恥装を超えた恥装

 最終恥装であるはずの絆創膏の装を更に超える宣言した里緒奈。


「えっ?」


 驚くべき恥装の正体は――


「露出度が……えっ?」


 なぜか露出度が減っていた。逆に着込んでいたのである。


 里緒奈の現在の衣装は学校指定の運動着……サイズがあってない、小さめの半袖とブルマのセットであった。


 そしてなぜか魔力は上がっていたのである。


「ふっ、露出度が高ければいいというものではない。慣れっこになってしまった絆創膏の装より、ブルマの装……この年齢になってからのこの姿……やっぱりぞくぞくするほど恥ずかしいわっ!」


 里緒奈から溢れ出る先ほどまでとは異なる魔力に肌がピリピリといてつく。


「な、なるほど……」


 里緒奈のむっちとした肉体に張り付く半袖シャツと小さめで食い込む尻肉のはみ出たブルマ姿……彼女の先ほどまでなかった恥じらいを見て櫻子は納得して頷いた。


 絆創膏の装は、ギャラリーが他にない魔法少女同士の戦いにおいては単なる戦闘服でしかない。初めの頃であればともあく、慣れが生じると恥ずかしさが激減。同じ魔法少女の前では水着感覚になっていってしまう部分があった。彼女にとっては年齢的にコスプレ感が否めないブルマ姿を人前で晒す方がよっぽど恥ずかしいのかと思われた。


「さて……この恥装……人前で晒すのは初だけど……」


 里緒奈はにっこりと笑うと、


「どの程度動けるものか、あなたで早速試ししてみましょうかね?」


 言うとダっと地面を蹴り上げた。


「速い!」


 超スピードで迫りくるブルマな里緒奈。


 先ほどよりもパワーもスピードも格段に上がっているのが、嫌でも分かった。


 この状況では、〈竜の牙〉を放っても、掠りもせずにかわされるだろう。


「くっ……」


 櫻子は歯噛みして。ザンッ! と錫杖を構えて迎え撃つ。


 教鞭を振り上げた里緒奈が目の前に――


「さあ、喰らいなさい!」


 その瞬間、彼女の姿が掻き消えた。


「えっ? どこに……」 


 びしぃぃっっん!


「ひゃん!」


 凄まじい衝撃を生尻に受け、身体を仰け反らす櫻子。


 今の一瞬で後ろに回り込まれたのである。


 更に櫻子は、里緒奈の教鞭で、びし、ばしっ! と全身を滅多打ちにされる。


「い、いやあぁぁっっ!」


 櫻子の悲鳴が響き、何があっても手を出すなと言い含めておいた恭介が動く。


「……ど……竜の牙!」


 遠距離より放たれた〈竜の牙〉が、櫻子と里緒奈の間を割って裂く。


「……あら、あなたはただの傍観者じゃなかったの?」


 里緒奈に凄まれ、ビクッと身体を震わす恭介に櫻子はハッとして、滅多打ちにされていた身体を起こす。


「ま、待ちな……さい……あなたの相手はこのわたし……よ」


「彼女を護ってどうするの? どちらからでも結果は同じだと思うけど……?」


 そうでもない。今恭介にリタイヤされてはこの先戦えないのだ。


 とはいえこのままでは櫻子に勝ち目はない。

 何とか一発逆転の機を窺いたいものであるが、打つ手立てが全く見当たらなかった。


「ふんっ、まあどっちでもいいわ……」


 里緒奈は櫻子を見やりつつ、ニッと口の隅を歪めるように笑って、


「お望み通りあなたの方から片付けてあげるわ。そうだ。せっかくだし、最終恥装を試して見ようかしらね?」


「!」


 そう、彼女はもう一つ、恥装を隠していたのである。


「……ふふっ……あなた如きブルマの装でも十分だけど、一位と当たる前に、どの程度の力が引き出せるか試しておきたいからね」


「くっ……」


 歯噛みする櫻子。


 やはり、これ以上、魔力が肥大化するというのだろうか?


「いいわ……その恐怖で引き攣った表情……ぞくぞくしちゃう。わたしの最終恥装を見て、更に恐怖で顔を歪ませるがいいわ!」


 その瞬間、里緒奈の身体は、光の帯に包まれて――


「す、凄まじい魔力……ど、どんな姿になるというの……?」


 櫻子は膨れ上がっていく魔力に息を呑み込んだ。

 光に包まれた里緒奈から発せられる魔力は、先ほどまでのただ強大だけではなく、異質な魔力。


 それは、近くに立つだけで消滅させられてしまうのではないかというほどの凄まじい圧迫感を伴っていて――


「ふっ……これが最終恥装よ!」


 里緒奈が光の帯から、姿を現した。


「……なっ!」


 櫻子は里緒奈のその最終恥装に眉を顰めた。


 見た目は普通だった。


 普通の白いブラウスに普通のタイトスカート……なのにどうしてか、大きな胸の前で腕を組む彼女からは異様な魔力が発せられていた。


「ど、どういうことなのその魔力……! 恥装でもない普通の恰好なのに……!」


 里緒奈は意味ありげにフフッと笑うと、


「普通ですって? それはどうかしらね……?」


 と、胸の上で組んでいた腕を下した……


「あっ!」


 櫻子は思わず絶句し、それを二度見した。


 里緒奈の白いブラウスの最も突起していた部分二ヶ所に、五百円玉程度の大きさの穴が真ん丸に開けられていたのである。


 つまり絆創膏の装は極限までの露出に拘った恥装であるが、この恥装は、隠さないといけない部分だけを露出していたのである。


 恥ずかしい。これはある意味裸よりも恥かしいけれども、その前にこの恰好はバカなんじゃないかな?


 彼女の今の姿を自身の姿に置き替え、そのまま生徒たちの前で教鞭を執る姿を想像してみるが、とてもじゃないが正気を保てそうになかった。

 相手が女性だからまだしも、男の子がいたら終わる。というかこの場には恭介もいるのに、彼女はそれを知らずにこの恥装となってしまったのである。


 とりあえず若干距離のある恭介はこの恥装の意味をまだ理解していない様子であった。


「……し、仕方ない……わね」


 何となく可哀想に思い、櫻子は場所をちょい移動し、恭介に背を向けさせるように里緒奈の身体を反転させた。


「ふっ……待機している彼女に背を向けさせるようにわたしを立たせ、隙ができたら攻撃させる……その作戦、上手くいくといいわね?」


 里緒奈のための行動であるが、どうやらこれを作戦だと勘違いしたらしい。


 訂正するのも面倒なので放置。


 しかし実際、里緒奈の隙をついて恭介が一撃で、という作戦はどうなのか?


 正直、恭介の魔力では火力が足りない。

 櫻子の全魔力を注ぎ込んだ一撃であれば倒せると思われるが、里緒奈にそんな隙を生じさせることができるとは到底思えなかった。


 ではどうやって打ち砕くか?

 正直、勝ち目はほぼないに等しい状況。


 ブルマの装ですら歯が立たなかったというのに、彼女の最終恥装に適う道理がない。


「竜座の中で誰よりも乙女でピュア、か……」


 あの白い子狐――QBが里緒奈をそう称していたのを思い出し、櫻子は苦い笑みを浮かべる。


 魔法少女候補生の中で最も見込まれた存在。

 もしかすると里緒奈は規格外であったのかもしれない。


 見た目にそぐわず乙女でピュア……それが彼女の力の秘密で……


「んっ? 乙女でピュア……?」


 それならそれで戦い方はあるのではないのか?


 櫻子は勝利への活路を見い出した気がした。


 しかしその手段はあまり気が進まないような作戦であった。


「さて、最終恥装の力……あなたの身体で確かめさせてもらうわよ?」


 里緒奈が一歩前に踏み出すと、大気が震え、振動した魔力がこちらまで伝わってきて、櫻子は背筋に怖気を走らせた。


「き、気が進まないとか言ってる場合じゃ……ないわ!」


 そう、勝てる見込みがあるなら即座に実行すべきなのである。櫻子はこの竜の苗争奪戦に名乗りを上げた時点から決めていた。


 有紀をリングに戻すためなら、どんな汚い手でも使って勝ち残ってやるのだ、と。

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