おしっこしー、しー、しー。

「せ、瀬奈君? おトイレに……その……付き合ってもらって……いいかな?」


 もじもじとしながら結愛が言ってきた。

 おそらくは先日のデートの失敗を踏まえて、オムツを今のうちに取り替えておきたいのだろう。


 恭介はそう思って結愛と一緒に公園のトイレに付き添うことにした。

 恭介は最近建て替えられた小奇麗な外観のトイレ前までくると、


「んじゃ、後で。ついでだから俺もしてくるから」


 と、男子トイレ側のドアをギーコと押し開ける。


 しかしトイレ内に一歩足を踏み入れた瞬間、


「あっ、せ、瀬奈君……?」


 結愛に呼び止められ、トイレのドアを半開きの状態で支えつつ振り返る。


「んっ? どうかしたか?」


「……な、中に……人……いたりする……のかな?」


「中って……男子トイレのこと?」


 恭介は顔を覗き込ませトイレ内部をぱっと見回し、


「え~っと、大の方も……うん。いないけど……それが?」


「そ、そう……なんだ。だ、だったら……わたしも……そ、そっちに……」


「んっ……あっ? えっ?」


 困惑する恭介の脇を結愛は足早に通り抜け、男子トイレ内部に侵入する。


「な……何してんの?」


 結愛は頬を真っ赤に染め、


「う、うん……瀬奈君にここで、お願いがあって……その……」


 と、スカートをゆっくりとめくり上げて見せてきた。


「!」


 恭介は結愛が取った行動に目を丸くし、それに釘付けとなった。

 パンチラどころではない。パンモロ……いや、オムモロであった。


「せ、瀬奈君? え~っと、あ、あんまり見られると……は、恥ずかしいんだけど……そ、その……」


 結愛はそこで少し間を開けてから、


「お、オムツを取り替えてもらって……い、いいかな!」


 思い切ったように言ってきた彼女に恭介は目をパチクリとさせて、


「は……はい?」


 と、自身の耳を疑ってそう訊き返した。


「オムツ……濡れちゃったから、瀬奈君に取り替えてもらいたいかなって……だ、ダメ……かな?」


「お、おう。と、とてもじゃないが……ダメ……な感じじゃないかな?」


 オムツを取り替えるということは、彼女を寝かせてオムツを外し、濡れた部分を綺麗にしてから再び穿かせるという高等技術を必要とする作業である。


 そんなこと、恭介にできるわけがない。


 仮にそんな高等テクニックを恭介が持ち合わせていたとしても、平常心で結愛のオムツを取り替える自信がまったくなかった。


「そ、それなら……」


 瞬間、結愛のスカートが床にすとんと落ちた。


「をいっ! な、何して……」


「う、うん。は、恥ずかしいけど、瀬奈君に……その……おしっこするの手伝ってほしくって……」


「て、手伝うってなんだよ?」


「うん。わたしの両足を後ろから持ってもらって……しー、しーって……掛け声とかかけてもらえると嬉しいかなって……」


 どうやら結愛は、幼児とかを便器に向かってさせる際、親が後ろから抱えてさせるようにやって欲しいと言っているらしかった。


 恭介は結愛を開脚開きに抱えている姿を想像して、


「む、無理。持てないって」


 顔を赤くし、正直に言う。


「えっ? わ、わたし……そんなに重くないよ? 太って見える……のかな?」


「い、いや、持てないってのはそーいうこっちゃなくて。恥ずかしいってこと」


「で、でも……こんなこと頼めるの、恋人の瀬奈君だけなの……お願い」


 言って結愛は恭介の前でオムツに手をかけ、脱ごうとしてきた。


「ちょ……すと~っぷ! こ、こんなとこを誰かに見られたら――って?」


 遠くから聞こえてくる足音に耳を欹てる。


「やべっ、本当に誰かこっちにきてね?」


 ヒールの音なら女性であるとわかるが、残念ながら違う模様。この足音だけでは性別は判別できず。もしその人物がトイレに用がある男性であればヤバい。


「と、とにかく九条! そこに……隠れるぞ!」


 恭介は洋式トイレの戸が開いた個室を見やり、そう結愛を促す。


「う、うん……そ、そうだ……よね?」


 結愛も慌てて床に落したスカートを拾い上げ、個室に駆け込み、恭介もその後に続く。


 そして戸を閉めた後、鍵をかけて外の様子を窺った。


 ギーコ……パタンと扉が閉まってペタペタっと近くで聞こえてくる足音にとりあえず胸を撫で下ろす恭介。

 トイレに訪れたのは男性であり、やはり隠れるという判断は正解であったようだ。


「んっ? ってか、俺は隠れる必要なくね?」


 勢いで結愛に続いて個室に身を潜ませてしまったが、男である恭介は隠れる必要がなかったのを今気付いたのである。

 だからといって今更出て行くわけにもいかなかった。

 今個室から出たら、個室の戸を開けたままにしなければならず、そうすれば結愛がいるのがバレてしまうかもしれないからだ。

 どちらにせよ今は小便器の方で用を足す紳士がトイレから去るのを待つしかなかった。


 恭介は壁に手をつき、耳を当て、扉一枚向こう側の様子を窺っていたのだが……


 がさごそと後ろで結愛が何かしているようで、「何してんだよ?」と心の中で呟き振り返る。


「……ぶはっ!」


 結愛は狭い個室でオムツを脱いでいる最中であり、前屈みになっていたせいで、ぷりっとした瑞々しい生尻が、ちょうど突き付けるような形でこちらに向いていたのである。

 恭介は心臓をバクつかせながら許してくれるなら飛びついて頬ずりしたくなるような桃尻から目を背け、個室の扉に顔を向ける。


「せ、瀬奈君……?」


 結愛は顔を背けていた恭介に背を向けたまま、寄りかかるように身を預けてきた。


「ひっ……は、はひぃっ?」


 先程まで穿いていたオムツは予備のトイレットペーパー置き場に畳んで置かれていた。

 身体が強張っていて視線は落せず確認はできないが、密着している彼女の下半身は……


「も、もう……声をひそめなくても……いいよね?」


「えっ? あ、ああ……」


 先程まで用を足していた紳士は、トイレから出て行った様子であった。

 しかし今の恭介は、それどころではなかった。


 下半身がすっぽんぽんの結愛に密着され、彼女の髪からふんわりと漂うシャンプーだかトリートメントだか知らないが、いい匂いが鼻腔をくすぐり、自然と股間に熱が集まり、今にも暴発寸前であったりしたのだ。


「せ、瀬奈君……もうわたし、げ、限界かも……は、早く……お、お願い?」


 切なげな声音で言って来る結愛。

 こうして密着していたらこっちの理性だっていつまで保てるかわかったもんじゃなかった。


「くっ……そ……!」


 もうどうにでもなりやがれ、の精神である。

 恭介は僅かに腰を落とすと、彼女の両の足のひざ裏辺りに手を差し込み、


「ふんすっ!」


 全体重を自身の身体で支え、勢いよく彼女の足を開脚させ、抱え上げたのであった。

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