竜の苗

 色葉が手を洗うために部屋を出て行った。


 ぬるぬる相撲の結果は、終始ミギッテちゃんに主導権を握られ、ペニー君は一方的に責められ続け、敗北。

 決まり手はゲロ出し。ペニー君に黒星が、ミギッテちゃんに白いのがついた。


 休憩を挟んでもう一話くらいならやってもいいかもしれないが、切りがなくなるのでこれで竜の苗を回収して終わりにすることにした。


「ただいまー」


 部屋の扉がガチャッと開かれ、何かを手にした色葉が姿を現した。


「んだ? それ?」


 色葉が手にしていたのは南国色漂う植物の鉢植えであった。


「んー? おじさんのお土産……これ、恭ちゃん欲しかったんでしょ?」


 恭介は「へっ?」と眉を顰める。


「い、いや、俺が欲しかったのは竜の苗なんだが?」


「うん。だからこれがドラゴンフルーツの苗木……恭ちゃんが頼まれたのってこれだよね?」


 恭介は、途轍もなく嫌な予感がした。


「ど、ドラゴンフルーツって……?」


 ドラゴンフルーツ――熱帯雨林原産のサボテン科の植物である。


「いや、違くて。色葉ちゃん……ほらっ、魔法少女系の……?」


「魔法少女? 何それ?」


 色葉は不思議そうに小首を傾げ、そう問い掛けてきたのだった。






 一夜明けての月曜の朝、恭介は職員室に駆け込み、櫻子の許に訪ねた。


「お、おはよっす! 種ちゃん先生!」


「え、ええ……おはよ……どうしたの、わざわざ?」


 と、恭介の勢いに少し引いた様子で櫻子。


「え~っと、相談が……ここではあれで……」


 櫻子はそれで察してくれたようで、立ち上がり、


「ついてきなさい」


 と、促し立ち上がり、廊下に出た。


 そして邪魔にならぬよう職員室の出入り口からちょっと離れたところまで歩くと櫻子は振り返り、


「それで……どうしたの?」


 と、訊いてきた。


「はい。色葉のことなんすけど……今現在二位の候補生って色葉でいいんですよね? いいんですよね?」


「ええ、朝も確認したけど志田さんの自宅から動いてなかったわ。けどどうして? 特定してくれたのは瀬奈くんでしょ?」


「あ、いや……万が一ドラゴンレーダーが誤作動してたらあれかなって……再確認しときたかったと言いますか」


 昨日の恭介ははっちゃけ過ぎたため、色葉の記憶を放置しておくわけには絶対にならなかった。


 となれば色葉を魔法少女として倒すしか記憶を消去する方法はない。ただしそれは色葉が魔法少女候補生であればである。

 昨日の色葉は竜の苗について知らぬ存ぜぬを決め込んだ様子であったのである。


 正直、色葉が嘘を吐いて自分を騙しているとは思いたくなかった。

 色葉の裏の一面を垣間見たようで少しがっかりである。勝手であるが、色葉は自分の知っている色葉であって欲しかった。

 しかしちょっとした出来心という可能性もある。


 だから恭介は、再度ドラゴンレーダーで確認し、竜の苗を譲渡するよう呼びかけてみるつもりだった。


「誤作動なんてないと思うけど……」


 櫻子はそう言いながらもドラゴンレーダーを取り出し、カチカチッと起動させる。


「あらっ? 瀬奈くん? 今日、志田さんは学校に来てる?」


「は、はい……まだ会ってませんがそのはずですよ?」


「……そう……だったらわたしたちは勘違いしていたかもしれないわね」


「えっ? 勘違いってなんすか?」


 恭介が訊き返すと、櫻子はドラゴンレーダーの画面をこちらに見せてきて、


「わたしたち以外の反応はここにないのよ。そして二位の反応が現在あるのはここよ?」


「えっ! あっ……そ、そこって……」


「ええ、おそらく聖泉女子がある付近ね」


 恭介はそこで膝から崩れ落ち、廊下の床に手を突き深く項垂れた。


「ちょ、ちょっと……こんなところでどうしたの、瀬奈くん……?」


「どうしたもこうしたも……」


 ドラゴンレーダーが示す場所は、聖泉女子――里緒奈が教師をしている聖泉女子であったのである。

 つまり竜の苗を保有する現在二位の魔法少女候補生は色葉ではなく、志田家・長女である志田里緒奈の方であったのである。


 何ということか、恭介は色葉の前で調子に乗ってはっちゃけすぎてしまった。


「何が僕ペニー君……色葉ちゃんよろしくね、だよ……」


 後で記憶を消せると台本にないことまでノリノリでやってしまったのである。


 これでは催眠術で記憶を消せると恭介の前でやりたい放題していた色葉と同じ。

 それを考えれば痛み分けという感じだろうか……?


 いや、しかしこのダメージは非常に大きかった。


「こうなれば……」


 色葉から記憶を消去する方法がないわけではない。


 そう、魔法少女の頂点に立ち、願いを叶えてもらうという手段である。

 しかしそれをするには櫻子を出し抜かなければならなかった。


 いや、櫻子だけではない。他の魔法少女たちも押し退け、彼女たちの切なる願いを潰さなくてはならないのである。


 そんな資格、おちんちんに顔を描いてパクパクさせていた恭介にあるだろうか……?


 答えは否。


 恭介の願い叶えてもらおうなんてとてもできはしなかった。

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