姉END
藍里が恭介の部屋に訪ねてきた。
「ねえ、恭くん? お姉ちゃん……お願いがあるんだけど……」
姉のお願いとは、【純愛姉弟物語】の最終話となるネームが仕上がったので、読んで欲しいとのことだった。
「まあ、読んで感想言うくらいなら……」
そんな訳で恭介は、【純愛姉弟物語】の最終話に目を通すこととなった。
【純愛姉弟物語】最終話。
弟は姉に邪な想いを抱いていた。
しかしこのままではマズいと思い、弟は嘘の恋人を作って姉に紹介をする。
そこで漫画家の姉は、自分たちをモデルにしたエロ漫画を描き弟に見せる。
劇中劇である漫画の内容は、自分たちを模したものだった。
弟は姉が好きだったが許されない恋だからと彼女を作り、その思いを打ち消そうとしていた。
しかしどうしてもその思いを打ち消すことができなかった。
そして二人は互いの気持ちに正直になり、真実の愛に目覚める、というラストを迎えるのだった。
そして完全にこれは、自分たち姉弟をモデルにして作られた話だった。
「……恭くん……どうだった?」
「ど、どうって……やっぱ本物の姉弟で恋愛ってのは……漫画だけの世界で成立するもんだよね?」
「そんなことないと思うよ。お姉ちゃんはね、愛があれば、本当の姉弟でも関係ないと思うんだけど……どうかな?」
「どうって……ねぇね……俺だって……」
確かに過去、自身は姉に邪な思いを抱いていた。
それを忘れるために、沢山の彼女を作って……
なのにこの姉は再び自身を惑わせようとしていた。
「ねぇね……俺だって本当は……」
「だったらあたしたちもこの漫画みたいに……」
「バカ言うなよ、ねぇね……俺たちは姉弟……それ以上の関係になっちゃいけないんだよ」
「関係ないよ。お姉ちゃんは恭くんが好き。恭くんだって……そうなんでしょ?」
「何でだよ? せっかく彼女の振りまでしてもらったっていうのに、どうしてわかってくれないだよ?」
「やっぱりあの娘は、恭くんの本当の彼女じゃなかったんだよね?」
「うん。それでねぇねがわかってくれるならって……俺だって今まで自分を騙しながらねぇねのことを考えないようにしてきたのに……」
「そっかぁ~……じゃあお姉ちゃんと恭くんは相思相愛だったんだよね?」
「うん。俺はねぇねのこと……」
見つめ合うは姉と弟。
「……ねぇね……俺……ねぇねと一つになりたい……」
「いいよ。おねえちゃんも恭くんと同じ気持ちだから」
「……でも、そんなことしたら後悔することになる……」
「後悔なんて……するわけないよ。だって大好きな恭くんと一つになれるんだもん」
二人は強く抱き、そして激しく求め合った。
それは行くも地獄、戻るも地獄の大変な道になるだろう。
だが、二人の愛が真実ならば、どんな困難にも立ち向かっていけるだろう。
「大好きだよ、恭くん……」
「ああ、俺もだよ、ねぇね……」
姉弟の真実の愛の物語は始まったばかり。
――完――
「…………」
恭介は藍里が持ってきた漫画原稿【純愛姉弟物語】の物語に目を通し、言葉を失った。
完全にこの恭太郎と藍子の物語は、恭介たちの今の状況を重ね合わせて描かれているものであったからである。
「恭くん? どうだった?」
「ど、どうって……まあ……いいんじゃないかな? 現実じゃあり得ない内容を漫画として面白く仕上げている気がするね?」
「そう? 恭くんも……お姉ちゃんとこんなことしたい?」
「し、したいわけないっしょ?」
「照れなくていいんだよ?」
「照れてないって。それに俺には彼女がいると」
「うん。お姉ちゃんの漫画にリアリティがないからよりよくするために実演して見せてくれようとしたんだよね? そうだよね?」
「えっ? ん、んなわけ……」
「大丈夫、恭くんがお姉ちゃんのことを好きなことはわかってるから。あれが嘘彼女だってことはお姉ちゃん、まるっとお見通しだから」
「いや、だからね……本気なの?」
そーいえば漫画の子供編でもベロチューしたり何だり、弟が姉に邪な想いを抱く変態とし、誇張しまくりの妄想を垂れ流しにしたような話を描いていたが、姉はどこまで本気なのだろうか?
「わかってるから」
「……ね、ねぇね?」
「恭くんはお姉ちゃんのこと大好きなんだよね?」
「い、いや……好きだけど、それは姉弟として――」
「ありがとう恭くん。お姉ちゃんもだ~い好きだよ?」
「いや……ね、ねぇね? 聞いてる?」
「じゃあ、もう遅いからおやすみなさいね、恭くん」
「う、うん……おやすみ」
藍里は恭介の部屋を後にした。
恭介も「な、なんだかなぁ~」とは思いつつ、今日はもう寝ることにした。
「んっ、んんっ……」
恭介は寝苦しく感じ、目を覚ました。
「あれ……電気消して……」
いつも真っ暗にして眠るのに、なぜか常夜灯が点いていた。消し忘れだろうか?
「まあ、いいや……」
眠いのでそのまま二度寝することにする。
そして何となく窮屈に感じ、寝返りを打って、
「をぅっ!」
目の前にある血走った二つの目にギョッとし、恭介は一気に覚醒させられた。
「おはよ、恭くん」
「……えっ? ね、ねぇね……なの?」
驚きに心臓がバクついている。
「うん。そうだよ、恭くん」
「そ、そうだよって……」
恭介はとりあえずバクつく心臓を落ち着かせるように、大きく息を吐き出して、
「ったく……な、何してんだよ……び、びっくりするじゃんかよ……?」
「添い寝だよ? 昔はよくしてあげたでしょう?」
「そうかも……だけど、いきなり目を覚ましてそこにいたらびっくりするだろ? やめてくれって」
「でも……恭くん? うなされていたみたいだし……悪い夢でも見たの? お姉ちゃん、大心配」
「えっ? 夢? 夢とかは覚えてないけど……う、うなされてって……多分、ねぇねが横にいて暑苦しかったからじゃないかな?」
何か全身が汗まみれになっているのに今気付いた。
恭介はとりあえず額の汗を拭おうとし、右手を伸ばそうとして、
「えっ? あ、あれっ?」
「どうしたの、恭くん?」
「い、いや……何か腕が動かないっていうか……」
後ろ手に回った両の腕が固定されているように動かせなくなっていた。
「あー、恭くんの腕と足ならお姉ちゃんが緊縛しといたよぉ~」
「き、き、緊縛って、何それ!」
「ほら、恭くんの快眠が妨げられないようにね」
「い、意味分かんないし! 無茶苦茶妨げられてるし! いいから解いてよ、ねぇね!」
「大丈夫だよ、恭くん、汗を拭きたかったんだよね? お姉ちゃんが拭いてあげるから」
「いいから外してくれって」
「遠慮しなくていいよ。お姉ちゃんが全部してあげるから」
「ちょ、ねぇねってば……」
抵抗を見せる恭介。それに構わず藍里は汗を掻いた恭介の額をタオルで拭って、次いでTシャツを上までめくり上げた。
「いや、だから……ねぇね……何して……」
「ねえ、恭くん? 聞いていい?」
「えっ? 何? その前に拘束を解いてって」
しかし藍里は恭介のその申し出を軽く無視して、
「恭くんは……あの女と……九条結愛とどこまでいったの?」
「えっ? ど、どこまでって……映画とか……遠出しても海とか……」
「ううん、そういうことじゃなくて……エッチはしてないんだよね?」
「えっ! ああ……して……ないけどさ」
「そっか……よかった」
藍里は心から安堵したような表情になって、
「恭くん? 約束だよ? 恭くんの童貞はお姉ちゃんのだからね?」
「えっ? そ、そんな約束……俺たち姉弟だよ? 何言ってんだよ?」
というかこんな状況で……無理やりされたら逃げ場がない。
恭介は頬の筋肉をピクつかせつつ、
「ね……ねぇね? 早まっちゃダメだかんな?」
「そうだね? 明日は早いからそろそろお姉ちゃんも寝ないとだね?」
「んっ? はっ?」
「それじゃあ恭くん。おやすみね?」
「あ……寝るんか。うん、おやすみ……って、こらっ。拘束解いてよ、ねぇね!」
しかし藍里は、うふふっと笑うと、そのまま恭介の胸に顔を埋めて静かに目を閉じた。
「何の冗談を……ね……ねぇね? えっ? ねぇね?」
演技なのかマジなのか、既に姉は弟の胸の中で寝息を立てていたのであった。
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