恭介、問い詰められる。
「う~む」
恭介は帰宅後、学習机の上に置かれた成人用の紙オムツと真剣な表情で睨めっこしていた。
次のデートでオムツを穿いてくとチューしてもいいらしいが、さすがにオムツを穿くという行為に抵抗を感じていた。
しかし結愛は恭介とのペアルックを楽しみにしていたのにそれに応えてやらないのは、彼氏としてどうか? それに、だ。オムツは既に購入済み。つまり穿いていかないのは逆に申し訳ないし勿体ないではないか?
別にキスがしたいとかそういう訳でなく、せっかく買った訳だし、穿くということでよろしいのではないか?
結果、キスされちゃったら、まあ仕方ない。
「うむ、パンツとそう変わらんしな……」
ちょっとごわごわしそうだが、穿いてしまえばそう違和感なく過ごせるだろう。
別に穿いて用を足せとは言われていないし、キスさえできれば……
いや、キスがしたいから迷っているとかではなく、あくまでも彼氏としての役目をきっちり果たしたいからである。
とにかく恭介は、ギリギリまでその結論を先延ばしにすることにし、紙オムツを学習机の引き出しにしまって鍵を掛け、封印することにした。
タンスに隠しても色葉に漁られる可能性があり、鍵のかかる引き出しに収納するしかなかったのだ。
というかいずれどうしても隠さなくてはならないような代物ができた際はどうしたものか、ちょっと大き目の金庫でも購入した方がよいのかもしれないと恭介は考えていると、ガラガラッと窓が開かれる音が聞こえてきた。
「んっ?」
ちょいと顔を横に向けて見ると、やはりというべきか当然のごとくに色葉だった。
「恭ちゃん……? 今いい?」
どこか神妙な顔付きで訊いてきた。
恭介のベッドに「よいしょ」と腰を下ろしたいつもとは雰囲気の違う色葉を目で追いつつ、
「構わんけど……どうかした?」
と、訊いた。
「うん、あのね、恭ちゃんにお願いしたいことがあって……」
頬を紅潮させた色葉は、もじもじとしつつ、
「色葉におちんちんして欲しいかなって思って……だ、ダメだったりする?」
目をパチクリとさせる恭介。
「んーとさ、色葉? おちん――って、何ぞ?」
「おちんちんはおちんちんだよ? 恭ちゃんのおちんちんを色葉におちんちんして欲しいなって」
色葉の言ってることを恭介は大筋ではあるが理解して、
「つまり子供ができるようなことってこと……だよな? それはまあ早すぎるつーか……さすがにそういう雰囲気になってもないのにいきなり言われてもだ……な?」
「じゃ、じゃあ……」
色葉はぐいっと身を乗り出して、
「先っちょ! 先っちょだけでいいから!」
その勢いに圧倒され、引き気味になる恭介。
「お、おい……落ち着け。何を口走ってるんだ、おまいは……?」
「だ、だって……」
その瞬間、色葉の右頬にツーと一筋の涙が伝う。
「えっ! 何? 何で泣いてんの?」
色葉の涙にあたふたとなる恭介。
「恭ちゃんひどいよ……」
「だ、だから何が、よ!」
「いつも結愛さんばっかり見てて色葉のこと見てくれないじゃん?」
「そ、そんなことないって!」
「じゃあ色葉にもおちんちんしてよ?」
「だ、だからどうしてそうなる?」
「だって結愛さんにはおちんちんしてるんでしょ? だったら彼女として対等に扱ってよ!」
「な、何のこっちゃ? んなことしてねーよ。どうしてそんなことになるんだよ?」
「わたし知ってるんだよ? 恭ちゃんさ、今日、結愛さんと帰りにドラッグストアに寄ってたんでしょ?」
「へっ? あ、ああ……それが何だよ?」
どこでそんな情報を仕入れたのか、そしてどうしてそれがこんな展開に繋がるのか、恭介は先を促すため訊き返した。
「うん、帰りにね、千代さんのお母さんにばったり会ってお話したんだけどね、恭ちゃん、結愛さんが避妊具買おうとしたのを拒否して結愛さんを着床させたんだって? だからわたしにも着床させて対等にさせて?」
「ちょ……を、をいっ! どうしたらそんな話になる! ちゃ、着床って!」
と、尾ひれ背びれのつきまくった噂話に震撼する恭介。
まさかあの場に中学の時の同級生であった藤野千代の母親がいようとは。
しかしどういう経緯で結愛が妊娠しているという話になっているのだろか、というかそんな変な噂が、主婦力の伝達能力によりこのままご近所様に広がってしまうのだろうか?
「……違うの? 恭ちゃんたちこれから生まれてくる赤ちゃんのためにオムツまで買ってたんでしょ?」
凄まじく歪曲されとる。
「そ、それは違くて、だな……」
恭介は慌てて先ほど引き出しにしまい込んだ紙オムツを取り出して、
「こんなでっかい紙オムツする赤ちゃんいると思うか? 買ったのは成人用だ! 成人用!」
「成人用? じゃ、じゃあ……結愛さんが着床したっていうのは?」
「す、するわけねーだろ、何もしてねーんだから」
「何も? 恭ちゃん、結愛さんにおちんちんしたんじゃないの? 恭ちゃんのおちんちんを結愛さんにおちんちんしてないの?」
「う、うむ……お前が思ってるようなことは何もしてないよ。つーか、おちんちんおちんちんうるさいって」
「ほ、本当に……してないの?」
と、疑いの眼差しで色葉。
「ああ、断言する。何もしてない」
「じゃあ、恭ちゃんのおちんちんにキスさせてよ」
「はっ? い、嫌だよ、何だよ、それ!」
「やっぱり拒むんだ。結愛さんはよくて色葉はダメなんだ?」
「いや、普通拒むよね? そんなの拒むよね?」
「でも……結愛さんとはもうキスはしてるんでしょ?」
「えっ?」
「どうしたの、恭ちゃん? 色葉に断りなく、ファーストキスを済ませてないよね?」
自身の目を真っ直ぐに見詰めてくる色葉に動揺し、ちょっとばかし視線を泳がせつつ、
「お、おう……まだしてない……んじゃないかな?」
「…………」
「…………」
若干挙動不審な返答をしてしまったような気がしてならず、冷や汗が止まらない。
そうして暫しの沈黙の後、色葉がにこっと笑って、
「わかった。恭ちゃんの言うこと、全面的に信じる」
「えっ? ま、マジで……!」
と、色葉の答えに驚きの声音を上げる恭介。
「恭ちゃん? 何で吃驚してるの? やっぱり嘘吐いてたの?」
「あ、いや……そうじゃないよ、うん。そうじゃ……ない」
もう少し疑って来ると思ったので気が抜けてしまったらしい。
とにかく色葉の追及はこれで終わったらしく、ホッと一安心の恭介である。
とはいえ恭介には、まだ気になることがあった。
「つーか、色葉? 藤野の母ちゃん、俺と九条結愛の変な噂話広めてるのか? だったら藤野に連絡とって止めさせないとヤバい気がするんだけどよ?」
「ああ、うん。それなら心配しないでいいよ。別にドラッグストアで恭ちゃんたちって認識したわけじゃないから」
色葉曰く、藤野・母は恭介と結愛の二人を娘の中学時代の同級生と認識した上で色葉に話したのではなく、話を聞いた色葉がその学生カップルの特徴から恭介と結愛を想像し、恭介に確かめに来たとのことであった。
「な、な~んだ、それじゃあ俺らの話が広まってるわけじゃないのな? 心配して損したわ」
今度こそ、完全に胸を撫で下ろす恭介であった。
「ところで恭ちゃん? わたしも気になることもう一つあるんだけど……訊いていい?」
「おう、何だ? 何でも答えるぞ」
心配事が払拭されて気をよくし、ちょっと大きく出てみた恭介である。
「そ? じゃあ訊くけど……そのオムツどうするの?」
「えっ? あっ……」
固まる恭介。
言い訳に必死になりすぎ、オムツのことはすっこり忘れていた恭介であった。
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