全裸待機
「何でこうなっちまうんだ……」
湯船に浸かりながら思う恭介。
せっかく元の幼馴染の関係に戻れるかと思ったのに、またぎくしゃくとなってしまった。
先ほど殴られた左の頬をさする。殴られた痛みは既になくなっているが、色葉の表情を思い出すと、心がチクッと痛んだ。
こんなことになるのであれば、初めから真実を伝えておくべきだったのかもしれない。確かに色葉は恭介の前でいろいろなことをしたが、恭介だって同じように恥ずかし姿を色葉に晒したのだ。
お互い様なのであるから痛み分けということで、最終的に笑い話にもっていけばよいのではないか? そうした方がよっぽど建設的ではないだろうか?
どちらにせよこれ以上関係が悪化するわけもないのだし、真実を語って清算するというのも一つの選択肢であるのだけれど……
その勇気が湧かなかった。彼女に真実を伝える勇気が。
恭介は湯船から上がり、バスタオルで体を拭き、衣服を着用していく。
「やっぱ何もしないのが一番か……な?」
何があっても色葉は恭介のことを嫌いにならないと思う。だから時が解決してくれるのを待つというのも一つの手かもしれないと考えたのだ。
何しろ色葉は、催眠術で恋心を奪った後も、使用済みのティッシュは毎日しっかりと回収していたのだから。
恭介の前ではどことなく元気がないように見えた色葉であったが、恭介でソロ活動を欠かさず毎日しているようだし、とりあえずは大丈夫であろう。
今日だって、何だかんだあったが、色葉はゴミ箱を漁って使用済みのティッシュを……
「……回収してない?」
風呂上りに部屋に戻り、ゴミ箱を確認してみたが、使用済みのティッシュは回収されていなかった。
回収するタイミングを逃したのだろうか、それともやはり先ほどの出来事のせいか?
毎日欠かさず回収していたティッシュが残っているということは……
恭介は表情を青ざめさせた。
「マジで、愛想をつかされたかな……」
当初は使用済みのティッシュを回収されるのが恥ずかしかったのだが、慣れてしまった今は、されない方が不安に陥るという訳の分からぬ状態になっていたのである。
「ま、まあ、今日だけだよな……」
そう思ったが、違った。
次の日も回収されていなかったのである。そして次の日も。そのまた次の日も。
「もう……必要ないのか……」
恭介は寂しそうにため息をついた。
そして使用済みのティッシュをゴミ箱に捨てるのを止めることにした。
やはり正直に話しておくべきであったのだろうか?
しかし今更後悔したところで既に後の祭りであった。
◆
色葉はハッとし、目を覚ます。ショーツがずり落ちたまま。
どうやらオナニーした後、そのまま眠ってしまったらしい。
目にいっぱい涙が溜まっていた。
とても嫌な夢を見ており、眠りながら泣いていたらしかった。
どんな夢かというと、色葉は恭介の部屋のマットレスになっており、おちんちんをこすりつけてもらおうと待機していたのに、恭介は結愛を連れ込み、色葉の上で愛の営みを開始してしまったのである。
思い出したらまたポロポロと涙が溢れ出してきた。
「嫌だよ、恭ちゃん……」
こんな夢を見るなんて、もう限界であったらしい。
色葉が必要としているのは恭介の温もり。
一度冷静になる必要があると思い、使用済みティッシュの回収すら控えていた。
そのため、圧倒的に恭ちゃん成分が不足していたのである。
それは幾度オナニーしても補えるものではなかった。
距離を取ってみた結果、改めて自分がどれだけ自分が恭介を必要しているかを再確認したのである。
もう自分を抑えるのは止めよう、そう思った。
そうなったら行動あるのみ。
色葉は恭介が風呂に行った思われる時間に、恭介の部屋に忍び込む。
「恭ちゃんの部屋の匂いだぁ~……」
恭介の部屋の匂いを久々に堪能しつつも、あまり悠長にしてる時間はないと、ゴミ箱を漁る。
「えっ? あ、あれ? な……ないじゃん!」
お目当ての使用済みティッシュが見当たらなかった。
今日はまだしていないのだろうか?
「せっかくきたのに……」
今までは自身を抑制していたが、スイッチが入ってしまった以上、何もしないで帰るわけにもいかなかった。
「…………」
色葉はクローゼットに侵入した。恭介がこれからオナニーするのであれば、それをオカズにオナニーしようと考えたのだ。
とりあえず色葉は全裸になって待機することにした。
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