もっとデルモ

「こ、この状況、やっぱどう考えてもおかしくないっすか、種ちゃん先生!」


 結局繭子の提案から逃げ切れず、言い含められた恭介は、衣服を脱がさせられ、今は大切な部分を両手で覆い隠しているのみとなり、最後の抵抗を試みていたりした。

 そんな交渉相手の櫻子は、頬をほんのり朱色に染めつつ、こちらを恥ずかしそうにチラチラッと見やりつつ、


「な……何が……よ?」


「ほ、ほらっ……教師が生徒に全裸を強要するって問題じゃ……?」


「へ、変な言い回しをしないでよ、瀬奈くん! わたしはただ監督役を務めているだけで……大体あなたも妹に同じことをさせようとしていたことはわかっているの!」


「いや、ですからそれは誤解で……」


「い、いいからさっさとデッサンのポーズを取りなさい!」


 これ以上の口応えは許さないという風に言って来る櫻子に深い嘆息を漏らす恭介。

 しかし繭子みたいに絵を描くことに集中して見てくれればこちらもまだやりやすいが、櫻子のように恥ずかしがりつつちらちら見られ、観察してこられたら、恥ずかしくてたまらない。

 ましてや櫻子は大人の女性であるし、彼氏とかもいるであろう。そんな大人な彼氏さんのモノと自身の発展途上中のモノを比べられ嘲笑でもされたら恭介のガラスのハートは砕け散ってしまうかもしれなかった。


「一つだけお願いいいっすか、種ちゃん先生?」


「な……何?」


「彼氏さんのモノと比べるのだけはやめてください」


 櫻子は眉根を寄せる。


「彼氏のモノ……? 何のこと?」


「いえ、ですから……」


 恭介が視線を自身の股間に下ろすと、櫻子はそれに気付いたのかハッとして、


「そ、そんなことしないわよ! っていうか彼氏もいないし、そんなの生で見たことすらないわよ!」


「えっ? マジっすか……? 先生、可愛いからてっきり彼氏持ちかと……」


「なっ! か、可愛いって!」


 そこでなぜか櫻子は顔を真っ赤に染めて、


「せ、先生をからかうんじゃありません! さっさとポーズを取りなさい!」


「えっ? あ……はい……」


 どうやらもう諦めるしかなさそうだった。

 櫻子が目を泳がせつつ、こちらを見てくる。恥ずかしい。とはいえ腹を括るしかなかった。

 恭介は覆い隠していた部分から手を外そうとした。


 しかしその時――


「んっ?」


 繭子が音もなくすっと立ち上がり、こちらを見ながらそわそわ落ち着かない様子の櫻子の背後にそっと近づき、


「きゃっ! 姉さんどいて!」


「えっ! な、何!」


 櫻子が慌てて振り向いたのと同時に、なぜか繭子は姉の背をおもくそ突き飛ばしたのである。


「きゃぁっ!」


 小さく悲鳴を上げて転倒する櫻子。


「ご、ごめんなさい、櫻子姉さん? 大丈夫? 足がもつれて転んじゃって」


「えっ?」


 繭子のその言い訳に恭介は眉をひそめた。どういう意図か、明らかに突き飛ばしたのに何言ってんだろうか、と思ったのである。

 しかし櫻子は妹の言い訳に疑いすら持たなかったようで、


「も、もう、あんたは昔っからそそっかしいんだから。危ないじゃない? 気を付けなさいよ」


「うん、ごめんなさい。姉さん? 怪我はなかった?」


「ええ、大丈夫よ」


 そう言って膝を立て、「よいしょ」と立ち上がろうとしたその時である。


「ま、待って! 姉さん! 動かないで!」


 繭子の制止の言葉に櫻子は四つん這いの形で、こちらに尻を突き出した姿勢のまま固まる。


「い、いい眺め……」


 恭介は櫻子の丸いお尻にぴったりと貼り付いたロングスカートに釘付けとなり、息を呑み込んだ。


「な、何よ、今度は……?」


 櫻子が不快そうに繭子にそう訊ねると、


「蜘蛛……背中に蜘蛛ついてるよ?」


 と、妹が答える。恭介の位置からは見えない。櫻子は蜘蛛が苦手なのか表情を青ざめさせ、


「う、嘘! と、取って! 繭子! 早く! 早く!」


 その場でじたばたスカート越しに見えるお尻を振り振り慌てふためいていた。


「わかったけど姉さん? 動かないで――あ、首筋の方に移動して」


「えっ!」


 ぴんっと身体を硬直させる櫻子。


「待って。今から取るからそのまま動ないで」


「わかったから……は、早くして!」


 櫻子がそう言って促すと、繭子は腰を屈めて――


「!」


 なぜか櫻子のスカートを全開に捲り上げた。


「ぶはっ!」


 思わず恭介は噴き出していた。


 突き出しているせいか、より強調されて大きく見える、彼女のヒップなラインにあるであろうはずの布地がまったく持って見当たらなかったのである。

 それに気づいたからか、繭子も驚愕の表情で、さっとスカートを元に戻してそれを隠した。


「ね、姉さん!」


 繭子がすごい剣幕で言った。


「えっ? な、何? 取った? 取ってくれたの?」


 不安げに問い掛ける櫻子は、繭子がした悪戯行為? にまったく気づいていない様子。


「と、取ったけどさ!」


 繭子はさっと右手をグーにして、


「それより姉さんは何でパンツを穿いてないのよ!」


「えっ!」


 櫻子はハッとしてお尻をスカート越しに押さえて、


「な、何よ……捲れてるかと思ったじゃない? 大体、パンツ……穿いているわよ!」


「えっ? だ、だって……パンツ……」


 繭子は姉の嘘に少しだけ固まって、


「で、でも……パンツの線……出てないじゃない?」


「きょ、今日はちょっと……Tバックなだけよ! 瀬奈くんの前で変なこと言わないでよ! まるでわたしが今日一日、ノーパンで教鞭をふるってた変態教師みたいじゃない!」


「あ……う、うん……別にそんなつもりじゃ……ごめん」


 と、素直に謝る繭子。


「とりあえず繭子。蜘蛛を取ってくれたことは感謝するわね。ありがとう」


 床に腰を下ろすように身体をお越し、胸を押えホッとて安堵の表情を見せる櫻子。


「いいって。姉さん蜘蛛苦手だもんね?」


 窓をガラガラと開け、ボイッと蜘蛛を捨てるような仕草を繭子は見せて、


「じゃ、じゃあ瀬奈君? 再開しようか?」


 それに慌てる更に前屈みになっていた恭介。


「ちょ、ちょっと待て、まだ心の準備が……」


 櫻子のお尻をまじまじと見てしまったのがいけなかった。

 反応してしまったのである。


「瀬奈君、早くして。せっかく姉さんが身体を張って協力してくれたんだから、熱が冷めないうちに、ほらっ……」


 恭介は表情を引き攣らせる。


「ね、熱が冷めないって……もしかして、お前……?」


 おそらく繭子は今の恭介の状態を把握していた。

 櫻子のスカートを捲って恭介に見せつけたのもそのためで……


 そうしたらまさかのノーパンであり、さすがの繭子も姉の生尻を断りもなく勝手に見せてしまったことを申し訳なく思っている様子であの反応だったのだろう。


「お、おい、種田妹? もしかして蜘蛛なんて始めからいなかったんじゃ――」


 すると繭子は恭介の言葉を打ち消すように、


「大きな蜘蛛だったけど姉さん? どこでつけてきたの!」


「わからないわ。まったく蜘蛛なんてどこで引っ付いたのかしらね、本当に……」


 櫻子は苦々しい口調で言うと、置時計を見やって、


「とにかく時間もないし早く済ませるわよ、瀬奈くん?」


「い、いや……ですから、ちょっとだけ心の準備を、ですね……」


「男らしくないわね?」


「む、むしろ男らしくなっているというか……極部分的に……ははっ……」


 と、乾いた笑みを浮かべる恭介。


「何を言ってるのよ?」


 櫻子は憤慨するように言うと恭介の手首をつかみ、


「とっととする!」


「あっ……まっ……」


 しかし抵抗むなしく無理やりそこから引き剥がされて――

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