QB

 櫻子は、自身より竜の苗を多く保有し、魔力値の高い難敵、志田里緒奈を占い師に化けることで拘束することに成功した。


 卑怯だとは思うが、勝利のためなら致し方なし。


「悪く思わないでね。こっちもなりふり構っていられなくてね」


 櫻子は懺悔しつつ、竜座の魔法少女候補生、唯一の攻撃魔法を解き放つ。


「竜の牙!」


 勝った。


 無防備の相手に多少の後ろめたさは残るものの、それはすべて有紀のためと割り切るしかなかった。


「あなたの願い、神様に届くことを祈るわ」


 そして解き放たれた魔力の牙は、里緒奈に着弾して――


「!」


 パキンッ!


 寸前、里緒奈に掛けた手錠が砕け散った。


「竜の牙っ!」


 そしていつの間にか握られていた教鞭型の魔法のステッキが振るわれる。


「そん……な……いつの間に変身を……?」


 櫻子の〈竜の牙〉を相殺した里緒奈は、変身しているはずであるのに、衣装はスーツ姿のままであった。


 というか、手錠のままではコンパクト等の変身アイテムを取り出す暇はなかったはずで……


「不思議に思っているようね? 変身は元よりしていただけよ?」


 櫻子の疑問を察してか、里緒奈が答えるように言った。


「まさか……ば、ばれていたというの……?」


「そういうわけじゃないわ。常に変身しているよう忠告を受けていただけよ。手錠を使って魔法少女の寝込みを襲うような不埒な真似をする輩がいると聞いていてね」


 里緒奈が櫻子の行いを蔑むように言った。


「そ、それ……わたしじゃないんだけどね……」


 この手法を使ったのは今回初であるから、忠告を受けたとしたらあの婦警さんにぶつかった時のためのものと思われた。

 まあ、実際に櫻子も同じ手法を取ったのだから言い訳にならなかったが。


 しかし誰が里緒奈にその忠告をしたのだろうか……?


「事前情報がなければあなたが勝ちだったわ……」


 里緒奈は櫻子にそう言ってから、背後を見やり、


「助かったわ、QB……あなたのおかげよ」


「どういたしまして、リオナ……」


「えっ?」


 この断絶空間には、自身の他には恭介と里緒奈以外には誰もいないはずであるが、その誰でもない第三者の声が聞こえてきたのである。


「なっ!」


 里緒奈の背後より、トコトコと現れた白いもふもふに、ハッとなる櫻子。


 現れたのは尻尾のもふもふが激しい白い子狐――櫻子を魔法少女に誘ってくれたお狐様であったのである。


「ををっ! 今喋ったのその白い狐かよ?」


 と、後ろから驚きの声を上げる恭介。


「ああ、そうだよ、キョーコ……」


 里緒奈にQBと呼ばれた子狐が、驚く恭介に向かって言った。


「で、でも……口が動いて……どうなってんだ?」


 確かにQBは口元を動かさず、声だけをどこからか発しているように見えた。


「ああ、本当に喋っているわけじゃなく、ボクの存在を認識できるキミらにだけ聞こえるように直接脳内に語り掛けているからね」


 もしかして本体は別にあって、誰かが操っていたりするのだろうか?


 とにかく櫻子は、気にかかることがあったのでQBに訊くことにした。


「お……お狐様は彼女に味方するのですか?」


 どう見てもお狐様は里緒奈と繋がっているように見え、それが引っ掛かったのだ。


「う~ん。味方とは少し違うかな? ボクは強い魔法少女を生み出したいだけだからね。リオナが竜座の魔法少女候補生の中で誰よりも乙女でピュアであるから最も魔法少女に相応しく、こういった卑怯な手で敗れて欲しくないと思っただけさ」


 そういった理由でも手心を加えているわけだから、味方していると言っていいだろう。現に、櫻子や他の魔法少女候補生たちがあの婦警さんの餌食になろうと、何の助言も得られなかったのだから。


「お、お狐様はまだそちらの彼女に加担するおつもりですか?」


 と、櫻子は険しい顔つきでQBに訊いた。

 もしそうなると、勝ち目がかなり薄くなる。


「それはないわ」


 答えたのはQBではなく里緒奈の方で、


「後はどちらかが強いかで決着をつけるだけよ?」


「そういうことになるね。ボクは中立の立場だから、これ以上は何もしないよ」


「だ、だったら……いいけど……」


 こちらの秘策である恭介のことまでばらされてしまったら、それこそ勝ち目がなくなってしまう。


「それじゃあリオナ……頑張ってね?」


「ええ、QB……必ず勝って見せるわ」


 自信満々に言う里緒奈。


「ああ、期待しているよ、リオナ……」


 そう言い残すとQBは、その姿を霧のように掻き消したのだった。


 これ以上勝負には加担しないが応援しているのは彼女の方であるのはやはり間違いないようだった。


 おそらくそれは、彼女の方がより魔法少女としての素養があるからなのだろう。QBの言葉からはそう読み取ることができた。


「さあ……始めましょうか?」


 里緒奈は衣服を消し飛ばして、


「セクシーランジェリーの装!」


 溢れるは魔力と色気。艶めかしい肉体が、セクシーなランジェリーに包み込まれていた。


 櫻子よりずっとエロスを醸し出しているのが、恭介の反応からも窺えた。

 しかし今はそんなことに対抗意識を燃やしている場合ではなかった。


 おそらくセクシーランジェリーの装では勝ち目はない。


 こちらは始めっから全力でいくしかなかった。


「……ぱ、パージ!」


 櫻子は顔を真っ赤にして衣装を一気に脱ぎ捨てる。


「――っ、ば、絆創膏の装!」


 いきなりの最終恥装である。


 恭介の前でこの姿になるのは初であった。

 今までの相手であれば、セクシーランジェリーの装で十分事足りたが、里緒奈相手では火力に劣り、この選択に至ったのである。


 とにかくこんな格好で男性である恭介の前で長くいられない。


 とっとと片を付けるのみ。


「――竜の牙!」


 最初から出し惜しみなしの全開の〈竜の牙〉を放ち、地面を蹴り上げる。


「ふんっ……その距離からじゃ、当たらないわよ」


 難なく横に跳び、回避する里緒奈。

 その間に一気に距離を詰めた櫻子にハッとする里緒奈。


 櫻子は、その驚いた里緒奈の頭上に振り上げた錫杖を振り下ろす。


「くっ……」


 里緒奈は顔をしかめつつ、教鞭でそれを受け流したが、一瞬でパワーもスピードも劣っていると悟ったらしく、


「パージ! 絆創膏の装……からの~、竜の牙!」


 彼女も最終恥装と化し、間髪入れずに〈竜の牙〉を放って櫻子を怯ませ、一旦立て直すためか距離を取った。


「……勝てる!」


 櫻子はその攻防だけで、直感的にそう思った。

 最終恥装と化した里緒奈の魔力は上がったものの、それよりも自身の魔力の方が僅かに上と感じたのである。


 里緒奈と櫻子。


 里緒奈の方が竜の苗を多く保有し、共に最終恥装。本来なら圧倒的不利な状況となるはずであったが、こちらには切り札があった。恭介である。男性である恭介に絆創膏三枚の恥装を見られていると思うだけで、恥辱心が煽られ、瞬間的に引き出される魔力が里緒奈よりも上をいっていたのである。


「ありがとう、瀬奈くん……」


 口の中で感謝の言葉を述べ、ちらっと彼の方を見やれば、恭介は前のめり気味で里緒奈の方を一生懸命に見やっていた。


「あ、あのエロガキは……」


 櫻子は戦闘前に、ずっと自身を見ているように恭介に言い含めていた。

 にもかかわらず同じ最終恥装の櫻子を無視して里緒奈をガン見しており、ちょっとばかし癪に障った。


 まあ、里緒奈のようなボリューム感たっぷりのエロボディーをたった絆創膏三枚だけでガードし曝け出し、跳ねて動く度に、普段は拘束されている乳バンドから解放されたたわわな果実をばゆんばゆんと揺らしていれば、そちらに目が行くのは、至極当然のことといえた。


「……どうしたの? 二人掛かりできてもいいのよ?」


 櫻子が恭介を気にしているのを察してか、里緒奈が言ってきた。


「いえ……彼女は、ただの見届け人よ……」


 魔法少女エフェクトにより、里緒奈は恭介の存在を認識していなかった。


 恭介が恭介であるとばれてしまえば、里緒奈にも力を与え、その時点で櫻子の負けは確定。またパワーアップアイテムである恭介が先に倒れても櫻子がパワーダウンして終わることとなるので、恭介には戦闘には参加せず、徹底して傍観者でいろと戦闘前に告げていたのである。


「ふ~ん……だったらなぜ二対一で戦いを挑んだのか気になるところだけど……まあいいわ……あなたを倒した後、彼女の方はゆっくりと料理することにするから」


 ここまで勝ち残ってきた驕りか、それとも奥の手でもあるのか、里緒奈の余裕の笑みに櫻子は眉を顰める。


「も、もう……勝った気でいるの?」


 彼女の余裕の正体――まさかとは思うが、里緒奈は自身の魔力と他人の魔力の比較をできないだけ……だったりするのだろうか? 


「ふっ……あなたこそ……これがわたしの本気であるとでも思っているのかしら?」


「……ど、どういこと?」


「わたしはね、お嬢ちゃん……あと二つの恥装を残しているのよ?」


 櫻子はハッとして、


「えっ? こ、これ以上、どう脱ぐつもりのなのよ!」


 と、彼女の胸と股間の絆創膏を見やった。


 どうやら彼女はこの空間には女性しかいないと思って、完全露出する気なのかもしれなかった。


「ふっ……見せてあげるわ、わたしの絆創膏の装を超えた恥装を……」


「なっ! ま、待ちなさいって! 後ろには――」


 恭介がいるのだからと踏み止まらせようとしたが、それはできずに言葉が詰まる。


 それをしたら敗北が確定してしまうからである。


 そして里緒奈の魅惑のGカップボディーは、光の帯に包まれ、更に恥ずかしい姿へと移行した。

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