そうだ、トイレに行こう。

 トイレに関しては色葉に事前に言われていた。


 お昼休みまでは大丈夫だと思うからその時に用を足す予定でいるけどダメなようならその前にメールしてくれ、と。


 とりあえず色葉の言う通り、お昼までは持った。その場合、メールはしなくていいので昼食の前に体育館の前で落ち合おう、そう約束していた。

 その後どうするつもりかは知らないが、色葉には考えがあるようであったのでそれに従うしかなかった。


 恭介はお昼休みになると、色葉が教室から出るのを横目で確認し、自身も後を追うように立ち上がった。


「あ~、色葉ちゃ~ん? 待って~」 


 依子が色葉の横について、


「おトイレ~? だったらわたしもいく~」


「い、いえ……違いますよ、依子さん」


 おトイレだけど向かう先はトイレでないし、一緒に行ったら用を足せなくなってしまう。


「わたしが向かうのは保健室ですので」


「え~、具悪いの~? だったらわたしが付き添ってぇ~」


「あ……それも……大丈夫です。ちょっと顔を出すだけですので。依子さんはお先にトイレにどうぞ」


「そうなの~、だったらそうする~」


「はい、そうしてください」


 恭介は粘り気の少ない依子にホッとし、待ち合わせ場所の体育館に向かった。




「恭ちゃん、こっち。今誰もいないから」


 待ち合わせ場所の体育館前に到着すると、色葉が待っていて、手招き、体育館の中へ誘導した。


「お、おい、どこへ? トイレは……?」


 てっきり恭介は、ここで待ち合わせ、使用頻度の少ない屋外のトイレへと移動するものだとばかり思っていたのである。


「っていうか、色葉? そ、その手に持っているのは……?」


 色葉の片方の手には、なぜか以前遠足等で使用していたが最近は使用していない恭介の水筒が握られていたのである。


「そのまさかだよ? トイレに二人でいるところみられるとまずいし」


 色葉は言うと、バスケットボールや跳び箱などが格納されている用具置き場の扉を開けて恭介に入るように促した。


「ちょ、ここで、そこにしろってのか? ここの方がリスクが高くねーか?」


「大丈夫、ちゃっちゃっと済ませば見られないから」


「も、もう一人でトイレでさせてくれないかな?」


「ダメ! 恭ちゃんにそんな姿見せたくないもん!」


 女の子としてそれは当然のことかもしれないが、色葉は、こんな状況であっても自身の排泄姿を恭介に見せたくないらしかった。


「わーった。だったら誰か来る前にとっとと済ませるぞ。立ったままでいいのか?」


 恭介はスカートの下に手を突っ込んでショーツを躊躇なく膝下まで一気に下し、目を閉じてスカートを捲り上げようとしたその時、


「待って、恭ちゃん? その前に恭ちゃんに謝らなきゃなことがあるんだけど……聞いてくれる?」


「えっ? 何? 何でもいいけど……早くしてくれる? さっきから我慢していたんだけど?」


 恭介は、太ももをすり合わせつつ言った。

 お昼休みまでなら何とか耐えれそうと頑張っていたが、そろそろ限界に近付きつつあったのだ。


「うん。え~っとね、さっき朝倉君にDVDを渡されたの」


「……あっ!」


 額にじわっと汗を滲ます恭介。

 朝倉に貸していた花蓮ちゃんのDVDのことをすっかり忘れていたのである。


「恭ちゃんは男の子だしそーいうの見ておちんちんイジるのは仕方ないよね?」


「えっ? お、おう……そうなんだよ? ははっ……」


 笑顔で言ってくれた色葉に引き攣った笑みで返す恭介。

 どうやらその辺は色葉も理解してくれているようで安心したのだが……


「でね、そのエッチな格好をした女の子があまりにも結愛さんにそっくりで……」


「は、ははっ……」


 バレてーら。


「それでね、恭ちゃん。びっくりして落しちゃって……割っちゃったんだ。DVDを。真っ二つに。ごねんね?」


「えっ? 割れた?」


「うん。ごめん。許してくれる……よね?」


 と、満面の笑みで訊いてくる色葉。


「あ、ああ……ま、まあ……割れちゃったんなら……ははっ」


 本当はよくはないが致し方なし。しかしおかしい。普通、割れたりするのか? いや、落としたくらいで割れたりすると思えないし……わざとなのだろうか?


「そっか~、よかった……」


 色葉は平坦な胸を押えて安堵したような仕草を取りつつ、


「じゃあおトイレしていいよ? 目を閉じてスカートを上げて」


「う、うん……頼む」


 恭介は指示に従い目を閉じたまま、中腰の態勢で待ち受けていた色葉の真ん前でスカートを捲り上げた。

 既に爆発寸前だったりしたし、この状況で誰かきたらヤバイので早く済ませたかった。


 色葉は恭介の太腿に触れて少し股を開かせるようにし、水筒を宛がう。


「それじゃあ……いいよ?」


「う、うん……んんっ!」


 恭介は慣れたもので、立ったまま力をこめる。


「あっ! 待っ……蓋……!」


「えっ?」


 色葉は慌てたように言ったが、時すでに遅し。

 恭介は我慢していた尿意を、一気に開放していたのである。


「きゃっ!」


 その異変を察知して何事かと思って目を開けると驚愕し、びくっと身体を震わした。

 なぜならそこには、尻餅をつき、恭介の排尿を手でガードする色葉の姿がそこにあったからである。


 どうやら色葉は、水筒のキャップを一つ取り忘れていたらしかった。

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