あっちこっちで放尿

「おはよう、瀬奈君」


「あれっ? どうして……」


 朝。


 結愛は恭介を驚かすために彼の自宅前で待ち構えていた。

 彼の家は把握していた。以前、尾行したことがあったからだ。


 別に結愛にストーカー気質があったわけではない。


 バレンタインテーにチョコを渡そうと思ったけれど、学校では渡せず、タイミングを見て声をかけようと帰りを待ち、尾行していたらそのまま彼の家にたどり着いてしまったのである。

 結局、そのチョコは渡せずに自分で食べた。

 そのチョコはちょっぴり切なくほろ苦い……いや、普通に甘くて美味しかった。


 とにかく結愛は彼と一分一秒でも一緒にいたくて、彼の横を歩く。


 そして、おしっこを漏らした。

 しっかりと尿意を溜め、限界まで我慢し、一気に放出する。


 それは至福の時であった。


 何の変哲もない日常も、ただ放尿するだけで刺激的な毎日に変わりゆく。

 永遠に彼の横でおしっこを漏らし続けたい。


 彼の前でおしっこを漏らせれば他に何もいらないと、本気でそう思った。


「ねえ、瀬奈君? こ、今度一緒に……映画でも、どう……かな?」 


 結愛は恭介をデートに誘う。別に映画でなくてもよかった。


 ただ休日も彼と一緒の時を過ごし、そして、彼の前で尿を漏らしたくて仕方なかった。


 きっと彼の前でなければダメなのだ。


 それはすぐに証明された。


 恭介との交際が始まったある日、結愛は美術部員のクラスメイトに頼み事をされた。


「ねえ、結愛さん? お願いがあるんだけど……ちょっとだけ絵のモデルしてくれないかな?」


「えっ? わたし……が?」


「うん、結愛さん美人だから先輩にね、頼まれたの。うちの部長、可愛い子に目がなくて。どうかな? 引き受けてくれる?」


「え、え~っと……も、モデルってその……ヌードとか……じゃ……?」


「ああ、そういうんじゃないって。制服のまま指示に従ってポーズを決めてもらえばいいからさ」


「そう……なの?」


 本来なら断っていただろうが、彼女にはクラスになかなか溶け込めなかった結愛に気を遣って助けてもらった恩があった。

 それに少しだけ試してみたいことがあり、結愛は彼女のお願いをオッケーすることにした。


「やったー、ありがと。じゃあ、今日の放課後よろしくね?」




「ありがとう、九条さん」


 美術部の部長さんは、インテリ風な印象を受けるメガネの美人さんだった。


「それじゃあ早速頼めるかしら?」


「はい……」


「それじゃあまずは……」


 指示に従い、ポーズを取る結愛。


「目線をこっちに……」「右手をこうね?」「あ、ちょっとだけあごを上げて……」


 次々にくる注文。

 少しだけ面倒くさいかもしれないなと思ってたらその声がなくなって、


「それじゃあそのままで。二〇分したら休憩入るから、よろしく頼むわね?」


「は、はい……」


 独特な緊張感。美術室にいる部員たちの目がすべて自分に向いており、ポーズをとっている自分もふざけてはいけない場所なのだと言われなくても分かった。


 そして黙々と部員たちは自身を描き続け、先ほど言われた通り二〇分経過後休憩が入り、再び二〇分のポージングというサイクルが繰り返された。



 

「ありがとう、九条さん。これで最後だからもう二〇分、お願いね?」


「……はい……」


 ラスト二〇分。


 そろそろだろうか?


 結愛はポーズをとったまま、


「ん……ふっ……」


 皆に見られたまま、放尿した。


 デッサンを続ける中、誰も結愛がオムツの中におしっこを漏らし続けているとは思わなかったろう。

 沢山の人に見られる中での放尿は気持ちよかった。


 しかしそれは尿意から解放されての気持ちよさが大きく、彼の……恭介の前で放尿したときに得られた愉悦はとは全く別物であった。


 やはり、彼の前でなければダメだったのである。


 それが分かったのはいいが、もしバレたら……そのことを考えると、気が気ではなかった。




「九条さん、今日はありがとう」


 終了後、部長さんに声を掛けられた。


「い、いえ……こ、こちらこそ……いい経験になりました」


「そう? ならよかったわ。けど、最後の二〇分どうしたの?」


 部長さんの言葉とメガネの奥の鋭い眼光にハッとなる結愛。


「さ、最後の二〇分……な、何のことですか?」


 もしかして放尿したのがバレてしまったのだろうか?

 もしそうだとしたらこの学校を去らねばならなくなってしまうかもしれなかった。


「いえ、とても艶っぽいというか……急に色気が出てきたから……何か……最後に心境の変化でもあったのかしらと思ったのだけれど?」


 とりあえず放尿の件はバレてはないらしく、ホッと胸を撫で下ろす結愛。


「き、気のせいです……い、色気だなんて……」


 出していたのは色気ではなく、おしっこだったのだから。



          ◆



「お、おはよ、瀬奈君……」


「おはよ……って、あれ? な~んだ。もう、きてたのか? 俺も結構早く来たのに……」


 休日デート。


 待ち合わせの場所に恭介が現れたのは約束の一〇分前。

 しかし結愛は三〇分前から水分を補給し、彼の到着を待っていたのである。


 その結果、結愛の膀胱は既に爆発寸前であったりした。


「んじゃ、行くか?」


「う、うん……」


 ぎこちない笑みを浮かべ、恭介の隣に並び、彼の手を取った。


「えっ?」


 ビクッと少し驚いたように恭介。


「あっ……えっと……手、繋いで……いこ? だ、ダメ……かな?」


「あ、いや……ダメってわけじゃねーけど、ちょっと周りの目が……恥ずかしいかなって……」


「う、うん……わたしも……で、でも……ダメじゃないなら……いいよね?」

 

 結愛は恭介の手の指をこじ開けるように絡めて握りしめる。いわゆる恋人つなぎと言われる繋ぎ方である。


 そして尿意が最高潮に達する。


「んっ……あふっ……」


 握った手に力がこもる。

 結愛は彼の温もりを感じつつ、放尿した。


「九条?」


 その様子を不自然に思ったのか、恭介が結愛の顔を覗き込み訊いてきた。


「ああ……う、ううん……な、何……かな?」


「いや、何か……顔も赤いし、涙目になってるぞ? もしかして……熱でもあるんか?」


「ち、違うよ、瀬奈君? さ、さあ……いこっ……か?」


 結愛はその話題を振り切るように、恭介の手を引いて言った。




 売店で購入した値段分の価値があるかよくわからないコーラで適度に水分補給。


 できればホラー作品が上映されていれば迷わずそれを選んだのであるが、今回選んだのは日本でも有名な海外ドラマのチームが結集して製作されたというサスペンスもの。

 ホラーにしたかったのは抱き着きやすいからであり、結愛はこの映画で数少ない抱き着きポイントのタイミングを計り、緊張に尿意を催していた。


 実は結愛はこの映画を見ようかと恭介に言われた際、既に下見に訪れ一度見ていたのである。

 正直、恭介の隣にいたら尿意で映画どころではなく、後で感想を求められたら困ってしまうし、抱き着きポイントを把握しておく必要もあったからだ。

 

 だから数少ない絶好の抱き着きポイント――犯人がピエロの格好でいきなり登場するシーンで、


「きゃっ!」


 と、小さく悲鳴を上げて、恭介に抱き着いた。


 そして結愛はそのまま彼に寄り添うようにし、今日二度目の恭介で放尿を果たした……




 初めてのデートで舞い上がり、やりすぎてしまった。


 結愛は、今日の失敗ごと洗い流したいようにシャワーを浴びていた。

 調子に乗りすぎた。恭介の前で、漏らし過ぎてしまった。


 オムツの許容量をオーバーし、太ももにツーと伝わってきた生温かなその感触は、今も克明に脳裏に刻まれている。


 まるで死刑宣告のように感じられ、すべてが終わったかと思った。

 結愛は観念し、恭介に語った。


 嫌われてしまったろうか? 


 しかし真実であるから仕方ない。いずれはばれてしまったこと。

 できればこれからも恭介と一緒に歩いていきたかったし、排尿姿を見てほしかった。一緒に尿を漏らして欲しかった。


 そしていずれは……


 結愛は想像する。二人が裸で抱き合い、キスをする姿。

 舌を絡める脳が溶けるようなキス。


 そして最高潮に達したとき、互いに放尿し、肌と尿の温もりを感じ合う。


「あ、想像していたら……」


 再び尿意が……


 結愛はシャワーと一緒に流すように、放尿したのであった。

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