里緒奈、コックリさんに質問する。

 恭介はアイアンクローが食い込んだ頬の様子を手で触れて確認する。

 まだ爪が食い込んだ部分に痛みは残ってはいるが、出血まではしていない様子であった。


 何かひどい目にあったものの、分かったことがあった。

 それはこの一週間以内に里緒奈が確実にオナニーをしているであろうということだ。

 里緒奈にオナニーの回数を訊こうとしたら慌ててそれを回避したからだ。もししていなければあそこまで慌てる必要はなかったはず。よって里緒奈はオナニーをしている。そうに違いない。


 そしてうまく問い詰めれば、初めて里緒奈に対して優位に立てるような気もしたが、よくよく考えて見れば今の里緒奈は味方。わざわざ敵に回すような真似はすべきではなかった。

 一人シュッポッポの回数がバレたのは痛かったが、色葉に対しては、もう里緒奈に頼るしかない状況であったのだ。


「コックリさんの効果、よくわかったわ……これがあれば例えば犯罪者とか殺人事件の容疑者を絞るのも簡単そうだし、そちらの方でお金儲けもできるんじゃないかしらね?」


 コックリさんの効果を肌で実感した里緒奈が清音に訊いた。


「……それはなかなか……コンちゃんは思念を読み取ることができるだけで証拠にはできませんから」


 例えばAがおもちゃのナイフでBを刺し、Bが死んだ振りをする。その後Aに真実を伝えぬままBをCが刺し殺す。


 この状況でAにコックリさんに問い掛けたなら、Aの思考を読み取ったコックリさんはAが犯人であると誤答してしまうのである。


「なる……ほど……真実を導き出すのではなく、思考を読み取った人間の真実を導きだすということね?」


「……はい、今のコンちゃんにはその程度の能力しかありません。これはあくまでも占いですから」


「わかったわ、神田さん。それじゃあ色葉? 当初の目的通り、恭介くんに詰問タイムといくわよ?」


「あっ……お姉ちゃん、その前に清音さんを……」


 清音は色葉に言われるとハッとして、


「ご、ごめんなさい、色葉さん。ちょっと……圧倒されちゃって忘れていたわ。コックリさんの内容は聞かれたくなかったんだっけ? とりあえず部屋の外で待機してるね?」


 どうやらそういう取り決めであったらしい。


「神田さん、向いの部屋を使って寛いでもらって構わないわ」


 里緒奈は部屋を出て行こうとした清音にそう声を掛けた。


「はい、ありがとうございます」


 清音は里緒奈に頭を下げるとドアをパタンと静かに閉めて、どうやら言われた通りに向いの部屋に待機するため移ったらしかった。


「さて、神田さんもわたしたちの会話が届かない場所まで移動したことだし、コックリさんにて恭介くんが九条さんとどこまでしたか白日の下に晒すわけだけど……質問はわたしからするけどいいかしら、色葉?」


「えっ? お姉ちゃんが……?」


「ええ、色葉だとコックリさんが指し示す答え次第では、また幼児退行しかねないでしょう? そうなるとコックリさんが閉められないじゃない?」


「べ、別に今回はそんなことにならないと思う……けど、じゃ、じゃあお姉ちゃんに頼むね」


「そうして。恭介くんに訊きたい質問は九条さんとエッチをしたか……エッチはしてなくともキスくらいまでいったか確かめたいということでいいのよね?」


「う。うん……」


 里緒奈は静かに頷くと、恭介に向き直り、


「恭介くん? 準備はいいわね?」


 と、訊いてきた。


「え、ええ……」


 緊張にごくりと息を呑み込む恭介である。

 準備といってもコンちゃんに嘘は通じない。


 パイルダーオンはしていないが、ベロチューはした。それが真実だ。ここまできて逃げたら両方したと誤解されるだけ。後は里緒奈に上手く取り繕ってもらうことを期待するしかない。


「じゃあ、始めるわね?」


 二人に最終確認し、里緒奈はコンちゃんに問い掛ける。


「コックリさん、わたしの質問にお答えください。恭介くんは九条結愛さんとエッチをしましたか? もししているようでしたら『はい』にお進みください」


 コンちゃんは問われ、恭介の思考を読み取り十円玉は動き始める。

 無論、到達した場所は『いいえ』の文字の上であった。


 里緒奈はその結果に頷き、


「鳥居の位置までお戻りください」


 十円玉を所定の位置にまで戻し、再び問い掛ける姿勢となる。

 恭介は固唾を呑んでそれを見守る。


 恭介が結愛とキスをしていることがバレたらどんな態度を取るか?

 いや、既に色葉は覚悟しているようだし、問題ないはず。後は里緒奈のフォローに期待して……


 そして里緒奈の口が開かれる。


「コックリさん、わたしの質問にお答えください。恭介くんはファーストキスを九条結愛さんとしましたか?」


「!」


「――もししているようでしたら『はい』にお進みください」


 コンちゃんは問われ、恭介の思考を読み取り十円玉は動き始める。

 無論、到達した場所は『いいえ』の文字の上であった。


「えっ? あ、あ……れ……? そ、そう……なの? 恭ちゃん?」


「は、ははっ……」


 恭介は作り笑いを浮かべつつ、


「だ、だから……はじめからそう言ったろ?」


 色葉を騙す形になるのは正直心苦しい部分もあるが、これは色葉のための優しい嘘。


 恭介は、質問をした里緒奈と答えを出したコンちゃんにおもくそ乗っかることにしたのだった。

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