

 丸山花世は思っている。

 あまりにも……ひどいスタッフ。低劣な人々。三十八年積み上げたその先にあるのが、あの体たらく。

 「……トラブルもさ。なかなか収束しなくて。結構、ひどい奴なんだよね、間もそうだけれど、市原が特に……」

 「何かありましたか?」

 小娘はため息をついた。

 「アネキさ、あとあとトラブルになるから、チームから外れるように確約書くれって市原に言ったのね」

 「確約書、ですか……」

 三神は軽く頷いた。

 「連中が何に考えてるのかしらんけれど……このままじゃ、何かトラブルになるんじゃないかって、それは私も思っていて……」

 「ブランと16CCの対決、ですか?」

 「……あんた、変な人だけれど、よく分かってんじゃんか」

 16CCとブランの手打ちはなった。だからエターの権利はブランから16CCに移った。ただ、これは永久に譲渡したというよりは、貸与に近い。両者の関係がこじれれば契約はあっという間に白紙に戻る。

 「アネキもそうだけれど、私も……ブランと16CCがまたエターをめぐって揉めるんじゃないかって、そんなことを予感してるんだよね。16CCは二期連続で赤字で。で、この前の中間期の発表でも大赤字で。出すゲームは全滅で。だから、あとあと揉めるの嫌だから、きちんと文書にして出してくれって」

 小娘はそのやりとりを知っている。実に不快なやりとり。

 「いくら言っても市原って、動かないのね。もう少し待ってくれとか、今忙しいからとか……」

 「……」

 「確約書ぐらい別に出したっていいじゃんか。でも、『そこまでするのは』とかトンチンカンなこと言いやがるのよ」

 小娘は疲労している。

 「なんかさ……ただ、紙一枚出すのにどんだけごねるんだってぐらいごねて。挙句の果てに、もう送りましたとか、嘘つきやがるし……」

 「頭の悪い男ですね」

 相手のことを思えば文書に残しておくほうがいい。それは自分のためでもある。だが市原はそうしない。理由は……丸山花世には分からない。形として自分の馬鹿さ加減が残ることが耐えられなれないのか。それとも……何かトラブルが起こることを市原も予期していて、その際に、大井姉妹を道連れにしてやろうと画策しているのか。

 ――オレだけでは死なない。まわりも道連れだ!

 だとすれば随分と業の深い男である。

 「それで、どうしました? 確約書……どうあっても、送ってこないのでしょう?」

 「ううん。大丈夫。ちゃんと手は打ったから」

 小娘は言った。

 「アネキさ、市原が不誠実なのもう分かってたからさ、だから、こっちで書面用意して、向こうに送ってやったんだ。そっちでサインして、はんこ押して戻してくれって」

 「でも、市原のことですから、言を左右にしてサインをしなかったのではないですか?」

 「あ、うん。それ分かってたからさ。だから、芝崎に送ったのね。確約書」

 「芝崎、ですか?」

 三神は一瞬不思議そうな顔を作った。そして彼がペテンに気がつくよりも先に小娘は言った。

 「市原さんはイベントで忙しくて、郵便局にいく暇もないでしょう、だから芝崎さん、あんた、市原さんからサイン貰って同封の封筒に書面入れて送り返してくれって」

 「……」

 「芝崎ってさ、市原のことが嫌いで、その地位を狙ってるわけじゃんか。そういう芝崎に、市原にダメージを与えられる場面を作ってやれば……」

 「当然乗ってきますね」

 「そうっしょ?」

 丸山花世は軽い口調で言った。

 「そしたら、すぐに書面返ってきた。多分、芝崎が市原を責め立てて、はんこ押させたんだと思うよ。サインの文字、震えてて、すげー汚かったし」

 小娘は言った。


 確約書

 

 大井弘子、丸山花世の両名(以下甲、乙とする)は16CC(以下丙とする)と次のような項目で合意した旨をここに記載する。

 

 ?甲、乙は十六CC製作中のプレイステーション2ソフト、エターナルラブ六の製作から無条件に外れる

 ?丙はその際、甲、乙が製作したプロット、シナリオの全てを破棄する

 以下略――

 

 「そんな書面に法的な根拠が本当にあるかっていうと……疑問なんだよね。でも、大事なのはそこじゃない」

 「……」

「大事なのは、向こうの会社で、理解されること……なんだよね。私らと市原だけの関係だと、あとで、市原っていう男は卑怯なクズだから、『そんな話は知らない』って言ってくると思うのね。仮に書面があったとしても偽造だとか……」

 「あの男なら言いますね」

 三神はどこか楽しげである。

 「だから……芝崎を噛ませておきたかった。書面の内容は当然芝崎も見る。で、間や越田も当然、書面の存在も内容も理解する――」

 「芝崎のことですから、喜んで回りに話すでしょうね。市原の不面目ですから……」

 三神は笑っている。同じ会社にいただけに状況が手に取るように察せられるのだろう。

 「で、そうなれば、何か問題が起こっても……」

 「確かに。社内ではこうなりますね。『あの二人は確かに確約書を取って外れている』と……」

 丸山花世はしてやったり……なはずなのだが、浮かない顔をしている。

 「……それは大井さんの策、ですか?」

 「うん。そ」

 「怖いお人だ……」

 三神は……どうも大井弘子の策に感動しているようである。

 「もっとも、市原も薄汚い奴でさ。知り合いのライターの話によると、うちらが作ったプロットとか、丸パクリのまま作業を進めているみたいなんだよね……」

 「……」

 「キャラの設定とか、作品の方向性。小道具……全部使いまわし。時間がないからとかいうことみたいだけれど……でも、そんなのおかしいよね」

 「大井さんは何と? 抗議はしないんですか?」

 「作品汚すの嫌だからって」

 「泣き寝入り、ですか……」

 「うん。でも……アネキには何か考えがあるみたいなんだけれどさ」

 歯噛みして悔しがる妹に比べると姉は恬淡としている。

 ――そういうこともある。

 そんな風情に悠然と構えているのだ。一方小娘は何時までも悔しがっている。 

 「プロットとかの事はいいとしてさ……アネキがそういうならば多分それで良いんだよ。アネキ、いろいろ知ってるからさ。業界のこととか作品のこと……私よりもずっといろいろ知ってる。経験が豊かだから」

 丸山花世は顔色が冴えない。

「それよりもさ……思うんだよね。もう少し頑張って……私らが我慢したらそれでよかったんじゃないかって。芝崎とか市原、あと、間とか本当に嫌な奴らでさ、間なんか今度あったらぶん殴ってやるって心に誓ってるんだけれど……」

 「作品のことを想う……ですか?」

 「……うん」

 エター。エターナルラブ。作品。

 「作品の神様は……エターについている女神様はさ、あんなにひどい扱いされてるのに健気なんだよね。とても健気に感じられるんだ……」

 小娘には作品の魂が肌で感じられる。それは普通の人間ではありえないこと。商品。ただの製品。工業製品には感情などない。ありえない不条理。けれど、丸山花世も、大井弘子も、確かにそれを知覚している。作品の神様の意思。

 「みんなさ、オレのエター、オレのエターってうるせーんだよ。でも、本当はあいつらは作品のことなんかひとっつも思っちゃいない。自分が目立ちたいだけ。自分が威張りたいだけ。自分が良い思いをしたいだけなんだ。だいたい、作品よりも目立とうとする裏方ってなんだよ、それ。馬鹿じゃねーの」

 あるいは雑誌で。あるいはブログで。芝崎たちは言いたい放題のでしゃばり。まさに見るに耐えない愚昧の暴走。

 「そんなにてめーが目立ちたいんだったら芸人にでもなりゃいいんだよ。仕事選べよ」

 風が少しだけ冷たい。

 「……みんなさ、オレのものオレのものって作品を戦利品みたいに扱って。ぼろぼろにして、ぐちゃぐちゃにして。でも、誰も作品のために涙を流さないんだよ。誰一人としてだよ」

 小娘は続ける。

 「私、アネキが仕事をおりた理由、よく分かるよ。もみくちゃにされた作品の中に飛び込んでいくのが……耐えられなかったんだよ。オレの女、オレの女って、みんなでエターっていう作品を引っ張り合って。みんなだよ。そういう争奪戦の中に割って入って、私のエターって主張するのが、哀しくなってしまったんだよ」

 三神は黙っている。

 「みんな独りよがりなんだよ。みんなそう。自分の子供をさ、私の子供私の子供ってみんなが喚いて引っ張り合って……本当の母親は、自分の子が苦しむ様は見たくないから、最後の最後に手を離してしまうんだよ」

 シナリオを提供している。

 全ては姉妹の手になるもの。

 だから、エターナル・ラブは間違いなく大井弘子の作品であり、丸山花世の作品である。それは誰が見てもそう。ただ、芝崎たちスタッフだけがそれを認めない。

 「大岡裁き……ですか」

 二人の母親。我が子を綱引きのように引っ張り合えば、本当の母親は慈愛から手を離してしまう……もっとも、昨今の母親はそういうものでもないか。 

 「うん。そう。アネキも私も女でさ……本当は生んであげたいって悔いる気持、あるんだよね。私もアネキも。だって、作品の神様に選ばれて私ら来たわけで。なのにこういうことになっちまってさ」

 「……」

 「悔しいし、哀しいし、情けないしで……」

 小娘はぼやいた。

 「物語の神様の信任をさ、私ら、失っちまったんじゃないかって……そんなこと、思うんだよね。でも……やっぱり、あいつらと一緒に仕事していくのは無理なんだよね。大岡越前がいてくれたらこんなことにはならなかったと思うんだけれど」

 「……」

 「アネキの決断……正しかったと思うよ。ほかに取るべき道なんかなかったはず。でもさ。考えるんだよね。ほかに方法、なかったのかって……」

 小娘は彼女にしては珍しく物憂い。そして三神は言った。

 「ブランのタイニーと、16CCの本家エター。車輪の両輪で。二つあわせてセットで一つの作品。小ざかしい仕掛けといえばそうなんだけれど、そういう変わった仕掛けがないともうエターってもたないんだよね。でも、それを芝崎たちは嫌った。自分達の思い通りに出来なくなるからね。自分達は本当にただの下っ端に成り下がってしまう……でも、会社潰したんだから、そんな扱いされるの当然なんだよね。わかってないのは本人だけで……」

 「……」

 「三神さん、あんだったら……どうする? 私らと同じような立場になったら。やっぱり唯々諾々として市原の言うことを聞いた?」

 小娘にしてはそれは珍しいこと。誰かに意見を求めるなどということは、丸山花世は普段はしないのだ。と。三神は言った。

 「さあ……どうなんですかね。私は、多分ですが、最初から市原の仕事を請けなかったと思います。あの男の低劣さはすでに知ってますしね。あとあと面倒になることはわかってますから」

 「……」

「でも……大井さんの気持はなんとなく分かりますよ。作品を作るのは楽しいばっかりじゃない。そういことをあなたに教えることができれば……それはきっと意義深いことでしょう。経験というものは何よりも大事ですし。だからあえて火中の栗を拾ったのでしょう」

 小娘は憂鬱な顔をした。エターナルラブという作品のこと。作品の前途を思っているのだ。

 「16CCって会社がどうなるかも分からないしさ」

 「そうですね」

 16CC、経営的に危険。

 そのことはすでに大井弘子は三神にも伝えている。

 「エターって作品、どうなっちゃうのかな。芝崎たちが苦しむのはむしろいい気味だけど、作品がみんなに笑われるような状況になるのはなあ……」

 丸山花世は言った。

 「……作品、いったい、どうなっちゃうんだろうか」

 小娘は口をつぐみ、そこで三神は応じた。

 「……向こうのエターがどうなるかは分かりませんが、私はそういう時に、こうすると思います」

 「?」

 「WCAから送られてきた水晶。あれを見ますね」

 「は?」

 小娘は怪訝な顔をしている。

 「あの水晶は……作り手が大きくなるたびに輝きを変えていくのです。それは、作品の神様がそこに触れて、場合によってはその中に逃げ込んでくるからだと言われています」

 「神様が……水晶球に逃げ込んでくる?」

 それは不可思議極まる話。

 物理的にはありえない与太話。けれど、三神は信じているのだ。そういうことがあると。

 「作品はいつか死にます。では、作品の魂はどこに行くのか。多くの場合は人の心に戻っていきます。人の心から生み出されたものは人の心に還るのです。ですが……」

 「ですが?」

 「まだもう少し、活躍したいと作品が思うのであれば、作品の魂は人の心に戻ることを拒否します。そして、信頼のできる作り手の傍らにあろうとするのです。WCAの水晶球はそのためのものなのです。そのための言ってみれば仮の宿。たくさんの作品に頼られる作り手が持つ水晶球はですから、輝きを変えていくのです。多くの魂が宿っていますからね」

 「でも、そんなこと、あんのかな……そんな馬鹿なこと……」

 小娘は震えている。そういうことがあると分かっているのに震えているのだ。

 「自分の水晶球、確認されてはいかがですか」

 「え、あ、う、うん……」

 いつも身につけているのに……いや、身につけているからこそ、その内部を伺わない。肌身離さず持っているフンコロガシのペンダント。小娘は慌ててそれを取り出して空にかざす。

 「あっ!」

 丸山花世は思わず叫んだ。

 まったく気がつかなかったことであるが……水晶には薄い水色の光点が宿っている!

 「あ、光ってる……昔、こんなのなかったのに……いや、でも、どうなんだ? ええ?」

 丸山花世はうろたえている。そういう表情も物書きヤクザには珍しいこと。

 「昔はこんな光の点、なかったのに……ああ、いや、気がつかなかっただけか?」

 「どれ……ああ、うん」

 三神は丸山花世の水晶を覗き込んで、それから穏やかに笑った。

 「ああ、それです。綺麗な青い光点ですね。いかもエターの魂らしい、清楚で健気な魂です」

 「え、これ、これそうなの?」

 「はい」

 三神は……嘘をついたのだろうか。傷心の小娘を勇気付けるために。もともとそのような水晶内のクラックは存在していたのではないか。そうでなければ、何かの拍子に傷が生まれて、それが乱反射で輝いているだけと説明できなくもない。むしろ、そう考えるのが自然。だが。WCAの会員はそういう合理的な考え方はしないのだ。

 ――それは間違いなく作品の魂です。

 条理ではなく情念。理屈ではなくて感情。感情と主観が優先される。

 「……エターという作品は、もう、市原たちを見捨てたのでしょう。もう、彼らの元には幸せはない。彼らは……作り手としての使命を終わらせたのです」

 三神は言った。

 「あなたは……言ってみれば、作品の魂の元に送られてきた最終便だったんですよ。これを逃せば作品の魂は永遠に回収されずに消えていく。あなたがたが大きな精神的な消耗に耐えながら、それでも作品を書き続けたのは、きっとそういうことなのです。とても意味のあること。作品の魂を連中の手からもぎ取ってくる……芝崎たちがお二人に攻撃的で非協力的だったのは、あの男も無意識に、あなた達の存在理由を察していたからかもしれませんね。あなた達は自分達から全ての幸福、存在理由を奪っていく存在だと」

 自分の栄光を、思い出を根こそぎ奪っていく。

 丸山花世は……大井弘子もそうだが借金取りのようなもの。

 「市原も芝崎も私が今話したことの意味を半分も理解できないでしょう。そして、死ぬまで理解できない。それこそが結局、本当に作品と向き合っている人間とそうでない人間の差なのでしょうね」

 「……」

 「エターという作品は……生きたいと思ったのでしょう。だから、最後の最後、あなたが書いたシナリオを伝わって、あなたの水晶に逃げ込んできた。まさに間一髪……といったところですか」

 三神の解説はとても愉快なものであった。

 「もう本家のエターには……魂はないです。魂がないですから、朽ちていくばかりです。でも、それでいいのです。作品の魂は回収されましたし。それがあればエターはいくらでも再建できる。希望は、未来につながったのです。大岡越前は……いるんですよ、きっと」

 三神は穏やかに笑った。そして、小娘は慰めに少しだけ希望を取り戻した。

 「そっか……そういう考え方もあんのか……」

 「いや。そういう考え方しかないのです」

 三神は楽しげであり、そして、丸山花世も頷いた。再建可能であれば、また最初からやればいいだけのこと。

 「丸山さん。行きましょう。見せたいものがあるのです」

 変わったプロデューサーそう誘った。

 「ともちかの原画、もうあがってきています。とてもいいものばかりです。それをごらんに入れます」

 「え、もう、できてんの?」

 「妙に気合が入ってるんですよ。魂が戻ってきたからでしょう。きっとタイニーはいい作品になりますよ」

 三神は披露した小娘を励ました。けだし……人は一人で生きているのではない。いつも誰かに支えられているのだ。支えているのは人だけではない。目に見えないもの。小さな神様でこの世はあふれている。そして、丸山花世は、そういう小さな意思にかなりアピールする性質であるらしい……。

 「行きましょう」

 三神は言い、小娘は頷いた。

 「ああ、うん。分かった」

 「次の作品も、製作しましょう。もう決めてるんですよ」

 三神は楽しげであった。小娘も吹っ切れたように歩き始める。

 「ちょっと気が早えんじゃねーの?」

 

 一方……。

 丸山花世も大井弘子もそれは知らないこと。

 恵比寿にある16CCは、暗闇に包まれていた。

 まさに暗雲。五里霧中。真夜中の暗さ、と言うべきか――。

 「……」

 会議室に集まった男達は暗い顔をつき合わせている。

 青い鳥は逃げていってしまった。逃げていってしまったのだ。もっとも、そのことの本当の意味を知っているものはいない。

 「……シナリオは、なんとかなった」

 市原は言った。不始末の元凶は芝崎の愚かしい対抗心――否。そうではなくて、エターはキンダーガーデンが破産したときにすでに死んでいたのだ。

 「八方、手を尽くして……シナリオは何とかなる……。

 大井姉妹がいなくなってから、市原は、知り合いのライターに頼み込んで、なんとか都合をつけた。

 「エターの五と同じスタッフをかき集めて……」

 市原は僅かに憔悴している。一方、芝崎も越田も間も何も言わない。この愚かな連中は自分に少しでも落ち度があったのではないかというような事を考えないのだ。

 自分は絶対。

 自分は正義。

 自分はエター。

 間などは、大井弘子か断腸の思いで作業を降りたことをあざ笑っていたのだ。

 ――オレの威光をもってすれば、外注追い出すことぐらい簡単なことよ。

 間は自分が勝利したと信じて疑わない。作品がこれからどうなるかというようなことは間にとってはどうでもいいこと。まさに、禽獣のような近視眼。

 「だから……最初から言ったんだよ。あんなわけのわかんねー連中使うのなんて反対だってよ」

 間は憎憎しげに口を歪ませて言った。

 「最初から、五のライター使っときゃ良かったんだよ」

 責任は……市原にある。勝手に、おかしな奴らを呼び込んだ無能なエグゼクティブ・プロデューサー。市原が苦しむことは間にとっては何よりも快感であるのだ。

 「……」

 市原はむっとなっている。だが……反論のしようもない。市原には、間を下ろして別の人間を立てるという決断ができないのだ。ほかのグラフィッカーを呼ぶ。それだけのことができない。なめられっぱなしの役員。間はどこまでも増長していく。

 「生意気なことばかり言いやがって。あいつらムカツクんだよ! 消えてせいせいしたぜ」

 間は口が多い。

 「まあ、あとは俺たちでなんとかすればいいやな」

 越田も、当面の敵が排除されたことを喜んでいる。自分達の作業が増えるということは……そのことは今は考えるべきではあるまい。

 「使ってもらいたい声優がいるんだよ」

 越田は自分の趣味を押し通そうとしている。作品はもう完成したも同然。

 すべて昨日のまま。昨日のまま。

 だが。

 なまっちろいプロデューサーがぽつりと言った。

 「五万……だよな……」

 芝崎の呟きに男達は沈黙する。

 「五万本」

 芝崎はもう一度呟いた。

 上からの指示。

 利益がまったく出ていない16CCに対する親会社からの指示。

 ――最低でも五万本は売るように。そうでなければ、16CCのゲーム事業部は決算期末をもって清算処分とする。

 NRTはそのような決定を下しているという。

 五万本売れなければ組織はなくなる。

 間たちにとっては二度目のリストラということになる。

 二度目のリストラ。ダブルクビ。

 「……とにかく頑張るしかない。今あるシナリオをできるだけ利用して……」

 市原は言った。薄汚いシャブ中はどこまでもやることが汚い。

 「確約書は……どうすんだよ」

 越田が言った。市原と大井姉妹の間に取り交わされた覚書。それは法的根拠を持つのだ。

 「……それは、無視するしかない」

 「……」

 男達は一蓮托生。共犯。

 「何か言ってきたら、適当にごまかせばいい。それはなんとかする。向こうは女だし、こっちは組織だ。個人に会社が勝てるわけがない……」

 市原は非情な決断をしている自分に酔っているのかもしれない。あるいは、自分が矢面に立てば大井姉妹などいくらでも説得できる、言い逃れができると自惚れているのか。 だが――市原は見誤っているのだ。彼が相対しているのは個人としての大井弘子ではないし、丸山花世ではない。その後ろにいる作品の神様。市原は作品の神様につばを吐いているのだ。そして、作品の神様に憎まれたものは破滅するしかないのだ。

 と。

 「……五万本は……無理だ」

 芝崎が呻くようにして言った。

 「頑張っても……頑張っても、無理だ……」

 芝崎の言葉に男達は沈黙した。誰も何も言わない。

 間も越田も、腕組みをするばかり。

 「無理なんだ……もう、なくなってしまったんだ……」

 何かが……何かがなくなった。なくなってしまったことに男達はようやく気がついたのだ。

だが……何がなくなったのか、男達には理解できない。何かとても大事なものが……それがなければどうしようもない何かがいつの間にか欠けてしまった。それでも、彼らは進まなければならない。親会社の命令であるのだから。

 沈んだ太陽はいったい何時昇るのだろうか。あるいはもう二度と昇らないのか。


 

 補記 16CC ゲーム部門 セールス

 

 レゲエガール 二千本

 電流魔術詩 四千本

 パンプキンアイ 六千三百本

 あまからポテチ 三千五百本

 エターナル・ラブ六 七千七百本

 

 黒字となった作品、無し。

 丸山花世たちの予測に反して16CC gameは清算を免れる。だが……それだけのことであった翌年初めに親会社のNRTがまさかの倒産。16CCも連鎖倒産となる。

 当然のことであるが市原をはじめ芝崎、間、越田、松木といった社員は全員解雇。

 16CCでエターナルラブが再び作られる夢は費えた。

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むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編 黄支亮 @20890

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