恭介、コックリさんをする。
「うち……天狐神社では、コックリさんの主張サービスをしているんです」
コックリさんは狐狗狸さんと書き、文字からも分かるように、狐等の低級霊を呼び出してお告げを聞く占い方の一つである。
清音曰く、コックリさんは正しくやらないとコックリさんは呼べず、また下手に執り行うとコックリさんに憑かれてしまうこともあり、天狐神社で有料にて、コックリさんの主張サービスを開始したのだということらしかった。
「ごめんなさい、天狐神社の神田さんだっけ? わたし、オカルトとかは胡散臭くてあまり信用していないのだけど?」
「それが普通だと思いますよ。とりあえずお姉さんから試して見ますか?」
清音はそう言うと、パチンと十円玉を用紙の中心に置いた。
その瞬間である。
清音の背後より、ひょこっと一匹の狐が顔を出した。
「をっ! キツネ……!」
声を出して驚く恭介に不思議そうな顔をする色葉と里緒奈。
「どうしたの、恭介くん?」
「いや、リオ姉? キツネが部屋ん中に……!」
「あ、瀬奈君? それうちの霊獣のコンちゃんだけどそっちの二人には視えてないと思うよ」
「えっ? マジで?」
色葉は小首を傾げつつ、
「恭ちゃん? そこに何かいるの?」
「うん。霊獣っていうの? キツネみたいのが……」
「瀬奈君はそういうのが視える質みたいだからね? ネタ晴らしすると、今日のコックリさんがそこのコンちゃんだよ?」
本来のコックリさんは、近くにいる低級霊を呼び出すわけだが、それだと危険が伴う場合があり、コンちゃんを連れてきたとのこと。
「ただコンちゃんの能力はさほど強くないから、この部屋くらいの範囲以内にいる人間の知っている以上の答えは出せないからよろしくね」
清音曰く、コンちゃんは人の思念を読み取り、答えを導き出すことしかできないらしい。
色葉に多人数でやれば答えの精度が上がると説明したのはそのためとのこと。
「そう……そこに何かいるわけね? その霊獣とやらがわたしたちの心を読み取り嘘発見器の役割を果たす……あなたたちの言っていることが本当であればそういうことよね?」
里緒奈はコンちゃんの存在を疑っているのか、訝し気な表情で言って、
「いいわ。一つ質問させてもらって、正解がでれば信じましょう。よろしいかしら、巫女さん?」
「はい、構いませんよ? それじゃあ、え~っと、テーブルを囲んで座ってもらっていいですか?」
「待って。わたしは参加しないわ? わたしはわたしだけが知っている質問をするわ。けど答えを知っているわたしが参加したら無意識に答えを導き出してしまうかもしれないでしょ?」
コックリさんは十円玉を動かしお告げを聞く占い法。
質問をする里緒奈は自身が参加することで、無意識に正答に導いてしまうことを懸念しているらしかった。
「わかりました。じゃあお姉さんは後ろで見ていてもらうことにして、瀬奈君と色葉さん……じゃあ色葉さんが音頭を取ってもらうってことで、このメモ用紙に書いてある手順と文言でやっみて」
「はい。これ……ですね?」
色葉は清音から受け取ったメモ用紙に目を通してから、
「お姉ちゃん? 質問って何?」
「あ、そうだったわね……」
と、そんなやり取りがなされ、色葉の方の準備が整うと、コックリさんを執り行うこととなる。
鳥居と文字等が書き込まれた用紙が置かれたテーブルに対し、向き合って座る恭介と色葉。
背後で見守る里緒奈と清音、そしてコンちゃん。
「恭ちゃん……十円玉に指置いて」
色葉に従い、恭介は人差し指を色葉と一緒に十円玉の上に置いた。
「それじゃあ始めるね?」
色葉は一息ついてから、
「コックリさん、コックリさん、おいでください。もしおいででしたら『はい』にお進みくださいな」
と、コンちゃんに力を貸してくれるよう語り掛ける。
コンちゃんはあまり乗り気でないように恭介には見えたが……
「ををっ……」
十円玉が力も入れてないのにぐぐぐっと動き始め、『はい』の文字の上で止まった。
色葉が無理やり動かしているのでないとしたら、コンちゃんが動かしたこととなる。
「それではコックリさん、わたしの質問にお答えください。お姉ちゃん……じゃなくて、志田里緒奈が今日、最もイラついた生徒の名前をお教えください」
「何ちゅう質問だよ……」
と、呆れ顔で口の中で呟く恭介。
しかし恭介も色葉も答えを知らないという点では正しいといえば正しいかもしれない。
そして十円玉に指を乗せているだけの恭介だったが、十円玉に引っ張られるように指がすすすっと動き出して――
「な……か……の……さ……え……こ……ナカノサエコさん? ナカノサエコさんでいいの、お姉ちゃん?」
「ええ、大したものね」
里緒奈は少し驚いた様子で言って、
「ただもう一つ確認したことがあるから、次はわたしも混ぜてもらうわ」
と、恭介の隣に座った。
色葉は「鳥居の位置までお戻りください」と十円玉を鳥居に戻してから、
「お姉ちゃん、もう一つ確認したいことって?」
「ええ、今度はわたしに質問させて。色葉がさっきやった手順でやればいいのでしょ? その前に恭介くん、訊きたいことがあるのだけどいいかしら?」
「へっ? 何すか?」
「今週したマスターベーションの回数を教えて」
「ちょ……なん……で? そんなん今、どうでもいいっしょ?」
突拍子もない質問をいきなりされてどぎまぎとなる恭介。
「週に五回くらい?」
「ま、まさか……そんな頻度では……普通っすよ……ごく一般的な回数しかしてませんから!」
「へぇ~、で、普通の男子学生は週に何回なのかしら?」
「はっ? さ、さあ……? 二……三……か……い……とか?」
と、無難な答えを探るように恭介は言った。
「なるほど……普通は二、三回なのね」
里緒奈はそれに納得するように頷くと、
「それじゃあ二つ目の質問をするわよ? そのメモ念のため見せて、色葉?」
「ああ……はい、お姉ちゃん」
里緒奈は受け取ったメモに目を落し、恭介と色葉と同様に人差し指を十円玉に置いて、
「コックリさん、わたしの質問にお答えください。恭介くんのここ一週間におけるマスターベーションの回数をお教えください」
「ちょ……リオ姉! 何を……!」
そして十円玉の上に置いた人差し指がずずずっと動き出したのを感じる。
「ぐっ……」
抵抗して十円玉を操作しようにも、意思とは無関係に真っ直ぐとその漢数字の許に向かい、
「……あっ……」
ピタッ止まった。
「……八回……? 一日一回+休日で暇だとついつい……って感じかしら?」
「そ、そんな解説はいいですから……!」
「とにかくこれで自分の意志では十円玉を操れないのがわかったわ」
「なっ! そ、そんなこと確かめるためにわざわざ俺に恥か掻かせたんすか!」
とんだ赤っ恥である。
「あら、恥ずかしがることはないわよ、恭介くん。男子学生は回数を過少申告するって統計が出てるから恭介くんも御多分に洩れず、普通の男の子だっただけだから」
恭介は「くっ」と歯噛みして、清音をチラッと見やった。
いつもにこにことした明るい笑顔の印象が強い彼女の顔が引き攣り、明らかにドン引きしているのが見て取れた。
色葉の前ならまだしも、部外者の前ではさすがにひどいんじゃないかなと思った。
「……り、リオ姉? 俺も試しにコックリさんに質問してみていいですか? つーかします」
と、恭介は黒い表情で宣言した。
「恭介くんも? 好きにしたら?」
「じゃ、じゃあ……」
恭介はコホンと咳払いをし、一つ間を開けてから、
「コックリさん、俺の質問にもお答えください。ここにいるリオ姉がこの一週間でしたオナニーの回数をおしえ、でびゃっ!」
途端、口元に里緒奈の左手が覆い被さり、ガッと頬に爪が食い込んでいく。
「いい度胸しているじゃないの、恭介くん?」
里緒奈のぞっとするような視線に恭介は背筋を凍らせて、
「……ず、ずびばぜんでじた。も、もうじまぜん」
里緒奈は蔑むように暫し恭介を見詰め続けてから、
「まあ、いいわ……」
と、アイアイクローを解除したのだった。
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