はっけよい、ペニった!
色葉がおちんちんを出せと言ってきた。
しかし普通に考えて、そんなことを要求してくる女子高生はいない。
「き、聞き違いかな~? 色葉ちゃん? キミは今、何って言ったんだい?」
恭介は確認のため、そう訊き返した。
「だからペニー君の顔を描くからおちんちんを出してって言ってるの」
やはり聞き違いではないらしかった。
「お、おかしいだろそれ……? お人形さん遊びって……何でおまいは指人形で俺は下半身なんだよ?」
「だ、だってそっちの方が愉しいし。恭ちゃんだってお風呂に入ったらおちんちんの口をパクパクさせながらアテレコとかして遊んだりしてるんでしょ? その延長だよ」
「風呂でそんな一人遊びしねーよ……っていうかおちんちんをパクパクって何だ……よ……って……」
恭介はそこでその姿を想像して、
「お、おまっ……もしかして俺の身体と入れ替わった時、風呂場でそんなことしてたんか?」
「えっ? そ、そんなの……」
色葉は慌てたように恭介から視線を反らして、
「べ、別にしてたってわけじゃ……で、でも男の子だったら誰でもするようなことだし……仮にしてたとしても、そもそもあの時は色葉のおちんちんになってたんだから色葉が色葉のおちんちんに何しても色葉の勝手でしょ!」
「ん、んなわけあるかい! じゃあおまいはあの時、俺がおまいの身体にいろんなことしちゃってもよかったのかよ?」
「なっ! し……したの? 恭ちゃんがそんなことするなんて、信じてたのに! 裏切られた気分! サイテー!」
「サイテーって! お、俺は何もしてねーよ! 仮にの話。してたのはむしろおまいの方だろ!」
「わ、わたしだって何もしてないもん! 大体何でそんな抵抗するの? 神様が願い叶えてくれたってことはむしろ率先して色葉の前におちんちんを出してペニー君になろうとする場面じゃないの?」
「ん、んなこと言ってもだな……」
どうやら色葉は、神様が願いを聞き入れ、恭介に何らかしらの強制力が働いていると思い込んでいるらしかった。
しかし恭介は、色葉から何としても竜の苗を頂戴しなくてはならず、交換条件としてそれに従う必要があるのもまた事実だった。
即ち、色葉の願いを素直に聞き届けるか否か、それが問題である。
色葉とはできうる限り、魔法少女戦を避けて通りたかった。色葉と戦えば櫻子が敗北の恐れがあるのと、単純に色葉と争いたくないというのがその理由である。
櫻子を勝利に導くには、魔法少女戦で色葉に勝利するか、ここで恭介が一肌脱ぐかのどちらかのどちらかが必要だった。
正直、色葉の願いを聞き入れるのは抵抗だらけであった。
だがそれを拒否って櫻子がもし魔法少女戦から脱落したらどうなる? 櫻子の願いは叶わず、更に色葉が勝ち進み、結局は願いを叶えてしまうかもしれなかった。いや、それどころか途中で願いが変わり、より恭介に負担のかかる願いを強制執行される可能性だってあった。であれば色葉の進撃はここで阻止する必要があった。
それに、だ。ここで行われることはすべて色葉の記憶から抹消される仕組み。
魔法少女の隋する記憶は魔法少女でなくなった瞬間に消去される。つまり例え色葉の要望に応えたとしても、色葉の竜の苗が恭介に譲渡された瞬間、このやりとりを含め、きれいさっぱり記憶は消されるはずだった。
だったらこの瞬間、恥を掻いた方が恭介のダメージは一番少ないはずで……
「恭ちゃん? 決めた? するの? しないの?」
「えっ? お、おう……」
例え色葉の記憶から抹消されるとしても、なかなか踏ん切りがつかない。
だがこう考えよう。
自身が一肌脱ぐことで沢山の人が笑顔になるのだ、と。
櫻子を勝利に導けば彼女はもちろんプロレスラーの早川琥珀、そして琥珀のファンたちを笑顔にすることができよう。
「そう……だよな? 俺がペニー君を演じることで沢山の人が笑顔になるなら……」
恭介は色葉に訊く。
「竜の苗……こっちに渡してくれるんだよな?」
「うん。約束は絶対に守るよ?」
「よ、よし。わかった……色葉……お前を信じるからな?」
恭介は、散々迷いはしたものの、みんなのためにペニることを決めた。
ペニー中。ペニー中。ペニー中……
「い、色葉! ちょい待ち! 一旦、休憩にしようぜ? なっ?」
恭介は、四話目に強行突入しようとしていた色葉に精子をかけ……いや、制止を掛けた。
「えー、どうして?」
「どうしてじゃなくてさ……なっ?」
不満たらたらに言う色葉に察してくれと目で訴えかける恭介。
「うーん、わかった……じゃあ色葉は朝ご飯食べてくるねー」
と、部屋を出て行く色葉。
そんなわけで休憩タイムになり、恭介は『ペニー君とミギッテちゃん』の台本を手に取りパラパラとめくる。
「そーいや、あと何話だよ……?」
はっちゃけてペニー君を演じていた恭介だったが、まさかの展開に困惑してる間にあれよあれよとペニー君の背中を擦られゲロしていた。
こうなったら何が何でも色葉から竜の苗を奪取し、もろもろの記憶を抹消させるしかなかった。
「うはっ! ぜ、全二十六話って……」
しかもゲロの回数は一話につき数回の時もある。どうも今日一日じゃ終わる気がしなかった。
「……ありっ? これ……?」
今気付いた。なぜか最終ページは、第一部・完、第二部に続くとなっていたのである。
まさか一部が終了したら、二部も普通にとか言い出したりしないだろうな……?
ヌードモデルの時に種田妹に騙された経験があり、同じ轍を踏むわけにいかなかった。
「も、戻ってきたら訊かねーと……」
これでずるずると引き延ばされたらたまったものではない。
というかたまる暇がない。
どちらにせよ、ここまできたら最後までやりきるしかなく、恭介は、色葉が戻ってくると、すかさず問い質す。
「おい、色葉? この台本全二十六話きっちり付き合えば竜の苗をこっちにもらえるんだよな?」
「う……ん? 恭ちゃんが望むなら続きも書くよ?」
色葉は既に第二部の構想も練っている様子であった。
第二部は、ペニー君たちが暮らす平和な街に、突如女型巨人が現れ、ペニー君を丸呑みするところから始まる。
ペニー君は何とか女型巨人の口の中でゲロを勢いよく吐き出し逃げるが、それから女型巨人との壮絶な戦いが始まるらしかった。
ちなみに女型巨人は色葉が演じるらしく、呑み込まれると言うのはそういうことらしかった。
「に、二部とか……ちょっと興味はあるけどないから!」
「恭ちゃんはお人形さんごっこ……嫌い?」
「い、いやいや、嫌いとかじゃなくてな、はよもらわねば困るのよ。竜の苗をさ」
櫻子が討伐に動くと言い出す前に受け取っておきたかったのだ。
「そーなの? それじゃあ先にあげようか?」
「えっ? いいのか?」
「残りは一日一話か二話ずつで……恭ちゃんが続けたいならそのまま続けようよ?」
「おう、なら竜の苗を先にこっちに――いや、ちょっと待て! 待ってくれ!」
恭介はハッとして、慌てて思考する。
もし今竜の苗を譲渡されれば色葉は記憶を抹消され、せっかく精魂を込めて書き上げた『ペニー君とミギッテちゃん』の台本が無駄になってしまうではないか。
「い、色葉さん? どうだろう? 竜の苗をこちらに渡す前にもう一話消化するというのは……?」
作品をしっかりと供養させてやるためにも、それが一番だと恭介は考え、提案した。
「うん、別にいいよ。じゃあ続きの四話から――」
「いんや、待て! 飛ばそう」
「えっ?」
「俺的に十七話がよいと思う」
「そーなの? ほんとは話数順がいいと思ったけど恭ちゃんがそう言うなら別にいいよ?」
そんなわけで恭介は、最後に『ペニー君とミギッテちゃん』より、十七話・ペニー君、ぬるぬる相撲をする――で、思う存分、はっちゃけることにした。
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