お風呂
「あわあわ。あわだらけ」
「うん、けどもう流しちゃうから目、瞑って。目に入っちゃうと痛い、痛いだから」
「は~い」
恭介はシャワーの湯で、色葉の長い髪をすすいであげる。
綺麗な髪だ。手入れなどは大変そうだけれどもしっかりと行き届いている様子であった。
「よし。こんなもん……かな」
一通り泡を流し終えるとシャワーを止め、色葉に言う。
「もう目を開けていいぞ、色葉?」
前傾姿勢になっていた色葉は上体を起こすと、犬のようにふるふると頭を振った。
「をいっ!」
背後にいた恭介に、水分を含んで重量が増した色葉の髪が襲い掛かる。
慌てて仰け反り両手をマットにつけてそれを回避。
色葉の髪から放たれた飛沫だけを浴びるにとどまったが、その様子を鏡越しに見ていた色葉が鏡の中の恭介を指さし、きゃははっと笑った。
「ったく」
無邪気そうに笑う色葉に釣られ、恭介も微笑ましく笑った。
「そしたら次はいろはの番ね?」
「んっ?」
色葉はくるっ反転して恭介と向かい合うと、仰け反った恭介の股の合間に尻を割り込ませ、自身もリラックスしたように両脚を広げると、恭介の太ももの上に乗せて伸ばした。
恭介はその色葉の一連の行動と密着度に、身体が硬直し、若干、呼吸が荒くなってしまう。
「……い、色葉……ちゃん? 何をしているのかな?」
「えへへ、次はいろはが恭ちゃんの頭を洗ったげるの~」
「……お、俺は自分で洗えるよ?」
「いやっ! いろはが洗うのっ!」
「そ、そうなのかい? まあ……す、好きにしちゃってください」
恭介が諦めて言うと、色葉は「うん」と元気よく頷き、弱めにシャワーを出して恭介の髪を湯に馴染ませる。
「ね、ねえ、色葉ちゃん? 何でこの態勢なのかな? 後ろからの方がやりやすくない?」
「後ろからだと恭ちゃんのお顔、見えないもん」
色葉は言うと、シャンプーの容器に手を伸ばしてしゃこしゃこし、手のひらの上でもこもこにシャンプー液を泡立てた。
「恭ちゃん、少しだけ頭、下げて~」
恭介は言われるがまま、頭をわずかに俯かせる。
するとまず目に飛び込んでくるのは、水滴を弾きまくっている白くて大きな二つの健康的な膨らみであった。
間近で見るとやはり迫力が違った。
このまま顔を埋めてしまいたい衝動に駆られるがぐっと我慢の子。
「それじゃあねいくね~」
色葉が泡立てたもこもこを恭介の髪になでつけるように乗せて髪と馴染ませる。
先に泡立て髪も湯で濡らしていたから馴染みが早い。洗い方も丁寧で、まるで頭皮をマッサージするように洗っていく。
恭介なんかはシャンプー液を手のひらに出したら直に頭に持って行ってしまうが、いつもそうしているのか色葉は手順よくやっているように思えた。
そんなことに感心する恭介は、今、普段見えない彼女の脇の下を覗いて見ていた。
毛は生えていない。元々生えない体質か? いや色葉はそれなりに毛深かったし、幼女化する前に処理したと考えるのが妥当か? とにもかくにもその辺が無頓着になって、夏場とか薄着の季節に他の人に見られて色葉が恥を掻かぬよう、今後も脇の下を見る機会があればその都度チェックしていこう。
「んっ? を、をう……」
再び視線は胸に戻る。
色葉が恭介の頭をシャカシャカするたびに、柔らかそうな胸がプルプルと震えているのに気付き、魅入ってしまったのである。
それは金を払ってでも見る価値のある絶景なポイントであった。
そして色葉はシャワーで恭介の髪をすすぎ、洗い流したのだった。
「それじゃあ少しお湯に浸かって温まってから出ようか?」
「うん。恭ちゃんも一緒ね?」
と、にこにこしながら色葉は言ってきた。
しかし一緒に湯に浸かるには、うちの風呂ではちょっとばかし狭かった。
「俺はいいから、色葉だけ入りな。俺は後からゆっくりと入るから」
「いやっ、一緒に入るの」
と、我儘を言ってくる色葉。幼児退行し、若干、聞き分けが悪くなっている様子であった。
「うん、うちの風呂じゃ二人いっぺんにはむりなの。だから色葉だけ入りな」
恭介は優しく諭すようにそう言うも、
「入れるよ? 前は入れたもん」
と、色葉は主張してきたのである。
まあ、言いたいことはわかった。どうやら色葉は子供の頃記憶でそう言っているのだと思われた。確かに小さい頃は二人で入れたのである。しかし今は二人とも成長し、どう考えてもうちのこじんまりとした浴槽には二人でゆったりと浸かれるスペースはなかった。
「しゃーない」
今の色葉に口で説明するのは無理そうだったので、実演して見せることにする。
「んじゃ、俺が先に入ってみるな?」
恭介は浴槽に足を踏み入れ、ゆっくりと湯船に肩まで浸かって見せて、
「なっ? 二人で入るスペースは――んっ? を、をいっ!」
色葉も後に続けとばかりに、浴槽に片足を突っ込ませ、恭介がそれを避けようと足を開いたところにもう片方の足を浸からせる。
「い……いろは?」
恭介は、引き攣った表情で色葉の形のいい尻を見上げつつ、
「な……なっ? む、無理……だろ?」
しかし色葉はそのままゆっくりとお尻を下していき、
「を……い?」
そのまま恭介の太ももにその柔らかなそうなお尻を乗っけたのだった。
更に色葉はそのまま後ろに倒れ込み、恭介へと寄り掛かった。
「えへへ、入れたよ?」
「は、入れたって……」
どきまぎとしながら恭介。色葉は恭介の手を自身の腰に回させ。へその前で組ませると、その上に自身の手を置いた。
「恭ちゃんとお風呂。なんかおちつくね~」
無邪気にそんなことを言ってくれる色葉とは対照的に、恭介の心臓はこれまでにないほどにバクついていた。
さすがにこれだけ密着されて、変な気が起きないわけがなかった。
しかし今の色葉に何か間違えを起こすような真似は、絶対にあってはならなかった。
幼女化している色葉に対してもそうであるが、もし何かを暴走してしでかしてしまったら、色葉や自身の親の信頼をも裏切りかねない行為と思われたからである。
恭介は、色葉とお風呂に入る前の出来事を思い出していた。
ちょうど風呂に入ろうと思っていた頃合いに、階下で客人が来たようで、チャイムが鳴った。
母が対応するので恭介が出て行く必要はないと思ったが、「恭介~っ! 降りてらっしゃ~い」というその母の声が階下から響いてきた。
どうやら客人は恭介に用があるらしかった。
しかしこんな時間に誰であろうか?
恭介はトタトタッと階段を駆け下りて、
「……い、色葉?」
客人は、色葉と色葉の母の二人であり、玄関口に佇んでいた。
「こんばんは、恭介君」
「こ、こんばんは、おばさん……」
恭介は頭を軽く下げると、チラッと色葉の方を見やってから、
「え~っと、俺に用……ですよね?」
おそらくは色葉のことだろう。
「ええ、悪いわね? 色葉をね、お風呂に入れてもらおうと思ってね」
「ああ……なるほど。風呂釜でも壊れたってことですか?」
どうやら風呂を借りに来ただけなのだと思ったが、
「いえ、恭介君に色葉をお風呂に入れてもらおうかと思ってね」
「は、はぁ~?」
どういうことかと詳しく聞いてみれば、色葉がお風呂に入るのを嫌がり、「恭ちゃんと一緒じゃなきゃ、いやっ!」と駄々をこねているということで、色葉をこちらに連れてきたとのことだった。
「む、無茶言わないでくださいよ、おばさん」
色葉に関しては引け目を感じている部分もあるが、かといってさすがにその申し出を受け入れるのはマズいと思ったのである。
正直、一緒にお風呂に入ったりなんかしたら、理性を保ち続ける自信がなかったのである。
「いいじゃない、恭介。入れてあげれば」
「いやいやいや、母さん。年頃の男女だから! 色葉が元に戻って知ったら、絶対に怒られるから!」
「問題ないわよ。裸で入るわけじゃないんだもの」
「問題あるよ! 裸で入る……えっ? 裸じゃない?」
思わず恭介は、そう母に訊き返していた。
どうやら色葉の母も裸でのお風呂はNGであったらしく、水着を着てなら一緒に入ってもいいよ、とGOサインを出したとのこと。
つまりは恭介にも水着を着て色葉の面倒を見て欲しいということらしかった。
「な、な~んだ、そういうことなら……」
と、そんな感じで安請け合いしたわけだが……
「こ、こうも密着されるとな……」
いくら全裸ではないとはいえ、これだけ肌と肌を合わせていると、平常心を保ち続けるのは厳しいように感じられた。
しかし色葉の母にも信頼され、色葉を預けられているわけだから、ちょっとした間違いでも起こすわけにはいかなかったのである。
こうなればもう、色葉の温もりを部屋に持ち帰って、一人でシュッポッポするしかないだろう。
色葉の温もりを全身に記憶するため、恭介は目を閉じて神経を極限まで研ぎ澄ます。
色葉の背中の温もりに、その感触。太ももに沈み込む水着越しの尻肉。
それら皮膚から感じ取れる情報をすべて脳に叩き込み、お持ち帰りするのである。
きっとそれでごはん三杯はいけると、恭介はそう思った。
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