全裸歩行
瀬奈恭介――三股を掛ける卑劣漢。
種田櫻子は彼を正しい道に誘ってやり、クラスの女生徒……そして妹の繭子を彼の魔の手から守る必要があると思った。
彼は三人の美女を手玉に取るだけに飽き足らず、妹の繭子にまでその魔手を伸ばした。
あの時、櫻子の帰りがもう少し遅くなっていたら、繭子は裸にされ、悪戯をされていたかもしれなかったのである。
その後、デッサンのため恭介を脱がせた。
初めて見る男性の裸体。見せられたこっちの方が恥ずかしかった。
だが、彼にもいい薬になっただろう。彼は異性二人の前で裸になり、恥ずかしい思いをしたのだ。繭子にしたことを少しは悔いているはずであった。
しかしまだ不十分であろう。男性が裸を晒すのと女性が晒すのではその恥ずかしさも価値も違う。
異性の前で裸になる。櫻子にはまだその経験はなかったが、その恥ずかしさは十分に分かっているつもりであった。
「そ、そうよね……見られてるかもって思うだけでこんなにドキドキするんだもん……」
人気のない夜の公園。
櫻子はおどおどと周りを警戒しつつ、全裸歩行をしていた。
いや、正しくは全裸歩行ではない。ブーツは履いていたし、絆創膏で隠さなくてはならない部分は最低限きっちりと隠し、誰かに見つかっても犯罪にならないようにしていたのだ。よって一〇分の九裸歩行といったところだろう。
とにかく遠目から見たら全裸っぽい恰好で夜の公園を歩いていたのである。
物音ひとつで身体をビクンと震わし反応し、
「な、何だ……ネコか……」
ホッと胸を撫で下ろす櫻子。恭介の裸体を見て、他人に裸を晒すのがどれほど恥ずかしいか教職者として体感しようと考えた櫻子であったが、やはり難易度が高すぎた。
「さ、さっさと済まさないと……」
早く公園を一周して着替えねば、例え教職者として必要な行為だとしても誰かに見られたら終わりである。
「あそこまでいけば……」
服を脱いで畳んで置いた場所まで辿り着けそうだ、そう安堵したその時である。
「……誰か……きた!」
目の前から話し声が聞こえてきた。
「ど、どうし……」
櫻子は周囲を見回し、隠れる場所を選定。
慌てて茂みに飛び込み、木に隠れてしゃがみ込む。
「ちょーウケるんですけど」「だろ? 超弦理論じゃないつーの!」
チャラそうな茶髪のカップル風の男女を、じっと息を潜めてやり過ごそうとする櫻子。
「えー、知らねーよ……」「……海底で……して……」
徐々に声が遠ざかり、ずっと先に行く二人を見やり一安心の櫻子であったのだが……
ドサッ。
「えっ?」
その物音に振り返ると地面には広がったコンビニ袋と食物と飲料、そして一人の少年がそこに立っていて――
「……た、種ちゃん……先生?」
櫻子は自身の顔ら火が出るほど真っ赤になり、ひどく歪むのが分かった。
そこに立っていたのは女性を食い物にすることを生き甲斐にし、秘密を握って脅迫しては思いのままにする鬼畜少年、瀬奈恭介であったのである。
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