姉と怒ったおちんちん
「それではセナ先生、わたしはこれで失礼します」
「ごくろうさま~、またよろしくね~」
「はい、よろしくお願いします」
姉のアシスタントをするため訪ねてきていた繭子が今から帰る様子で、部屋の外からそんなやり取りが聞こえてきた。
繭子がアシスタントの仕事に没頭してくれるのはありがたかった。あれからヌードモデルは頼まれていなかったのである。
まあ今度は櫻子も一緒でなければNGになったため、そうそう依頼は来ないと思われた。
櫻子の帰宅時間が遅くなれば繭子の家は両親が帰宅してしまい使えなくなるからだ。
そしてそもそも櫻子自体拒否している可能性だってあった。学校で接するに、櫻子の態度が急激によそよそしくなったのである。顔を染め、乙女な反応をしていた櫻子。今思い出しても恥ずかしいが、あの櫻子の反応からして次はないかもしれなかった。
「うん、そうだ。きっとないよ」
希望的な観測を含め、ポジティブな思考に持っていこうとする恭介。
正直、この間の一件はなかったことにしたかったのである。
だから記憶の奥底に封印し、二度と思い出さないことにしようと思ったのだ。
しかし繭子の行動はそれを許さなかった。
アシスタントを終え繭子が帰ってしばらくすると、部屋の戸を叩くノック音がして、ガチャリ。
「恭くん? 今……いいかな?」
若干、表情を曇らせた顔だけを覗かせる姉の藍里。
「んー、どうったの、ねぇね?」
「少し……聞きたいことがあって……入るね?」
そして藍里が右の手に握られたモノを目にしてギョッと身を仰け反らせる恭介。
「ね、ねぇね……? それ……何でそんな物騒なモノを……?」
すると藍里は手にした包丁を恭介に向けて、
「うん。今、お料理していてね……そしたらちょっとわからないことが起きて……少し聞いてくれる?」
「えっ? 料理のことなんて俺……わかんないよ?」
料理スキルの高い藍里が分からないことを、料理なんて調理実習時にしか経験のない恭介に訊ねてくる道理はない。つまりは味の好みについて聞きたいということだろうか?
「ううん、そうじゃなくて……今、種田さんに頼まれて新作読んでいたんだけどね」
「りょ、料理……してないじゃん」
藍里は、恭介のそんな苦笑混じりの突っ込みを軽く無視して、
「これ見て欲しいんだけど……」
「んっ? ぶはっ!」
藍里に見せられた漫画原稿に恭介は思わず噴き出して、
「ね、ねぇね……お、俺にこんなもん見せて、何を考えてんだよ!」
藍里は虚ろな目を恭介に向ける。
「この怒ったおちんちんの絵……恭くんのおちんちんをトレスしてるよね?」
瞬間、血の気が引いた。
「えっ? えっ? トレスって……いや……な、何を言ってんのさ、ねぇね……?」
確かにモデルにしているかもしれないが、なぜ分かるのか?
「恭くんはあの女にその状態を見せたってことはそういった関係になったってこと……だよね? 恭くんの童貞はお姉ちゃんのモノって約束だったよね? 恭くんはお姉ちゃんを裏切ったの?」
「いや、違うし。つーか、その前に、そんな約束してないよね?」
「で、でも……じゃあ何でその状態のモノをあの女が見てるの? やっぱり……」
藍里は血走った目で恭介に包丁を突き付けてきて、
「あの女……お姉ちゃんの敵なの? 何なの?」
「だ、だから、て、敵って何だよ? アシスタントだろ。おろおろしながら何を口走ってんだよ、ねぇねは?」
恭介は深く嘆息した。
なぜ見分けられるかはまったく持って不可解であるが、姉のおちんちん真贋力からは逃れられそうになかった。
だったら素直に認めて彼女を納得させる方向に持っていくしかないだろう。
「ねぇね、俺がモデルしたのは知ってるだろ? んでね――」
仕方なしに恭介は途中で反応してしまったということにし、要約して語ったのであった。
「そっかぁ~……お姉ちゃん、一安心」
どうにか納得してくれたようで、藍里に笑顔が戻り、
「恭くんのおちんちんはまだ清いままだったんだね?」
「あ、ああ……うん。そうだけど……その言い方やめてくれってばさ」
「ねえ、恭くん? お姉ちゃん、恭くんにちょっとお願いがあるんだけど……いいかな?」
「な、何だよ、ねぇね?」
「うん、ちょっと待ってて……」
藍里はそう断りを入れ部屋を出ると、自身の部屋からスケッチブック片手に戻ってきて、
「恭くん……お姉ちゃん最近画力に悩んでいてね……よかったら――」
「お断る」
と、恭介は先回りして言った。
「ええっ! まだお姉ちゃん何も言ってないよ?」
「じゃ、じゃあ、一応聞くけど……何さ?」
「うん、恭くんにヌードモデルをしてほしいなって」
「やっぱり……ってか、無理だから」
思った通りであり、無論、断る恭介。
「な、何でなの? あの女の前では脱げるのにお姉ちゃんには協力してくれないの?」
「いや、だって……恥ずかしいし」
どちらにせよ恥ずかしいが、赤の他人の女性の前で肌を晒すより、姉や母の前の方が、より抵抗感があった。
そもそも繭子の前でも、脅迫されていなかったら脱いでなんていなかった。
「昔はお風呂にだって一緒に入ってたんだし、今更恥ずかしがる必要ないとお姉ちゃんは思うの」
「そ、その頃とは違うっしょ」
「同じだよ。おちんちんに泥をつけて帰ってきたからお風呂で洗ってあげたあの時と恭くんは何も変わってないよ?」
「た、確かにそんなこともあったけど……わ、忘れてよ、それは……ってか漫画にしてたよね? 性の目覚めみたいに描いてたよね? 全然そんなことないからね?」
「えっ? でもお姉ちゃんに洗われておちんちん勃起してたんだよね?」
「し、してないよ! そん時はまだ……その……」
「うん、知ってる。でも心の勃起はしてたよね?」
「な、何だよ、心の勃起って……?」
「とにかくあの時の恭くんも今の恭くんもお姉ちゃんが誰よりも大切に想う愛おしい人……」
藍里は優し気な眼差しで恭介をじっと見詰めて、
「じゃあ、恭くん……? お姉ちゃんに成長した証におちんちん……見せて?」
「見せないって」
「遠慮しなくていいよ? 泥がついてたらお姉ちゃんがあの時みたいに洗ってあげるからね?」
「つ、ついてねーから」
あの時は泥のついた手でおしっこしたからついただけである。
年がら年中ついているわけがない。
というかここ最近、おちんちんが狙われ過ぎじゃなかろうか、と真剣に悩む恭介だった。
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