コスプレ
「ほ、本当に俺ってわかんねーんだよな……? 俺、騙されてない……よな?」
おどおどしながら街を歩く恭介であったが、特に魔法少女コスしている恭介を気に留める通行人はいなかった。
櫻子曰く、魔法少女に変身している間はエフェクトが掛かり、こちらから認識させない限り誰も気付かないし、仮に気付いたとしても恭介の姿はコスプレした女性にしか見えないということであった。
実際、誰も恭介を気にしている様子はなかったが、単に痛い人に見られて目を合わせないようにしているだけであったりしたらと考えると怖くて仕方なかった。
「と、とにかく魔法少女を探さねば……」
探すと言ってもひたすら歩き回り、レーダーに引っ掛かるのを待つしかなかった。
レーダーは魔法少女に変身している状態ではないと引っ掛からない。
今画面に出てる反応は、フレンド登録した櫻子の他に真っ赤に点滅する一個のみ。赤は敵側が恭介の魔力を大きく上回っている状態であり、この反応は櫻子よりも上とのことで、戦闘は回避しろとのことだった。
格上の相手の場合、こちらが認識できても、相手側からは必要以上に近付かなければ恭介の弱い魔力を感知することができない。
よってそれを回避しつつ、歩き回っていたのである。
「つか、これ本当に見つかるのかよ?」
そもそも相手も変身していなければ探知機に反応せず、今の時間帯、他にどのくらいの魔法少女が敵を求めて彷徨い歩いているのかも分からず、ただ、やみくもに歩き回って探査するのはかなり効率が悪いように思えた。
とはいえ既に櫻子より苗をたくさん集めている相手もおり、これ以上、差をつけられないためにも、早急に手頃な魔法少女とエンカウントする必要があったのである。
「しっかし、他に何かいい手はないのかねぇ~……」
恭介が何となしに考えを巡らしていると、レーダーがぶるっと震えた。
「な……何だ……?」
画面を見ればフレンド登録したプリティーサクラコの名。
もしやと思ってパネルをタッチして、耳に当ててみると、
『もしもし、瀬奈くん?』
櫻子の声。やはり電話機能もあるらしい。
「はい。ていうか、これどうするんです? 一向に反応ないですし、エンカウントする気配が見られないんですけど?」
『あー、時間帯的に部活とか仕事とか本格的な活動はもうちょっと後かもしれないわね』
「ね、年齢層広いっすね……」
魔法少女といっても、処女なら小学生でも老女でも女性ならその資格があるらしく、更年期障害な魔法少女がいたり、それでいて自分のようなドーピングな存在もある訳で、やはり全然魔法少女とは言えない気がしてならなかった。
『仕方ないわね。こっちからアプローチしましょうか?』
「アプローチ……ですか?」
『ええ、端末を使うのよ』
レーダーには、同等レベルの魔法少女候補生に対し、自身の位置情報を広範囲で発信することが可能であるらしかった。
「そ、そういうのあるなら早く言って下さいよ」
エンカウントするまで何時間も永遠と歩かされるのではないかと思っていたのだ。
『でもその姿で歩いて魔力は回復したでしょ?』
魔法少女は恥かしいと魔力が回復するのだ。
「まさかそのために一人で歩かせた……んですか?」
魔力が回復しても、恭介の今の魔法少女レベルでは〈竜の牙〉を一発しか撃てはしない。
兎にも角にも恭介は、櫻子に教えてもらい、現在の位置情報を同レベルの魔法少女に限定し、発信してみたのだった。
「きた!」
レーダーに新たな反応があった。
同等レベルの魔力の持ち主。恭介はこちらに向かって来る方向を見やる。
人の流れから魔法少女である彼女を見つけるのは探知機がなくとも容易だった。
その少女は、恭介とまったく同じ竜の魔法少女コスで現れたからである。
恭介は緊張した面持ちで、彼女の方に歩み寄っていき――
「……あ……れ……?」
彼女の顔が遠目でも確認できる位置で、足を止めた。
ゆるふわウェーブに太い眉……恭介は、その魔法少女の顔に見覚えがあったのである。
「あ、あの……魔法少女さん……ですよね?」
恭介の顔を見て、おどおどしつつ声を掛けてくる魔法少女。
声まで想定したものとそっくりであった。
というか彼女はどう見ても恭介が知る九条結愛であった。
しかしおかしい。魔法少女になればエフェクトがかかって正体さえ知らされなければ別人に見えるはずだった。現に彼女の方は恭介であることにまったく気付いていない様子。つまりは結愛にしか見えない彼女は、結愛ではなく、他の誰かということなのだろうか?
「は、はじめまして……その……プリティーユアです。よ、よろしくお願いします」
「!」
結愛のそっくりな魔法少女さんは、名前まで結愛と同じであった。
果たしてこれは偶然なのであろうか……?
「あ、あの……バトル……いいですか?」
プリティーユアが魔法のステッキを恭介の顔に向けて言ってきた。
「あ、ああ……そうだね。いいよ」
恭介もそれに応えるように、彼女と同じレベル1のステッキを構えて見せた。
その瞬間、世界が暗転、二人は断絶世界へと誘われたのだった。
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